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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第21陣言葉の刃

「ヒッシー……どうしたの? お見舞いに来てくれたのに、浮かない顔してたら私まで元気なくなるよ」


 同日の午後先の戦いで、俺と同様に重傷を負い部屋で安静にしているヒデヨシを、ネネと一緒にお見舞いに来ていた。

 しかし朝の事もあって、逆にヒデヨシに心配されてしまう始末。


「悪い。ちょっと嫌な夢を見てな」


「嫌な夢?」


「ああ。忘れない嫌な夢」


「そんなに嫌な夢なら、忘れればいいのに」


「忘れたくないんだよ。いや、忘れちゃいけないんだ」


「ヒッシー?」


 訝しげにこちらを見るヒデヨシ。俺は自分に言い聞かせるように何度も呟いた。


(忘れるものか。絶対に)


「もう! お姉様の前でなにしているんです! だからあんなボロボロに負けるのですわ」


 少し元気がない俺を、何故か元気なネネがからかう。こういう時に、そういうのを言われると、すごく腹が立つ。


「戦ってない奴がよう言えるな! 勝手に捕まっておいて」


「何をー! あーあ、あの時助けに来た時は格好いいと思ったのに。やはり私はお姉様一筋ですわ!」


「全く、何を言っているんだよお前は……」


 でも前ほど酷いような感じはしなかった。まだ戦いの疲れが取れていないからなのかもしれないけど、それ以上に三日間を共に乗り越えた仲間だ。


 少しだけ関係も良好になった、はず?


「とりあえず一件落着ということで、今日は解散! ほら、二人とも部屋を出て行って」


 お見舞いに来たというのに、部屋を追い出される俺とネネ。ネネは相変わらず文句を言っているが、俺は素直に部屋を出て行こうとした。


「あ、ちょっと待ってヒッシー」


 だがネネが先に部屋を出たところで、ヒデヨシに呼び止められ俺は足を止めた。


「ん? どうかしたか?」


「聞かないの? あの事」


「あの事?」


「ほら、戦いの前に言ったじゃん。私が話があるって」


「あ、そういえば言ってたな」


 戦で色々あって、すっかり忘れていた。出陣する前に、ヒデヨシがそんな事を言っていたな。


「で、話したい事ってなんだ」


「実はね、ヒッシーに一つお願いがあるの」


「お願い?」


「こんな事急に言うのも、あれだけど。ヒッシー、私と結婚しない?」


「え?」


 今なんて言った?


「え? じゃなくて。私を、その、お、お嫁にしてほしいの」


 桜木翡翠の頭が真っ白になった


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ヒデヨシの言葉を理解するのには、五分ほど時間を要した。それほど彼女の言葉は衝撃的だった。


「ど、どうして急にそんな事を?」


「何か急にそう思ったの。ヒッシーのお嫁にならなってもいいかなって」


「いや、だから何で?」


 別の意味で重いヒデヨシの提案に、俺はただただ惑う。


(お前の相手は扉の先にいる、なんて言えないよな……)


「駄目かな?」


「いや、駄目も何も、そういうのは段階というのがあってだな」


「お姉様は渡しません!」


 俺たちの話を聞いていた本来の結婚相手が乱入してくる。


「渡すもなにも、あんたと私はそんな関係じゃないでしょ」


「いいえ、私とお姉様は常にそんな仲なんです!」


「その一方通行な愛情、何とかしてよ!」


「一方通行ではありません。私とお姉様は常にただならぬ関係なんです」


「た、ただならぬ関係なんだな二人は……」


 あら〜。


「ヒッシーも変な勘違いしないでよ! 私は真剣に告白したんだから」


「そうは言われてもな……」


 俺はヒデヨシの納得のいく言葉を思いつかず困る。


「なあヒデヨシ、冷静になって聞いてほしいんだけど、俺はお前のその気持ち受け取れない」


「何でよヒッシー。結婚が無理なら、ヒッシーが言う段階から始めても私は構わないよ?」


「段階以前に、無理なんだよ俺には。たとえそれが、ヒデヨシでなくても」


「どうして? ヒッシーが別の世界から来ているから、とか。それだったら問題ないよ。ヒッシーがずっとここにいればいいから」


「だから無理なんだってば!」


 思わず強く言ってしまう。自分でも驚いてしまうくらいに、強く、そして拒否するように。


「悪い、言い過ぎた……」


「ヒッシー?」


 その後俺は黙って部屋を出た。


(情けなさすぎるだろ俺……)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ヒデヨシへの謝罪の気持ちは、夜になっても消えることはなかった。


