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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第17陣仕掛けられた罠

 リキュウさんと別れ離れを出た俺は、そのまま部屋に戻ろうとしたところである事に気づいて一旦足を止めた。


「俺は昨日も言ったはずだぞ。魔法は誰にも教えないって」


 誰もいない場所に声をかける。本来なら誰も気づかないはずの気配なのだが、俺はたったいまそれに気づいた・


「えー何で分かったの? 昨日は全く気付かなかったのに」


 突然俺の目の前に現れるその人物。その正体は勿論、昨日散々しつこかったボクっ娘忍者だった(あくまで総称なので、こう呼ぶことにした)。


「何でかは分からないけど、その様子だと朝からずっと付けてきただろ? というかもしかして帰ってないんじゃないのか?」


「そんなの当然だよ。ちゃんとマホウを教えてくれるまでボクは絶対帰らないから」


「何で懲りないんだよ」


「だって面白そうなんだもん。マホウ」


「面白そうってなぁ……」


 当然だけど魔法は興味本位で覚えられるようなものではないし、第一この世界に魔力すら存在していない。俺が使えているのだって、体内に魔力が埋め込まれているからであって、それがなかったらただの人間だ。だからまず、根本的な問題として誰も魔法を使えるようになんてならないのだ。


(って説明しても分かるわけないよな……)


「今日こそ絶対に教えてもらうから!」


 それなのに彼女は折れようとしない。


「はぁ……」


(何で俺はこんな目にばかり合わなきゃいけないんだよ)


 結局彼女は何を言っても帰ってくれず、どうしようもなくなった俺は、仕方がなく彼女を連れてヒデヨシの元へ来ていた。


「そこまでしつこいなら、ヒッシーも諦めて教えてあげればいいじゃん」


「そういうわけにもいかないから困っているんだよ」


「そういうわけにもいかないって、どういう事なの?」


「まず第一条件としてここには魔力が一ミリも存在していない。魔法というのはまず、魔力がないと使うことすらできない。俺みたいに既に体内に魔力があれば、また別の話なんだけど、そもそもお前達は魔法って言葉すら知らないだろ?」


「うん。私そんなの聞いたことがなかった」


「ボクも。そもそも何を言っているのか分からないよ」


 俺が何を言っているのか分からずポカンとしている二人。予想通りの反応だった。


(そもそも俺が魔法を使えるようになったのだって、あの世界には沢山の魔力に満ち溢れていたからだしな……)


 だからいくら彼女が教えを請いても、俺は断り続けることしかできないのだ。


「これで分かってくれただろ? お前が魔法を使うことなんてありえないし、教えることなんて絶対にできないって事が」


「うーん、何となく言いたいことが分かったけど、でも諦めたくないなボク」


「無理なのは無理なんだって。それにお前には既に忍者としての素質があるから無理に新しいことを覚える必要なんてないだろ」


「忍者としての素質……か。そんなのがあったら、ボクは最初からこんなに教えを請わないよ」


「その言い方だと、まるで素質がないみたいな言い方だけど、昨日の戦い方からしてあれでも充分あると俺は思ったんだけど」


「あんなの基本中の基本だから。ボクはまだまだ下級忍者だから、親方様の役にも立てなくて……」


「そういえば昨日も気になったけど、お前が仕えている親方様って誰なんだ?」


「ボクの親方様は命の恩人、徳川家康様一人しかいないよ。」


「と、徳川家康だって?!」


 いつかは出てくる名前だと思っていたけど、まさかこんなに早く名前を聞くとは思わず、変な声を出してしまう。


(お、落ち着け俺)


「どうしたのヒッシー、そんなに驚いて」


「親方様そんなに有名人なの?」


「有名人もなにも……」


「有名人もなにも?」


「あ、いや何でもない」


 そこで俺は次の言葉を言うのをやめる。徳川家康と言えば、かの江戸幕府を作った人物で有名なのだが、まだ今の年代じゃそんな事起きていない(確か江戸幕府ができたのは千六百年だった気がする)。

 そんな未来の話をしたところで、当然分かるはずがないし、ある意味ではネタバレになってしまう。


(そもそもその通りの事が起きるかも分からないした)


