三浦編
「セカンドステージ」
三浦「!?」
三浦は気付いたらそこにいた。そこ、とはどこなのか。まったく見当のつかない場所であった。
畳が敷かれた床から室内だと理解する。西欧の雰囲気だった以前とはうってかわって和風だ。
三浦(何なんだよ…、あの彫像といいこの場所といい…)
三浦は先程の恐怖がこびりついていた。柱が壊せると分かり、思いきって彫像も蹴り壊した。確かに破壊した。だがバラバラに砕け散った彫像は、一瞬目を背けただけで綺麗に元通りになっていたのだ。それ以降はひたすら逃げ。報復を恐れて、別の足場へと跳び移って逃げている時にたまたま光を見つけたのであった。
三浦(またあの光を探せばいいのか?)
三浦はおじけづきながら、室内を見回る。すると、小さく軋むような音が聞こえるのに気付く。それは誰かが歩いている音に違いない。その音は一定の速度、途切れることなく続いている。ギシ、ギシ、ギシと。方向こそ分からないが、少なくとも三浦の付近から発せられているものではなかった。三浦は深入りしないようにと決めた。
「洗面所」
最後に開けた襖は通路につながっていた。部屋から漏れるわずかな光を完全に打ち消す闇。這うように、とまではいかないが、かなり低姿勢で三浦は歩を進める。
三浦(階段か?)
一段ごとの間隔が狭く、かなりの傾斜である階段を静かに降りる三浦。ギシギシと木の板が軋む。三浦は一階に着いてからも低姿勢を貫く。玄関が開かないと分かった。
三浦(さて、どうしたものかな…)
玄関から右壁に沿って何も見えない中進むと曲がり角がある。と、三浦は目が暗闇に慣れたのか、戸が二つあることが分かった。ゆっくり開けると、一方はトイレだった。窓から漏れた外の光で把握出来たため、数cm開けただけですぐ閉じる。
三浦(もう片方は…)
戸を開けたがよく分からない。窓がついていないせいか。三浦は数歩進んだ。
三浦「うわっ!!」
声を上げたのは、暗闇で何かが動いた気がしたからだ。それは奇妙な動きだったが。
三浦(何だ、鏡かよ)
鏡に写る自分に驚いてしまったのだ。ここはおそらく洗面所なのだろう。
「偶然」
三浦(こーゆー状況だと鏡って危ないよな…)
そう思う前に体が鏡から離れていた。どん、とすぐに壁にぶつかった。この古い造りの家といえどあまりにも狭い洗面所だ。
それでもたまたまだった。三浦はたまたま壁にあった明かりのスイッチを背中で押していた。パチンという音が壁にぶつかる音と交差する。
三浦「うおお!っ……!」
突如として三浦の視界が明るくなる。目の前に飛び込んできたのは。狭い洗面所の中に群がるようにある大量の人形達。どれ一つとして重なっているものはなく、完全に床を覆い隠すように存在している。三浦の足に触れないギリギリの位置まで人形が置いてあった。三浦に何かを懇願するように、人形達は揃って三浦を見ている。
三浦(な、なんだこの人形は!?まさかあの彫像みたいなのじゃ…)
「向き」
洗面台までは流石に人形は置かれていない。まったく足を動かせそうにないが、洗面台にはなんとか手が届きそうだった。よっ、と声を出してほとんど倒れ込むように、上半身の重力を洗面台に預けた。角度を変えると、への形にも見える格好。三浦は鏡にチラリと目をやる。
三浦(……!!)
鏡越しの人形達は明らかに体の向きを変えて、やはり三浦を見ていた。それだけではない。開けたままの戸の先、通路にまで無数の人形達がいるのが見えた。全てが鏡越しの三浦に体を向けて。この洗面所から抜け出すのさえ困難なのに、通路までいられたのではどうしようもない。正直、不気味な人形には触れたくなく、包囲されて動きを制限された三浦。
三浦(畜生…!)
この状況を打開する方法を思案していると、キラリと光るものが鏡に写る。
三浦(何だ?)
少しだけ頭の位置をずらすと、鍵であることが分かる。洗面所の一体の市松人形が新品同様、ピカピカの鍵を持っていた。持っていたというより、正確には着物の帯に刺さっていたのだが。これは何かあるな、とうなずいた三浦は、片手を洗面台に乗せたままでもう一方を伸ばす。届くか届かないか絶妙な距離であったのだ。人形は今にも動きだしそうだったが、三浦はお構いなしに二本指だけで器用に鍵を引っこ抜いた。あやうく体勢を崩して転びそうになったが立て直す。
三浦(何の鍵かは分かんないけど、とりあえず戴いたほうがいいよな、これ。それにしても、どうすんだこの状態…)
三浦は周囲の人形をざっと眺める。洗面所だけで100体近くあるのではないか、と思った。顔をしかめる三浦。
閉鎖は継続している。