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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第19陣徳川家康

 ヒデヨシとは逆方向に走り出してすぐ、どちらかの軍に遭遇する、


(どっちの軍かも判明させてくれない、か)


「行くぞ!」


 太刀を鞘から抜き出し、敵兵に突っ込んでいく。


(それにしてもこの兵士の数、あまりに多すぎないか)


 三つ巴だからなのかもしれないが

 、織田の兵を抜いてもかなりの数の兵が今まさに戦っている。

 俺はこの敵兵の中をかいくぐっているのだが、数が数だけにかなりの体力を消耗してしまう。

 しかも行く道の幅が途中から一本道になっているせいか、軽いおしくらまんじゅうの中を進むはめになっている。


(こうなるもヒデヨシも心配だな……)


 史実にも残されていない三つ巴の戦い。勿論ここで時代通りの出来事が起きているという確証はないが、結果の分からない戦いに一体何が起きてしまうか分からない。


 ノブナガさんの言葉を思い出す


 もしかしたら今日ヒデヨシが命を落とす可能性だってあるし、この安土城が落ちる可能性もゼロではない。


(歴史基準で考えるから駄目なんだ。歴史の結果がそのままここで起きるなんて分からない)


 改めてそう考えると、不思議と怖くなってきた。急に誰かを失うかもしれないという恐怖。

 その恐怖が全身を襲い、動きを鈍らせる。


(これが戦、なんだな)



「まさか単身で敵を薙ぎはらうとは。相変わらずの力ですわね!」


「っ! 誰だ」


 道を進む途中、どこからか聞き覚えがあるような声が聞こえる。


「この前の借りを返すときがこんなに早く来るなんて思っていませんでした!」


「何! っておわっ!」


 再び声が聞こえたかと思うと、兵の隙間を縫って一つの槍が俺の体を掠めた。こ、この槍は確か……。


「うーん、不意打ちもなかなかうまくいかないですね」


「お、お前は今川義元!」


 俺の初陣の際に戦った今川軍の総大将。何故今彼女がここに?


「そんなに驚かれる事じゃないですよ。知りませんでしたか? 徳川は我が今川の配下にある事を」


「あっ!」


 確かにその事実はある。


「まあそれはどうでもいい事です。今こうして再戦をあなたとできるのですから」


「再戦って、戦ったのはついこの前だろ!」


「戦に早い遅いなどありません。出会ってしまったら敵である以上、刃を交えるのみです!」


「くそっ!」


 予想だにしない人物の登場に俺は思わず動揺してしまう。その影響もあってか、思うように義元と対峙できず、苦戦を強いられてしまう。


「あなたはまだ戦を甘く見すぎています。新戦力だかなんだか知りませんが、経験が足りなさすぎます」


「そんな事分かっている!」


「だったらどうして、あの時と同じように戦えないのですか? それは動揺している証です!」


 その言葉と同時に、剣が弾き飛ばされ、その勢いで尻餅をついてしまった俺に義元は槍を突きつけた。


「どうやら決着はついたようですね。これで織田軍の新戦力もなくなり、滅亡するでしょう」


 まさに絶体絶命の状況に俺は陥ってしまう。魔法を使えばなんとかなりそうな状況ではあるが、消耗がかなり激しい。

 このままだと本陣に到着する前に、魔力は尽きてしまう。


(仕方がない、ここで殺されるよりはマシだ)