「と、とにかく何でそんな有名な人の下についているのに、敵軍の俺に魔法なんか教えてもらいたがるんだよ。別に下級忍者だとしても他の人に教えてもらえばいいだろ?」


「それが上手くいかないから大変なんだよ。ねえボクに教えてよ。お願いだから」


「無理なんだってば……」


 ここまで必死に言われると、断る方がおかしい様に見えるが無理なのは無理だ。でもこのまま帰したところで、また勝手に帰ってくるだろう。だったらどうすれば……。


「なあボクっ娘、お前が覚えたいのは必ずしも魔法でないといけないのか?」


「そういう訳ではないけど、格好良かったから力をつけるのにいいかなって思っただけで」


 その答えを聞いて俺は閃く。


「じゃあ別に魔法じゃなくてもいいんだな?」


「う、うん。うん?」


「ちょっとついてこい」


 ■□■□■□

 という事で、俺はボクっ娘を連れて闘技場へ。ここでなら彼女に魔法以外のものを教えることができる。


「え、えっと、ボクはこれから何をされるの?」


「魔法を教えることはできないけど、剣の使い方なら教えられると思ってな」


「剣の使い方を?」


 魔法以外で何かを教えられるか考えた時、最初に思いついたのがこれだった。これなら練習すればなんとかなるし、魔法みたいに事前準備とか必要ない。


(戦い方なら俺も色々な人に教わったからな)


 それが通用するかは別だけど。


「別に魔法にこだわらなくていいなら、他の事で少しでも強くなるのもいいと俺は思う。そうすればいくら下級忍者でも、周りが実力を認めてくれるよ」


「で、でもボク剣なんて使ったことは……」


「だからこれから少しずつ教えてあげるって言っただろ? 時間はかかるかもしれないけど、積み重ねていけばきっと報われるよ」


 それは俺もそうだった。元は魔法とは全く関係のない人間だったのだ。けど、色々な経験を繰り返していくうちに、少しずつ成長して、最終的には世界を救った人の一人として名を馳せる事ができた。

 だから彼女だってきっとできるに違いない。人間誰しも努力を重ねれば成長する。


「でもよかったの? ヒッシー。一応彼女敵だよ?」


「そうだけどさ。何かあいつを見ているとちょっと思い出したんだよ」


「思い出したって何を?」


「失敗を繰り返しながらも、誰かの力になりたくて努力していたあの頃の自分をさ」


 何となくだけどボクっ娘のひたむきさは、あの頃の自分によく似ていた。


 誰にも負けたくない


 追いつきたい


 才能とかそういう言葉に縛り付けられない、強くなりたいという意思。彼女もまた、リキュウさんとは別の意味で強い意思をそこに感じた。


「ふーん、私にはちょっと分からないや」


「分からなくていいんだよ。どれだけ努力したのを知っているのは、自分自身だけなんだからさ」


 そしてその間に、どれだけの人を守ってこれたのかを知っているのも自分自身だけなんだから。


「さあやるぞ。時間が許す限り付き合ってあげるからな」


「よ、よろしくお願いします!」


 ボクっ娘の訓練は夕方まで続いた。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 そして終了後、彼女も交えて夕飯を取ることに。


「へえ、ヒッシーって忍者を知っているんだ」


「実際にいるかいないかは別として、そういうのはアニメや漫画の世界だけの人物程度の知識だけどな」


「あにめ? まんが?」


「あ、えっと、簡単に言うとそんなの絶対にいないと思っていたって事」


「ボク忍者だよ?」


「それはよく分かった。だから驚いているんだろ?」


「そっか」


 遠い昔、そういうのがいたって話くらいは聞いたことがあるけど、今となってはその存在が判明しただけでもニュースになっているに違いない。


「でも何かヒッシーってちょっと不思議だよね」


「どうしたんだよいきなり。そんな事言い出して」


「だってさ、ヒッシーはまるで最初から私達の存在を知っているみたいだし、そのマホウだって普通考えたら信じられないもん」


「それは俺が……」


 ここでまた自分が未来から来ている事を口走りそうになり、ギリギリのところで止める。

 それに似たような話はしたかもしれないが、まさか俺が彼女達の未来を知っているなんて言えない。


「ヒッシーが?」


「あ、えっと、お、俺が、ちょ、超能力者だからだ」


「ちょうのうりょく?」


 だがその代わりの言葉が余計な誤解を招くことになってしまった。


(いや、確かに普通の人から見たら超能力者みたいなものだけどさ)


