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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

死に竜シリーズ

該当商品が一件ございます。

作者: 宇寿々
掲載日:2026/10/02

死にかけだけど、と変化解除幼竜ポレッタは、商会職員寮の自室で、残った片腕を器用に使い、自慢の尻尾を鼻歌混じりに磨く。


―――明日は遠足♪ 老舗ホテルのピクニックバスケットを持って、赤髪銀目気弱営業員と緑髪碧眼豪胆経理と一緒に、王都の公園でランチ♪ 


窓もない白い実験室の中で千年を生きるより、ほんの少しでいいから、鉄柵で囲われた実験体ケージの中で憧れた、前世の記憶でしか見たことのなかった、真っ青な空の下で生きてみたかった。


―――ピクニックバスケットは商会大得意のおじいちゃん料理長が作ってくれるって♪ お肉かなお魚かな♪ サンドイッチかなパイかな♪ 明日が楽しみだな♪


どこまでも広がる青空の下、大好きな人たちと、美味しいものを食べて、飲んで、笑って、そうやって、この尻尾みたいに、短くても太く生きていきたい、と図太い幼竜は今日もご機嫌に眠りについた。


寝具に埋もれた幼竜の尾に整然と並ぶ鱗は真っ白だ。竜の幼体は色なしで生まれ、成体へと育つにつれて独自の色に鱗が染まっていく。教えてくれるヒトがいなくて、そんなことも知らない幼竜の、歪(いびつ)に歪(ゆが)んだ鱗に色がつく日が来るのかは、開かれた窓から差し込んだ月光にも分からないことだった。




***




快晴となったピクニックの日、赤髪銀目気弱営業員はフィッシュフライのサンドイッチにかぶり付いて、フゴフゴと先日のイケメン案件について語った。


「あのイケメン、実は竜人族で、余命僅かな同族を探してるってさぁ。ウチみたいな中小商会には荷が重いよぅ」


―――余命僅かな竜人族? ほな、私かな。


緑髪碧眼豪胆経理が加熱魔術で温め直し終わったゴロゴロ牛肉入りポットパイを涎垂疑惑受付嬢ポレッタの前に置いた。


「聞いたわ。ヨボヨボの死にかけの老人を見て回ってるらしいじゃない? でも、全然見つからないし、効率も悪いしで、領主さまが代わりに臨時の捜索組織を立ち上げようかって話も出たらしいわね」


―――ヨボヨボが対象? ほな、違うか~。私、まだ十歳だし。多分。知らんけど。


違法実験施設出身生誕日不明竜ポレッタは、木匙をパイに差し込んだ。黄金色に焼き色が付いたバターと小麦の多層構造が、サクッという音と共にブラウンシチューに沈んでいく。芳醇なソースの匂いに、ご飯大好き受付嬢ポレッタは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「お、美味しい」


美味感激受付嬢が目を輝かせる横で、心操作得意営業員は金属製の保冷魔術具に入っていたミモザサラダを木製の皿に取り分けて、野菜も食べなさいと無言飲食中受付嬢に渡す。


「でも、領主さまの提案をイケメン竜人は断ったって話だよぅ。余命が短いってことしか分からないから、いたずらに人数を増やしても見つからないだろうって話。同族の方が見つけられる可能性が高いってぇ」


―――余命が短いだけが条件とな? ……うーん、嫌な流れだ。


同じく保冷魔術が付与された瓶入りリンゴジュースを木製のカップに注ぎ、二人に手渡した情報収集得意経理が、首を傾げる。


「そもそもは、あのイケメン竜人の母竜が、ここの上空で微弱な竜気を感知したらしいわねぇ。ほら、三か月前の海底冥王生誕祭の日よ。未発見の『はぐれ竜人族』が見つかったって全大陸希少種管理機関が大騒ぎだったらしいわ。でも、竜気の弱さから言ってもう先は長くないって判断されて、最期を看取るためにあのイケメンさんが部族代表で派遣されたらしいわぁ」


―――海底冥王生誕祭にやらかした死にかけ竜人族? 心当たりしかないなぁ……。


屋台料理にテンションが上がり過ぎて、竜気を管理できていなかった食いしん坊幼竜は、デザートのウサギさんリンゴを齧りながら大いに反省した。


「ちな、来週からの聞き込み調査の案内役はポレットに頼む予定でっす」

「えっ」

「ああ~。なんか最初の接客で気に入ったからってご指名が入ったって?」

「えっ」


ちなみに、この商会三大美少女ピクニック会場では、商会特製防盗聴防盗撮魔術具がずっと唸りを上げて機密情報満載な女子会を見守っていた。また、蛇足だが、商会には三大美女と三大美魔女もいる。




***




「同じ竜族を独りで逝かせるわけにはいかない。できれば一万人ぐらいに見守られて深海の冥王が見守る永遠の深青の中に還ってほしい」


――― 一万人の野次馬から見物を受けながらの昇天かぁ。いや、この場合は深海だから沈下? ……なんか嫌。まあ、いずれにせよ、名乗り出たくない理由が増えたなぁ。


真剣な表情で街を見下ろす帝国出身イケメン竜人に、商会から案内人役を押し付けられた十年後に死亡予定の片田舎在住竜ポレットは、とりあえず一件目に行きましょうか、と声を掛けた。