 手元に魔力を宿らせ、何とかその場をしのごうとした時、すっかりガラ空きになった彼女の背中を狙う一つの影が。


「おい後ろ!」


 咄嗟に俺は声を出してしまう。敵を助けるのはどうかと思うが、つい言葉に出てしまったのだから仕方がない。


「え? 後ろ?」


「今川義元の首討ち取ったり」


 だが反応が少し遅れてしまった彼女は、それを避ける時間などない。


「ちっ! 頭を下げろヨシモト!」


「あ、はい」


 どうにか彼女を助けるためにまず頭を下げさせ、背後の敵が丸見えになった所で先ほど宿らせた魔法を敵にぶつける。


「ぐはっ!」


 剣をまさに振りかざす寸前で何とか敵を退けることに成功した俺は、そのまま立ち上がり未だしゃがんでいるヨシモトに声をかけた。


「ったく、背後ガラ空きじゃ駄目だろ」


「どうして敵の私を助けたのですか?」


 その声に反応してヨシモトが顔をあげる。


「さあな。咄嗟に声が出ただけだし、気にするな」


「咄嗟にって……。普通敵を助けるなんてありえません!」


「確かに有り得ないかもな。けど目の前で人が斬られるよりはマシだ」


「絶体絶命だった人間が言えるセリフには到底思えませんけど」


 俺の行動が想定外だったのか、動揺を隠せない様子のヨシモト。俺もとっさの行動だったので、何故かと聞かれたら答えずらい。


「絶体絶命って言っても、あの場は何とかなったけどな」


「例のマホウというやつですか?」


「ああ。でも魔法がなければ俺は確実に負けていたから、今回はお前の勝ちでいいよ」


 俺はそう言って太刀を拾い彼女の元から離れようとする。今はこんな所で道草食っている場合ではないので、さっさと先に進まなければならない。


「ちょっとどこへ行くのですか?」


 だが歩き出した途中で、ヨシモトが俺を呼び止めた。


「行くってそんなのこの先にあるどちらかの軍の本陣に決まっているだろ」


「そうではなくて、まだ決着がついてないのに勝手に行こうとしないでくださいって言っているんです」


「いや、だから今回はお前の勝ちでいいって……」


「このまま終わるわけにはいきません! しっかりと決着をつけてください!」


 どうやら全然納得していないらしく、ヨシモトは立ち上がると槍を構えた。


(折角格好よく締めようと思ったのに、これじゃあ逆効果じゃん)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ヒッシーとは別行動をしていた私はある違和感を感じていた。先程から自分が進んでいる道には、徳川軍はおろか上杉軍すら見当たらない。


(道間違えたのかな)


 でもその可能性も低い。私がここまで進んできた道は一本道。だから間違えるはずはないんだけど……。


「答えはこういう事じゃ。豊臣秀吉」


「え?」


 どこからか声がしたかと思うと、前方と後方から敵兵が一斉に沸いて出てきた。


「なっ、どうして」


「お主なら確実にこの娘を追ってくると思っていたからのう。罠を張らせてもらった」


「徳川家康……!」


 その軍を率いていたのはネネを連れ去った張本人、徳川家康だった。しかも囮のつもりなのか、ネネも連れてきている。


「お姉様、私に構わず逃げてください!」


「心配しなくていいよネネ。私が絶対に助けるから」


「お姉様!」


 状況は最悪。けどここで逃げるつもりなんて私にはない。


(ヒッシーだって頑張っている。だから私だって負けられない)


 相棒のハンマーをしっかりと握りしめ、私はイエヤスと対峙する。彼女が使う武器は己の拳。


 向こうの方がリーチが短い分、こちらは幾分か有利、


(ネネの為にも、ノブナガ様の為にも、私は引けない)


「我に対して逃げる気はなしか。まあ逃がさないがのう」


「ネネは返してもらうわよ。そしてあんたを倒して、ノブナガ様をにいい報告をしてみせる!」


「その心意気や良し。かかってくるがよい」


 だから力を貸して、ヒッシー!


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ヒデヨシ?」


 あまりにしつこいヨシモトを相手にしている最中、何故か一瞬だけヒデヨシの声が聞こえたような気がした。


(何か悪い予感がする)


「どこを見ているんですか。敵はこっちですよ」


「あーもう、しつこい! 頼むからヨシモト、ここを通してくれ」


「そうは行きません。ここで会ったら百年目。決着が着くまで私は終わりません」


「ここで会ったら一週間だって。お前に構っている暇はないんだよ!」


 太刀に力を宿す。今度は雷の魔法。これを与えれば、しばらくは動けなくなるはず!