(傷つけちゃったよな……)


 ヒデヨシのあの告白は冗談とかではなく本気だったのは分かっていた。だからこそ俺はその気持ちには答えられない。

 ここが過去の時代だろうと、異世界だろうとその気持ちを受け取れない。


(もうあんな思いだけは絶対にしたくないんだ……)


 行き場のない感情に、俺は葛藤を続ける。


 恋をする事


 誰かに好かれる事


 そしてその相手を失う事


 それら全てを経験した俺には、ヒデヨシの想いを素直に受け取る事なんて出きるはずもなかった。


「ヒスイ様、いらっしゃいますか?」


 タイミングがいいのか、悪いのか、そんな時にノブナガさんが俺の部屋を訪ねてきた。


「あ、いますよ」


「先程ヒデヨシさんの部屋を飛び出していくヒスイ様を見かけたのですが、何かありましたか?」


 どうやら用件は先程の一部始終を見ていたらしく、気になって俺の部屋に来たらしい。


「なるほど、そういう事が……」


「俺謝らないといけないんですヒデヨシに。まさか結婚を申し込まれるなんて思っていなかったですし、それに対してどんな答えを出せばいいか分からなくて……」


 部屋に通した後、俺はノブナガさんに一連の出来事を話した。


「ヒスイ様の気持ちは分かります。誰だってそうなります。でもどうしてヒスイ様は、そんなに強く言ってしまったのですか?」


「それにはちょっと深い訳があるんです。それがどうしても、引っかかるんです心に」


「その深い訳というのを、聞かせてもらうことは?」


「できなくもないです。でも、俺にも少し時間がほしいんです」


「無理に話さなくてもいいんです。でもやはり、ヒデヨシさんにはちゃんとした答えを返してあげないと、彼女もきっと辛いですよ」


「そうですよね……」


 だからちゃんと言わなければならないのも分かっている。どうして彼女の気持ちに答えられないのかを。


「ヒスイ様は、その魔法という力はこことはまた違う世界で手に入れられたのですよね」


「はい。以前も話しましたが、この魔法は自分が元から持っていたのではなく、少し前にこことはまた違うところで、師匠に教えてもらいました」


「もしかしてその事とも何か関係があるのですか?」


「ない事はないです」


 異世界で闇を滅ぼす為の旅仲間達と一緒に旅したし、その中で俺はかけがえのない物も手に入れた。けれど、同時に失う物もあった。


「ノブナガさんは、もし自分のせいで誰かが死んでしまったら、どうしますか?」


「いきなり難しい事を言いますね。そうですね、その時は……」


 もし他の誰かが同じ環境にあった時、その人はどうするのか気になった。そしてその問いに対して、ノブナガさんの答えは少し予想外だった。


「私でしたら、その人の分まで生きていこうと思います。特に私達武人は、常にその環境下の中で生きていますから」


「自分のせいで死んでしまってでもですか?」


「はい。ヒスイ様でしたら、どうしますか?」


 同じ問いがノブナガさんから返ってくる。俺だったら、


「俺は」


 俺だったら、


「死なせてしまった事を後悔し続けて、ずっと苦しみ続けます」


「それがヒスイ様の答えですか?」


「はい。俺には乗り越えることはできません」


 現にそれが今の自分なのだから、嘘偽りない答えだ。


「私ヒスイ様は強い方だと思っていましたが、私の思い違いでしたね」


「え? どうしてそんな事をいきなり……」


「今日この日をもって、ヒスイ様を攻撃隊隊長の任を解かせてもらいます」


「え?」


 ……え?