「へえ、シショーはそもそもチョウノウリョクシャなんだ」


「そこで納得されてもこまるし、何だよ師匠って」


「え? だってボクに剣を教えてくれるシショーでしょ?」


「いや、確かに剣を教えているのは俺だけど、その師匠って呼び方恥ずかしいんだけど」


「えー格好いいじゃん。ヒッシー師匠、略してヒッショー」


「変な風に略すな! それだとまるで俺が必ず勝つ人間みたいじゃないか」


「間違ってないよ。ヒッシーが戦ってくれた戦一度も負けなしじゃん」


「いや、そうだとしてもだな……」


 この先必ず勝てるなんて分からない。たとえ強い力を持っていたとしても、それが必ずしも勝利につながらない。


「別に師匠って呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしいけど構わない。でもあまり人前では呼ぶなよな」


「じゃあなんて呼べばいいの?」


「別にヒスイで構わないよ。ヒデヨシだけ変わった呼び方しているけど、大体皆そう呼んでいるから」


「分かった。じゃあ不思議な力のヒスイって事で、フナッスイーって呼ぶね」


「やめろ、それだけはやめろ」


「どうして?」


「何か色々と引っかかりそうだから」


「色々?」


「色々は色々だ。分かったら別の名前で呼べ」


「分かったー」


 思わずあのキャラが時空を越えてしまいそうになった。


 ■□■□■□

 夕飯を終え、ボクっ娘を帰したあと、俺とヒデヨシは寝る準備をするためにこの城の中で最も広い座敷に布団を敷いていた。

 いつもならそれぞれ別の部屋で就寝を取るのだが、昨晩のことも考えてすぐに戦いに出向けるようにまとまって寝ることになった。


「そういえばずっとネネを見かけてないけど、あいつはどこにいったんだ?」


「それが私も昨晩の戦いの前から見かけていないんだ。どこかに出かけた様子も見られないし」


「ヒデヨシすらも見かけていないって、珍しいな。しょっちゅう追いかけっこしているのに」


「私は好きで追いかけっこやってないからね!」


「分かってるって」


 真面目な話、ネネの姿を見かけていないのはあまりに不自然だ。夜戦の際はネネには城の守備を任せていたが、それっきり姿を見ていない。


(何か嫌な予感がするな……)


 そもそも徳川軍が行った今回の作戦、ちょっとおかしい気がする。いくら俺を討つためとはいえ普段から隠密行動をするボクっ娘を最前線に出すなんて、陽動作戦にしてもおかしい。


(ん? 陽動作戦?)


 確かボクっ娘が考えたのは、俺の策を利用して確実に俺を討ち取ろうとした作戦。だから俺は今回の敵将はボクっ娘だと思っていた。だが、もし仮にそれが徳川軍のある行動から俺達の目を背けるものだとしたら……。


(ボクっ娘は言っていた。自分は下級忍者でしかないと。ならもし、ボクっ娘以上の忍がいて、俺たちがそれに気づいてなかったとしたら……)


 導かれる答え、それは……。


「ヒデヨシ!」


「ど、どうしたのヒッシー。いきなり大声なんか出して」


「昨日の戦いの前、ネネはどこにいたか分かるか?」


「確か最後に話したのはネネの部屋だったから、多分そこだと思うけど」


「戦いが終わったあと、一度でもそこに行ったか?」


「一回だけ行ったけど、その時には誰もいなかったよ?」


「してやられた! 徳川の狙いはネネだったんだ!」


「え? どういう事なの?」


「細かいことは分からない。これはただの推測だけど、何かしらの理由で奴らはネネの首を狙っていた。だからあえてボクっ娘を前線に出して、俺達を城の外に出しその誰もいない間に一人の彼女を狙った」


「それってつまり……」


「そうだ。ネネは徳川に攫われた」


 最悪の結論だった。

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