「竜人族の老人? しかも死にかけ? 心当たりないわねぇ」

高級酒場街の元闘技場覇王現飲み屋ママは首を傾げた。


―――ここにいまーす。見た目十代半ばの十歳児(推定)でーす。


「王宮とか本神殿の奥で暮らす偉い一族だろ、アレ。こんな片田舎の領都にいないって」

騎士宿舎横にある大衆食堂の元聖人候補現七代目店主は首を振った。


―――逆に王宮とか本神殿とか未知の世界すぎて関わり合いになりたくないでーす。


「静かに暮らしているなら邪魔したら可哀そうでは?」

領都中央にある古代聖魔樹の上から三番目の枝上にあるツリーハウスの元大陸統括機関総帥現カフェ店主は腕を組み、


―――ほんそれ。


「知り合いでも親戚でもないなら、そんなに必死になる義理はないんじゃないかい」

領都外れにあるふれあい魔物牧場併設ハンバーグ専門店の元女公爵現店長は鼻を鳴らした。


―――さぁすがリベルタの姉御。いいこと言うわぁ。ほんとに諦めて帝都に帰って、どうぞ。


空振りもいいところの案内役ポレットと他国産国賓竜人イケメンは小休憩を取ることにした。ポレットは何肉でできたか分からないハンバーグをナイフとフォークで切り分けながら、柑橘系ジュースを飲んでいる疲労困憊イケメンに一時退却を提案した。ちなみに、竜生初の魔獣肉である。


「やはり、素人(しろうと)二人では捜索に限界があります。ここは一度帝国に戻られて、捜索はご領主さまに一任なさってはいかがでしょうか。発見し次第、我が王国より帝国に勅使を立てることもできるとご領主さまもおっしゃっていたではありませんか。……あと、このハンバーグ大変に美味です。経費はご領主さま持ちですし、ご賞味なさいませんか」


ハンバーグをもう一口頬張ったポレットに、テーブルに頬杖をついた不満諦観混在イケメンは、残念だけど、と返した。


「同族を見捨てるという選択肢は、我々竜人族にはないんだ。あと、その肉、竜人族には毒だから。悪いけど食べられない」


一応竜人族ポレットは咽(むせ)た。


「……それは大変失礼いたしました。……不勉強で申し訳ありません」

「いいさ。竜人族と接する機会のある人間自体少ないからね。……我々竜人族は、魔物由来の食品が食べられないんだ、魔力が影響を受けるから。魔物系でも特に魔獣肉とか健康に悪いし」


―――健康に悪いで食べないなら、フライドチキンとハンバーガーはこの世に存在できませんね~。


そうなんですね、と頷きながら人生は太く短くがモットーの無謀幼竜ポレットはハンバーグを完食した。


結果―――ハンバーグ専門店の少し古びた丸椅子の上に、こんもりとした布の山が出来上がった。


「……ポ、レット、嬢?」


呆然イケメン竜族を見(・)上(・)げ(・)て(・)、クゥルゥと変化解除幼竜ポレットは心底困ったと鳴き声を上げた。人間の声を合成する声帯変化魔術まで解けている。


―――なるほど、『魔力が不安定になる』、ね。それで変化魔術が保てなくなったわけかぁ。


先程まで着ていた洋服の中、子犬サイズになった食欲負失態幼竜は、しくじったなぁと遠い目をした。


ちなみに、硬直が解けた驚愕イケメン竜人の第一声は「ペッ! ペッしなさい! 魔獣肉は本当に毒なんだぞ!」で、顔以外が洋服に埋もれていた幼竜を慌てて抱き上げた後の第二声は「ギャ、ギャー! 腕と足が片方ない! えっ、つ、翼もない……」であった。


―――神様、ここから入れる保険ってありますか?


甥っ子竜族による渾身の遠吠えに反応して、聖都から秒で飛んで来た聖白竜教皇が、上空から白銀の鱗をキラキラと輝かせながら急降下してくるのを見上げ、万神万歳元日本人竜族ポレッタは、ここから穏便に一万人見送葬式を回避する奇跡とかないかと、神にゆる募した。













*                                       *

*     。    。    。    。    。    。        *

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*                                       *





―――先延ばしにはできるよ~。とりま、そこの同族に頑張ってもらって、もうちょっと長生きさせてもらえばいいと思う~。同族愛の強い、年少者を特に溺愛する竜人族が、君を見つけた以上、放っておくわけもないし~。


気泡と一緒に呟いた深海冥王は、海上世界を映すフルスクリーン型貝鏡の前で眠たげに海藻椅子に腰かけていた。横には海綿椅子から身を乗り出すようにして現世の様子を見守っている朋友がいる。


「よかったねぇ~。夜しか見守れないからって、昼は僕のとこの貝鏡を借りるくらい気にしてた愛し仔、同族に見つけてもらえたみたいだよ~」

「ほ、ほ゛んとに~、よ゛か゛ったっ」


号泣じゃん。海底冥王は海月女神へと羽衣タオルを渡してやった。以前、鏡を使わせてやっている礼として女神自身が持ってきたものだ。月光蒲公英の綿毛で織ったという布地は大判でフワフワで、冥王も配下の尾長魚神使も気に入っている。


ちなみに、この二柱が幼竜を見守って十年、神々の感覚で言うと、サブスクのドラマ第五シーズン第三話程度まで視聴時間が経過していた。


本人も知らない最古参ファンである☆


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― 新着の感想 ―
最古参ファンが…っょぃ゛っ!! そりゃ第5シーズン第3話まで見守ってたらもう強火担になっても仕方ないよね〜〜!!竜の十年は100分の1だけど人の十年は5分の1か8分の1くらいなので、体感では500年く…
これ絶対に報復するよな、と思ったらもう他の人も言ってましたねw お友だちがもう始末つけてるようだけど、これは自分たちの手で始末しないと関係ないとこまで飛び火するかもって思ったのもあるんじゃない?
感想欄の返信が短編でちょっと笑った。 人の感覚で生きているなら、余命十年はそこそこの長さで気持ちを落ち着けるのに十分な期間だけれど、1000年生きる種族からしたら、生きる喜びも何も知らずに消えていく…
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