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第64陣いつか見た星空の下で 前編

「ヒスイ、話があります」


 そう言いだしたのはノアル師匠だった。安全も考慮して、皆には部屋に戻ってもらったあと、一人残った彼女が突然そう口を開いた。


「話?」


「これはあなたの今後に関わる重要な話です。だからどうか真剣に聞いてください」


「俺の今後に?」


「はい」


 その後師匠から語られた事は、俺にとって結構ショックな話で、今後どころかこの先の人生に関わる話だった。


「今回一週間も目を覚まさなかったのが、何よりの証拠です。今まで魔法が使えたのは、私達の世界が魔力で溢れかえっていたからです。だけどこの世界は違います」


「魔力どころか魔法すら存在しない世界だから、ですか?」


「はい。その世界の中であなたは魔力を大量に使い過ぎてしまった。そしてその結果、体内にあった魔力が底を尽きてしまったのです」


「そんな……」


 言われてみればそうなってしまっても、おかしくはない話だった。俺はこの世界に来てから魔法を何度も使っていた。ただしそれが有限であることに気付けていなかった。


「そんなあなたに残されているのは、この世界での死かもう一度私達の世界へ来て、本格的な治療をしてもらうかです」


「つまりこの世界を離れる以外、選ぶ道はないって事ですか?」


「はい。むしろそうしてもらはないといけません」


「でもあの世界への扉はもう開かれないんじゃ……」


「私がどうやってこの世界に来たと思うんですか?」


「あ、そっか。でも俺の世界には?」


「勿論戻す方法がありますので、そこは心配なさらないでください」


 確かにこのままこの世界で死を選ぶよりかは、ちゃんと体を戻して自分の世界に帰る方がいいかもしれない。ただし、それは二度とノブナガさんに会えないことを示している。


 俺はその選択を今すぐ選べるのだろうか?


 二ヶ月という短い時間であっても、俺はノブナガさん達とこの戦国時代まがいの世界で生きてきた。最初は色々ありすぎて、何がなんだか分からなかったけど、馴染んでくると次第に、ここでの生活も楽しくなっていた。


 もっと長くこの世界にいたい。


 もっとノブナガさん達と一緒にいたい。


 まるで我が儘みたいだが、俺の本心はそうなんだ。だから俺は……。


「俺に時間をください、師匠」


「ヒスイ、時間がないのは分かっているんですよね?」


「分かっています。だからこそ……」


 だから俺は……。


「俺にどちらかを選ぶ決意ができるまで、時間をください」


 すぐに答えを出せなかった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 一夜明けて。


「ふわぁ」


「寝れてないの? ヒッシー」


「ああ。昨日ずっと考え事をしていてな」


 いつもの朝を迎えた。特に変わり映えのない朝。


(ここで迎えられる朝も、残り何回なんだろうな……)


 ただ、俺の心はいつものようなものではなかった。昨日師匠と話をした後、俺はずっと悩み続けていた。


 自分の命を取るか、この世界での仲間を取るか。


 どちらが正しい選択なのか分からない。それでもいつかは出さなくてはいけない。それがとても苦しくて、眠りなんてつけやしなかった。


「ヒッシーはちゃんと治療してもらって、元の世界に戻るべきだと思うよ」


「え?」


「正直な話私はヒッシーにここにまだいてほしいと思っているよ。だけどヒッシーには帰る場所があるし、命を大切にしてもらいたい気持ちもある。だって折角助けてもらったのに、その助けてもらった人が死ぬなんて後味悪いでしょ?」


「ヒデヨシ……」


 師匠、俺のことを話していたのか。という事はノブナガさんにも……。


「あ、でもこれはあくまで私の意見だから。ヒッシーが選びたいようにすればいいと思うよ。ただ、後悔しない選択をしてね」


 ヒデヨシは笑顔でそう言った。でもその笑顔はいつものような明るさはなく、どことなく寂しさを感じられた。


「ありがとうヒデヨシ。でもまだすぐには決められないかも」


「それでいいと思うよ。限られているかもしれないけど、悩むだけ悩んでら納得いく答えをヒッシーなりに見つければいいと思う」


「そうだな」


 俺は改めて思う。彼女の命を無事救えて良かったと。もし救えていなかったら、俺は今ごろどうしていたのだろうか? そんな事を考えると、少しだけ俺は悲しくなった。



 その日の午後、ヒデヨシが無事治ったことの記念にとら何故だか俺とノブナガさんとヒデヨシの三人で、城下町のスイーツ巡りをしていた。


「病み上がりなのに、本当よく食べますねヒデヨシ」


 満腹の俺とノブナガさんを置いて、まだ食べ続けるヒデヨシを見て俺は言う。


「彼女は昔からそうですから」


 久しぶり三人だけで過ごす時間。でもその時間ももしかしたら、最後になるかもしれない。


「ヒスイ様」


「何ですかノブナガさん」


「私ヒスイ様と出会えて幸せでした」


「ど、どうしたんですか急に」


「私やヒデヨシさんや他の皆さんも思っていると思いますが、ヒスイ様はこの世界から離れるべきなんだと思います」


「え、でも……」


 ごく自然な流れでノブナガさんが例の件について切り出してきたので俺は吃驚する。


「だってこのままだとヒスイ様、死んでしまうんですよ? そんなの誰だって悲しいじゃないですか」


「そうですけど、治ったらもうノブナガさん達には会えないんですよ? そんなの寂しいに決まっているじゃないですか」


「それは私だって同じですよ。でも……それでも私は、ヒスイ様に生きてもらいたいんです」


「ノブナガさん……」


 すくし重い空気が周りに流れ始める。そんな空気を変えたのは、


「そうだヒッシー、ノブナガ様。あれを見に行きましょうよ」


「あれ?」


「まだ私達とヒッシーが見に行ったあれですよ」


 やはりヒデヨシだった。


 それにしてもあれって、何だ?



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