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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第23陣弱さは涙へと

 私には生きる価値がない。


 突然ノブナガさんが発した言葉。あまりにも突然の言葉だったので、城に戻ってからも俺はその言葉の意味を考え続けていた。


(ヒデヨシがさっき言っていたけど、ヨシモトが原因なのかな)


 ヒデヨシの言葉を真に受けるとしたら、ヨシモトが原因だと考えられる。伝令が急がしていたのは、これが理由だったのか……。


「ヒスイ、いるか?」


 そんな事を考えていると、俺の部屋に珍しい客がやって来た。ミツヒデだ。


「いるけど、どうしたんだ珍しい」


「お前に一つ聞きたいことがある」


「ノブナガさんの事か?」


「ああ。ノブナガ様がお前を迎えに行って帰って来てから、一度も口を開いてない。何かあったのか気になってな」


 部屋には入ってこずに、扉越しで話をしていくミツヒデ。何故部屋に入らないのかは分からないが、聞いても多分答えないだろうから無視して、事の顛末を彼女に話した。


「なるほど。つまりノブナガ様はヨシモトに何か言われたから、あんな風に」


「詳しくは俺も分からないけど、多分そうだと思う。それに」


「それに何だ?」


「いや、何でもない」


 話しているうちに、ふとある事が浮かんだが、今はそれを口には出さないでおこう。それを言ったら、多分怒られると思うから。


「ヒスイ、一つ頼みを聞いてほしい」


「頼み? 何だ?」


「もしノブナガ様に何か起きたら、お前が守ってほしい。認めたくはないが、お前のその力ならきっと守れる。だから頼んだぞ」


「何だよいきなり。まあ、言われなくてもそうするつもりだよ」


「頼む」


 普段ミツヒデとは滅多に会話をしないので、彼女がどんな人間なのか分からないが、この時だけは少しだけ分かった気がする。

 彼女は誰よりもノブナガさんを大切に思っているのだ。だから俺にこんな当たり前なことでさえも、頼んだんだ。自分よりも優れている人に、プライを捨てて。


(本当変わったやつばかりだな。この世界の人は)


 とても謀反を起こした人物と同一人物とは思えない。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 その後、この話が再び動き出したのは深夜の事だった。ノブナガさんの事をずっと考えてたら眠れず、こんな時間になってしまっていた。


(雨止まないな……)


 外は相変わらずの雨。明日は一日城の中かなと考えていた時、ふと街を歩く人影が目に入った。


(誰だろ、こんな雨の日に)


 雨除けの物も何も持たずに、こんな時間に一人で歩くなんて、普通は考えられない。


(って、まさか!)


 遠くてはっきりとした姿は見えないが、今の状況から考えれば、一人しかいない。俺は慌てて部屋を出て、すぐにあの人影の元へ急いだ。


(ノブナガさん! どうしてこんな事を)


 途中で誰かに呼び止められた気がするが、今は気にしている暇はない。


「ノブナガさん!」


 それから五分後、俺は先程見えた影に追いつくことができた。全速力で走ったからか、もう息切れしている。


「ヒスイ……様?」


 やっぱり彼女だった。今この中を歩きそうな人は、彼女くらいしか思い当たらなかったので、間に合ってよかった。


「どこへ……行くんですか! こんな……雨の中」


「分かりま……せん。私には……もう……何も」


「お願いですノブナガさん! 目を覚ましてください」


「目を覚ましてますよ……。私は充分に」


「だったらどうして、どうしてこんな事を」


「私はもう……戦人として生きる価値が……ないんです。ヒスイ様にああ言われてから、ずっと胸が苦しくて……ヨシモトともまともに戦えませんでした」


(やっぱり俺のせいだったのか……)


 ずっと俺の中で引っかかっていた。ヨシモトとの戦いで、ノブナガさんは急に戦えなくなったとヒデヨシが言っていたからだ。

 何故そうなったのか、元を辿って考えてみれば、俺が飛び出したことが原因だったんだ。


(人の命を大切にするのは当たり前の事、でもそれはこの時代では通用しない。あの世界の時だってそうだったから)


