第24陣全ての始まりの日
(人の命を背負う……果たして私にはそんな事できるのかな……)
泣き疲れて眠ってしまったヒスイ様を見ながら、私はさっきの言葉を思い出していた。
「人の命を……俺には背負いきれない」
誰かの命を背負って生きる事は、本人にとって辛くて苦しいもので、あくまで第三者である自分達には到底理解できないものだった。
「ノブナガ様、いらっしゃいますか?」
そんな時、ミツヒデが部屋にやってきた。
「どうかしましたか? ミツヒデ」
「実はヒスイの件で、お話ししておきたいことがありまして」
「ヒスイ様の事で?」
当人の部屋の中で話すのもあれなので、一度彼の部屋から出た。
「それでヒスイ様の事での話とは何ですか?」
「ノブナガ様もご存知ではあると思いますが、彼はここの世界の人間ではないですよね」
「はい。本人も言っていました」
「その割りには私達の事、かなり知っているようには思いませんか?」
「確かに言われてみれば……」
いくつか思い当たる節はノブナガにもあった。それに近い話は彼から聞いていたものの、その意味を私は理解していなかった。
「それが偶然だとは私思えません。彼は何かしらの形で私達の事を知っているのではないでしょうか?」
「何かしらの形とは?」
「例えば私達より遥か先の時代を生きているとか」
「つまり未来を生きているって事ですか?」
「簡単に言えばそんな感じです」
その言葉には一理あった。もしそれが本当だとしたら、今までの事も説明がつく。
「それが最初にミツヒデが言っていた、ヒスイ様が隠している秘密ですか?」
「詳しくは分かりません。しかしそれは彼に直接聞かなければならない事だと思いますよ」
ミツヒデの言う通りだ。彼が何度も話すサクラという人物の事もそうだけど、彼自身の事をもっと知らなければならない。
「少し怖いですが、聞いてみるべきですねやはり」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
熱の影響もあってか、再び目を覚ましたのはその日の夜中。ノブナガさんが看病してくれたおかげもあって、大分体が動きやすくなった。
(そういえば雑炊、食べれなかったな……)
それを待っている間に、色々と思い出してきて、そのまま眠ってしまった為、折角の雑炊を食べ損ねてしまった。
(腹減ったけど、時間も時間だし誰も起きてないよな……)
既に時刻は夜中の二時。日付すらも変わってしまっているので、誰かが起きている可能性も低い。
「ヒスイ様、起きていますか?」
と思った直後、声が聞こえる。ノブナガさんだ。彼女はこんな時間ながら夜食を持ってきてくれていた。
「すいませんノブナガさん、こんな時間にわざわざ」
「そろそろお腹が空く頃だと思ったので、お昼に食べなかった雑炊を温めて持ってきました」
「ありがとうございます。俺も、その、お腹減っていたんです」
「それならよかったです」
少し冷ました後、ノブナガさんお手製の雑炊を口に運ぶ。
「うん、おいしい」
「本当ですか?! 味に自信なかったんですけど」
「すごくおいしいですよ。こんなにおいしいもの食べれて幸せです」
「そ、そこまで言わないでくださいよ。私も恥ずかしいじゃないですか」
他がが聞いたら思わずニヤニヤしてしまうような会話を続ける俺とノブナガさん。熱があって体が寒いせいか、よけいにノブナガさんの雑炊を肌で感じる。
(うーん、生きているって素晴らしい)
「そういえばノブナガさん、お昼はすいませんでした」
「いえ、辛くなった時はいつでも言ってください。私達が力になりますから」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいです。たまに突然思い出すことがあるんで」
「それは昨日、ヒスイ様が命について色々話した原因ですか?」
「原因、確かにそうかもしれませんね」
事の発端は全てあの夢から始まっていたのは確かだし、それでノブナガさんやヒデヨシに色々言ってしまった。
(今の内に謝っておかないと)
一旦雑炊を床に置いて、俺はノブナガさんの前で正座する。
「その、ノブナガさん。俺、ノブナガさんやヒデヨシに色々言ったり、迷惑をかけてしまいました。すいませんでした!」
そして謝罪の言葉とともに、土下座をした。
「そ、そんな改まって謝らなくていいですよ。私も何も知らないで勝手なことを言いましたし、それにヒスイ様のおかげで私、少し考えさせられたんです」
「考えさせられた?」
「確かに私達はいつ命を落としてもおかしくはない時代を生きています。だから命を少し軽く見てしまいました。もっと大切にしないといけないですし、それに」
「それに?」
「ヒスイ様のその思う気持ちは、甘えじゃなくて優しさ、なんですよね?」
優しさ
そんな事を言われて俺はつい目頭が熱くなってしまう。
優しいだなんてそんな事はない
俺はただ後悔したくないだけだ。あの日の悪夢を。
「俺はその優しさで大切な人を守れなかったんですよ」
「サクラという子の事ですか?」
「はい。サクラは俺にとって一番大切な人でした」
「一番大切な人……」
「かつて俺は、異世界へと飛ばされた事を話しましたよね? この魔法を覚えたのもそこだって」
「はい」
「その世界は、実は魔族の手によって支配されかけていたんです。その支配から世界を救ってほしいということで、俺はその世界に呼ばれました。まあ、あくまでサポート役としてなんですけど」
「魔族の支配、どんなものか予想できないですね」
「まあ、非現実的な話ですし、普通人間が魔法を覚えるだなんて、ありえませんから」
そう、あの世界では全てがありえない事ばかりだった。どれも本とかで読んだことがあるような設定ばかりのもので、普通の人に話したら絶対に信じてもらえない。
「その世界を救う救世主、勇者と呼ばれていたのがサクラでした。俺は彼女をサポートする役割で、一緒に旅をしていました」
「ゆうしゃというのは世界で一番強い子ですか?」
「端的に言うとそんな感じです」
実際サクラの実力はそれくらいあった。
「世界最強の女の子と旅をするなんて、すごいじゃないですかヒスイ様」
「べ、別にすごいことなんて何もないですよ」
最初は二人だけの旅路。まだ魔法を覚えたての俺は、サポートなんかろくにできなかった。
けどそんな俺に彼女はこう言葉をかけてくれたのだ。
「いいの。私がいるから大丈夫! だからよろしくねサッキー」
これが全ての始まりである。