疑似少年
とある日。
とある夏の日ことである。昼間はかなりの暑さだったけれども、まるでアスファルトを砕かんばかりの夕立が、その熱を奪っていった。そしてその雨雲は一体どこへ行ったのか、疑問に思ってしまうほど綺麗な夕焼け空が、まばらに残った雲を微妙な色合いに染め上げている。涼しい風が渡っていく。
早めに帰宅する会社員や、学生達の声と喧噪を遠巻きにして、無人の公園に少年は居た。
たった独りブランコに腰掛けている。如何にも中学生らしい大きな鞄を隣のブランコに占領させて、漕ぐ訳でもなく、ただ俯いていた。
ランドセルを背負った小学生4人組が、クラスメイトの話をしながら公園の入り口の前を通り過ぎようとしている。一人だけ後ろ向きになって歩いていた子が、ふと少年に目を向けて、まるで見てはいけないものを見てしまったかのように、気まずそうに目を逸らして素通りしていった。
少年は、顔を上げようともしない。
どこかで鴉が鳴いた。一カ所に群がって、きっとこれから巣に帰るのだろう。鴉だけではない。皆、帰途を辿っている。少年だけが異質だ。
誰一人少年に声をかける者はいない。少年も、どこか排他的な空気を小さな公園に蔓延させている。
風が吹いて、鞄を乗せたブランコがきいきいと音を立てた。少年の黒い髪を撫でていく。夕焼けの鮮やかな色が、少しだけ空の端に追い込められた。
元から、少年には家に帰らなければならないという考えは無かったのかも知れない。頭のどこかでぼんやりと思ってはいても、実行するほどの事ではなかったのかも知れない。どうせいつかは帰るのだと、そう考えていたのかも知れなかった。兎も角少年に動く意思は毛頭無く、ただただゆっくりと暗くなって迫る夜を待っていた。
よう、と誰かが声をかけた。少年はそこで初めて、自分の知らないうちにこの公園に人が入ってきていたことに気付く。
制服のポケットに手を突っ込んだ男子生徒が、少し離れたところに立っていた。背には、少年と同じ大きな鞄が背負われている。
「何してんだ?」
男子生徒は気軽そうに言った。少年はもごもごと、いや、何も、と答える。
「俺、今から帰るとこなんだけど。帰るか?」
少年に、肩に掛けていたテニスラケットを軽く掲げて見せつつ、男子生徒は言う。やっと少年は顔を上げて、緩やかに首を振った。
もう少しここにいるよ。
もう少ししたら、帰るからさ。
この方法で投稿するのは初めてです。一高校生の他愛無いお話ですが、呼んでいただけたのなら幸いです。このお話に結末はありません。いわば中身の無いようなものです。中身のない話などそれこそ到底話にもなりませんが、自由に、心情や状況を想像してもらえればと思います。恐らく誰一人として、同じ疑似少年を読む人は居ないでしょう。
お話のようで、お話ではない。あくまで擬似的な、なりかけの未完。
少年は何を思っていたのか。
少年は、何処へ帰るのか。