 人一人の命が亡くなって、それを引きずっていては生きていけない時代。でもノブナガさんは、俺の言葉を聞いて考え込んでしまったのだ。


 人の命を簡単に奪っていいのかを


 俺が言った勝手すぎる一言が彼女を悩まし、傷つけた。


 どちらの言葉も間違ってはいない


 だからお互いを傷つけ合ってしまった。正論と言う言葉の刀に。


「ノブナガさん、確かに俺は人の命は大切にしたいとは言いました。しかし戦うな、なんて一言も言っていません」


「それはどういう意味ですか?」


「実は俺、この魔法を教えてもらった世界で、何人も人を殺してしまっているんです。だから若干感覚がおかしくなっています」


 勿論命を軽く見ているつもりはない。むしろその度に後悔とか、次はどうすればいいかとか考えた。その理由は簡単だ。


「でもそれはあくまで倒さなければならない理由があったからで、訳もなしに殺していた訳ではないんですよ。ノブナガさんだってちゃんとした理由があるじゃないですか」


 世界を救いたい


 それ以外の理由はない。そしてそれはノブナガさんだって一緒だ。


「戦う理由? 私は……生き残る為、そしていつか天下を取る為、戦っています」


「それで充分じゃないですか。だから価値がないなんて言わないでください」


「ヒスイ様……」


「だから帰りましょ? 皆の所に」


「はい……」


 俺の一時の感情で生んでしまった誤解も解いた所で、ノブナガさんの手を取って城へ戻る。今日こんだけ雨に打たれたから、明日は風邪ひきそうだな。


「ヒスイ様、私一つ聞きたいことがあるんですが……」


「何ですか?」


「ヒスイ様はどうして、そんなにも命を大切にしたいんですか?」


「どうしてって、それは……」


 当たり前の事を聞かれて、当たり前の答えを返そうと思ったが言葉を止める。


 俺にあるのは当たり前の理由じゃない


「好きだった人の分まで、長く生きたいから、ですかね」


 サクラが歩めなかった時間の分だけ生きなければならない、俺にはその使命があるからだ。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「へっくしょん。ずずぅ」


 翌日、予想通り風を引いてしまった俺は、朝から熱を出してしまい寝込んでいた。


「もう、一人であんな森まで行くからですよ。情けないですね」


 看病は昨日の夜中の件で、少しだけ元気が戻ったノブナガさんがしてくれていた。というか、


「何でノブナガさんは、そんなに元気なんですか? 普通あれだけ雨に打たれたら風邪ひきますよ」


「私はこう見えて頑丈な身体なんですよ。ヒスイ様と違って」


「何かサラッと酷いこと言われ……へっくしょん」


 今日はツッコミにもキレが出ない。薬も一応飲んだのだが、身体が寒くて布団から出られない。


「ヒスイ様、お腹空かれましたか?」


「食欲はあるっちゃ、ありますけど。そんなに食べれないです」


「じゃあ今、軽い雑炊を作ってきますので、ちょっと待っててください」


 ノブナガさんはそう言うと部屋を出て行った。


(ノブナガさんの手作り雑炊か……)


 そういえば、最近誰かの手作り料理食べてないな。熱がある時は誰かに甘えたくなるから、こういう優しさはすごく嬉しい。

 ただ、少しだけ残念なのが、ノブナガさんがまだ元気がないことだろうか。


(そういえば、まだヒデヨシにも謝っていなかったっけ)


 戻ってきて一度会話したくらいで、その後はまだ何も話していない。

 あんな言い方したのだから、一度しっかり謝っておかなければならない。


「はぁ……」


 ここ数日俺は感情的になる事が多かった。特にあの日の夢を見てから、ずっと心の奥にしまっていたものが込み上げ、俺の心を縛り付ける。


(誰かにあたったって意味がない。それなのに俺は……)


 情けない


 悪いのは俺なのに


 力がなかったのは俺なのに


「ただいま戻ってきました。ってあれ? ヒスイ様?」


 自分が醜すぎる


 サクラを救えなかったのは俺なのに……。


 ヒデヨシを傷つけ


 皆に迷惑をかけ


「……俺がいなければ……サクラは……」


 醜すぎる


「ヒスイ様?」


「何が命を大切にする、だよ……その命を奪ったのは俺じゃないか……あの時……俺は……」


 サクラに助けられたんじゃない


 サクラの命を奪ったんだ


(こんな俺が……また誰かの命を奪う事があったら……その時はどうすればいいんだ……)


 ただ苦しかった。後悔してもサクラは戻ってこないと分かっているから、とても苦しくて、どんなに願ってももう彼女に会えないという悲しさが、大粒の涙へと変えていた。


 そんな俺を……。


「どんなに辛くて、悲しくても私達がいますよ、ヒスイ様」


 ノブナガさんは、優しく抱きしめてくれた。そのせいもあってか、俺は嗚咽しながら涙を流し続けた。


「えっぐ……ノブナガさん……えっぐ……」


「いいですよヒスイ様、いくらでも泣いて。私がここにいてあげますから……」


 これが俺が初めてこの世界で見せたら自分の弱みだった。

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