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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第14陣信玄と謙信

 それから二日後の正午、暇つぶしに一人で城下町を歩いていると、何かやたらと広場が騒がしかった。


「何か騒がしいけど、何かあったのか?」


 近くにいた人に俺は尋ねてみる。人だかりはできているものの、敵襲とかそういうものではなさそうだった。


「いつもの喧嘩騒ぎですよ」


「全くあの二人はいつも懲りないねえ」


 周りの人に聞いてみたところどうやら喧嘩騒ぎらしい。しかもいつものとまで言われるほど、恒例のもののようだ。


 人混みを掻き分けながら早速その中心を見てみると、


「シンゲン、あんたは馬鹿だからそういう事言えるのよ」


「ケンシンにだけは言われたくないね。私のほうが頭がいいに決まっているだろ!」


「この減らず口女が!」


「のっぺらぼう女が!」


 どこかで聞いたことがある名前同士が、小学生レベルの喧嘩をしていた。


(上杉謙信と武田信玄って確かに不仲だったけど、これはちょっと……)


 レベル低すぎないか。


「まあまあ二人共、何が原因で喧嘩しているか分からないけど、喧嘩は他所で……」


 周りに迷惑がかかるのもあれなので、二人を止めに入る。二つの軍の総大将が敵の本拠地のど真ん中で喧嘩しているとなれば、流石に放っておけ……。


『あんたには関係ないでしょ(だろ)!』


「ぐへっ!」


 何故かこういう時だけ息がピッタリな二人に瞬殺されました。


「あ」


「またいつもの癖で……」


 癖だったら、まず喧嘩をするなよ……。


 ■□■□■□

『本当にごめんなさい(申し訳ない)!』


 数分後、何故か俺は二人に土下座されていた。確かにちょっと怪我はしたけど、瞬時に魔法を使って威力を弱めたので、さほど大きな怪我にはならなかった。


「まあまあ二人共、そんなに謝らなくても俺は大丈夫だからさ」


「彼女と喧嘩すると、周りの事が見えなくなるのよ」


「この馬鹿と喧嘩すると、周りが見えなくなるんだ」


「誰が馬鹿ですって」


「お前のことに決まっているだろケンシン」


「あんたのやっぱり馬鹿だったわシンゲン。あー、同じ人間として情けないわ」


「やっぱりお前とは決着をつけなきゃいけないようだな」


「望むところよ!」


「だから二人共、喧嘩はその辺に……」


『うるさい!』


 ドスッ


「ごほぁ」


 はい、ループ入りました。


 その後何度かのループを繰り返し、ようやく二人を落ち着かせることに成功したのはいいものの、身も心もボロボロになっていた。


「あ、あのさ二人共、もう謝らなくていいから俺を医者かどこかに連れて行ってくれないかな」


「きゃー、化け物!」


「だ、誰が彼をこんな目に」


 お前らが原因だよ。


 ■□■□■□

 その後俺は二人と別れ、ボロボロになった体で城に戻った。


「ど、どうしたんですかヒスイ様、そのお顔」


「ひ、ヒッシーが化け物に……」


「二人共驚くより先にやる事があるよね? 特にヒデヨシはそれ以上の事言うとネネに突き出すからな」


 二人の反応はあながち間違っていないかもしれないが、まずは心配が先だろヒデヨシ。これだからちびっ子は。


「ヒッシーもさらっと酷いこと言わないで!」


 とにかく酷い目にあった俺は、そのまま治療室へ。ノブナガさんの治療もあり、一時間後くらいには腫れていた顔も少しはマシになっていた。


「もしかしてヒスイ様、あのお二人にお会いしたのですか?」


 治療室からの帰り道、ノブナガさんがそんな事を聞いてきた。あのお二人とは、恐らくケンシンとシンゲンの事を言っているのだろう。


 青い髪で長身のケンシン


 何故か喧嘩の最中も鎧をまとっていた白髪のシンゲン


 どっちも超が付くほどの有名人だ。ただまさかあんな場所で喧嘩しているとは思っていなかったけど。


「その二人って、もしかしてシンゲンとケンシンの事を言っていますか?」


「たった数時間でそんなにボロボロになって帰ってくるのって、あの二人の被害にあった以外では考えられませんから」


「どれだけ迷惑かけているんだよ、あの二人」


 というかそんなに被害者が出ているのか?


「あの二人、仲が悪そうには見えないんですけどね」


「それは全くもって俺も同感です」


 あれだけ息が合っているのだから、不仲になるはずがない。というか本来のでもそんな感じの仲だったし、有名な言葉である『敵に塩を送る』という言葉を生んだのだって、あの二人がきっかけだ。


「あの二人、そんなに頻繁に喧嘩しているんですか?」


「はい。どうやら顔を合わせるたびに喧嘩をしているそうです。私自身が実際に見たことはないのですが、それが起きるたびに被害者が出ていて、二人は必ずと言っていい程その被害者に謝罪しているらしいです」


「どれだけ謙虚なんだよあの二人」


 名武将とも呼ばれている二人が、毎回土下座していると考えると何というかシュールな光景だ。まあ謝らない方がタチが悪いけど。


「でも私はあの二人を結構評価しているんですよ。ああ見えて、戦での腕はかなりのものですから」


「あ、やっぱりそうなんですか」


「え? 何でヒスイ様がそれを知っているのですか?」


「え、あ、いや、何か強そうに見えただけなんで」


「あ、そういう事ですか」


 強そうというか、強いんだけど。


「とにかく今後は、二人に気をつけてください」


「はい。分かりました」


(武田信玄と上杉謙信か……)


 やっぱりというべきか、出会ってしまった。この時代に生きている以上欠かすことのできない人物。


「二人ともいつかは俺も戦うことになるんですよね?」


「そうですね。この道で生きる以上は」


(やっぱりか……)


 あの二人を果たして俺は倒せるのだろうか。


(少しだけ不安だな……)


 もっと鍛錬はしたほうがいいのかもしれない。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 二日後、一週間前に言っていた通りノブナガさんは城をしばらく離れることになった。その間の城の守りは俺がやる事になったわけだけど、


「あの、ノブナガさん。俺すごく不安なんですけど」


「言いたいことは分かりますが、三日間乗り切ってください」


 城に残ったメンツが俺とヒデヨシとネネとリキュウの四人という、何とも頼りない感じになってしまった、

 特にヒデヨシとネネの組み合わせはただの地雷だ。おまけにリキュウに至っては離れに住んでいるので、実質城に残っている戦力は……。


 戦力は……。


「すいませんノブナガさん」


「まだ始まってもいないのに、諦めないでくださいよ!」

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