 突然の解任に、俺は戸惑いを隠せなった。


「な、何で急にそんなことを言うんですか?」

 

「今ハッキリしたんですよ。ヒスイ様は、この先戦人として生き抜くことは不可能だと。城から追い出しはしませんが、これから一切の戦への出陣をさせない事にします」


「だからどうしてですか」


「どうしてもなにも、今のヒスイ様の言葉は、到底戦人としては思えない言葉だったからです」


「そ、そんな事は」


「それにヒデヨシさんから聞いたのですが、敵をこの城に招いたようですね?」


「そ、それは」


 恐らくボクっ娘の事を言っているのだろう。あれは本人が引き下がらなかったから仕方がなく……。


「厳しい事を言うみたいですが、ヒスイ様、少し戦を甘く見ていませんか?」


「甘くなんて」


「ヒスイ様はまだ経験が少ないから仕方がないとは思います。でもだからこそヒスイ様に分かってほしいんです」


 ノブナガさんは真っ直ぐ俺を見て、一度深呼吸をした後にこう告げた。


「その甘さはヒスイ様だけでなく、私達を傷つけてしまいます」


 ノブナガさんのその言葉の意味は分かる。俺がしている事は戦において甘いという事を。


 ボクっ娘を招き入れた事もそうだ


 死人に対して未練を持ち続ける事も


 それはきっとこの先多くの犠牲者が出るであろう戦では、枷となってしまう。


 だからノブナガさんはそれが甘いのだと


 織田をまとめるものとしてとても厳しい一言だった。


(でも何でだろう……)


 俺はその言葉を否定したい。


「死を乗り越えられなくて……甘くて何が悪いんですか?」


「悪いとは言っていません。でも過去に縋り続けたら、その先を生きていくことは戦場においては難しいですよ」


「そんなの……できるわけないじゃないですか」


 サクラの死を乗り越えるなんて無理だ


 もしヒデヨシや誰かが死んでそれを乗り越えろと言われても無理だ


 そこまで俺は強い人間じゃない。


「俺には甘さを捨てることはできません。その甘さが枷になってしまうというなら」


「ヒスイ様?」


「分かりました。ノブナガさんの言う通りにします。でも一言だけ言わせてください」


 抑えられない。言ってはいけないと分かっているのに、気持ちが抑えられない。


「死を乗り越えられなくて何が悪いんだよ! 俺はそもそも戦人でもない、普通の人間だ。だから苦しんだっていいだろ! 俺は人の命を軽くにはできない!」


 俺は感情のままにノブナガさんに掴みかかっていた。ここまで感情を爆発させたのは久しぶりだ。


「甘くたっていいだろ!? ボクっ娘だって、諦めずに何度も俺に頼んできたんだ。受け入れて何が悪いんだよ! 俺は自分の意思に反することなんて……できない!」


 俺はノブナガさんを離して、部屋の出口へと歩き出す。


「ヒスイ様!」


「ノブナガさん、短い期間でしたがありがとうございました」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 自分の意思のままに城を出た俺は、あてのない道を歩き続けていた。


「何やっているんだ俺……」


 ノブナガさんは何も悪くない


 正論を言われて腹が立ってしまった俺が悪い。だけどサクラの事を馬鹿にされた気がして、その気持ちを抑えられなかった。


(格好悪すぎるだろ俺……)


 土砂降りの雨が俺の体を濡らす。傘なんてない。雨宿りする場所もない。俺は今ここで一人ぼっち。


(もう戻れないのかな、俺……)


 その雨は、まるで俺の心を表しているかのように、止むことはなかった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ヒスイ様……」


 後悔していた


 彼を……自分の言葉が深く傷つけた事を。


(流石に言い過ぎですよね……。私何も知らない癖に……)


 正論は時に人を傷つける


 まさにその通りだった。そしてそれは相手だけでなく、私の心さえも傷つけた。


(こんなに胸が痛むなんて……)


「ヒッシー、いる?」


 そんな時、ヒデヨシさんが部屋を訪ねてきた。


「って、あれ? どうしてノブナガ様がヒッシーの部屋に?」


 当然の疑問を述べるヒデヨシさん。私はそれに対して、覇気なく答えた。


「ヒスイ様は、行ってしまいました」


「行ってしまったって、どこにですか?」


「分かりません。もうこの周辺にいないのは間違いないです」


「ど、どうしてですか?」


「私が彼を……彼を傷つけてしまったからです」

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