「雷・一の太刀!」


「きゃあ」


 雷を纏った一撃をヨシモトに与える。これは痺れ効果を伴った攻撃なので、直撃したら最後、身体が痺れて動けなくなる。


「ま、また雷ですか?! それに今度はどうして体が……」


「悪いなヨシモト。決着はお預けだ」


 元通った道を急いで引き返していく。今は上杉軍よりもヒデヨシの方が大切だ。せめてこの悪い予感だけは消えて欲しい。


「な、何だこれ」


 そして引き返すこと五分。俺は道を塞ぐ大量の兵達と出くわした。


「まさか」


 俺は不意打ちと言わんばかりに、大量の徳川の兵に向けて風の魔法を使って吹き飛ばす。


「な、なんじゃ」


 聞き覚えのない声が遠くから聞こえる。徳川の兵をあらかた片付けると、少し間隔を開けて第二陣が見えた。


「ヒデヨシ!」


 そこには先程の声の主と、それに捕らえられているネネと、ボロボロになって倒れているヒデヨシの姿があった。


「ヒッ……シー……?」


「何じゃお主」


 当たってしまった。俺の嫌な予感が。義元がこっちにいた以上、俺の方にイエヤスがいるとは考えにくい。


「大丈夫かヒデヨシ」


 俺は慌ててヒデヨシに駆け寄る。酷い怪我を負っているようだが、呼吸はしっかりしている。


「ごめんヒッシー……私……」


「喋るな、今はゆっくり休んでてくれ」


「ヒッシー……は?」


「ネネを助ける」


「でもいくらヒッシーだけでも」


「それでもやる。この借りは……倍返しさせてもう!」


 ヒデヨシを一度安全な場所に移動させた後、俺は徳川軍と向き直る。


(数は圧倒的にこっちの方が不利か)


 その中で一人で戦ったヒデヨシを心の底から尊敬する。


「よくもヒデヨシやネネを傷つけてくれたな」


「誰じゃお主は。我兵を何故一瞬で倒せた」


「俺は織田軍第一攻撃隊隊長、桜木翡翠。お前は?」


「我は天下人徳川家康じゃ。織田の兵ならば、ここで討たせてもらおう」


「それはこっちのセリフだ。ヒデヨシとネネを傷つけた分の借り、きっちり返させてもらう」


「かかってくるがよい!」


『いざ、勝負!』


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「はぁ……はぁ……」


 戦いは一方的な物になってしまった。ここまでにかなりの魔力を使ってきてしまったため、底をつき始めていた。

 おまけにイエヤスが使う格闘術が、俺の相手との距離感を狂わせ、うまく懐に入り込めない。


「どうした、先程までの威勢はどこへ行ったのじゃ」


「ヒスイ!」


 ネネが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。彼女が俺の名前を呼んだのは、初めてな気がするが、今はそこに気を止めている余裕はない。


「まだ……終わってない!」


 残り僅かな力を太刀に込め、至近距離からの一閃。それは確実にイエヤスを捉えたはずだった。だが、


「まだまだ甘いのう!」


「なっ!」


 しかしその太刀をイエヤスは拳で受け止め、空いた方の手で俺の顔を殴りつけ、吹き飛ばされてしまう。


「何じゃ面白くないのう」


「がはっ」


 近くの木にもたれかかる俺。


「これでお終いかのう」


 イエヤスは俺にトドメと言わんばかりに、俺の目の前に足を差し出し蹴りの態勢に入る。

 俺は朦朧とする意識の中で、敵を見据える。俺が最初に懸念していた武人としての実力差。それがこんなにも早く露見してしまうなんて思いもしなかった。


(ヨシモトが言っていた通りか)


 俺には経験が足りなさすぎる。


 ここは異世界じゃない


 魔法とか特別な力のない実力だけの世界


 その実力で俺は勝てなかった


「ヒスイ!」


 ネネも


「やめて……ヒッシーから離れて……」


 ヒデヨシも


「見ておくがよい。攻撃隊長が無様に負ける姿を」


 何もかも全て。


(ノブナガさん……)


 俺は守れ……


「ヒスイ様ー!」


「……え?」


「何じゃ?」


 二日ぶりに聞いたその声に、遠のいていた意識がほんの少しだけ戻ってくる。


「ノブ……ナガ……さん?」


 だがそれも僅か数秒の話。その声の主を確認する直前に、俺は再び意識を失うのであった。

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