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【一般】現代恋愛短編集 パート2

鬼役やりたい鬼束さん

作者: マノイ
掲載日:2026/02/05

鬼束(おにつか)さん、俺と付き合って欲しい」

「マジで言ってんの?」

「うん。話してて楽しいし、綺麗だし、少し前から付き合いたいって思ってた」

「マジかぁ……福家(ふくや)に告られるなんて……」


 この時、彼女の反応が芳しくなかったので、ダメなんだろうなって半ば諦めていた。


 鬼束さんは高校二年になって隣の席になった女子で、女子としては背が高くスタイルも良く、姉御肌な雰囲気で面倒見が良い。何がきっかけで話すようになったのかは覚えてないけれど、気付いたら毎日楽しく話せるようになっていた。

 でもそろそろ席替えがあるらしく、そうなったら今までみたいに話す機会が減ってしまうかもしれない。だったら告白して恋人になれば話をする機会は減らず、むしろこれまで以上に出来るかもって考えたんだ。

 それで偶然一人で下校中の鬼束さんに出会ったので行動に移してみたってわけ。


 でもその作戦が失敗しそうなので、最後に少しだけボケて空気を変えて告白を終わらせようと考えた。


「俺達が付き合ったら節分になるのになぁ」

「節分?」

「ほら、鬼は~外、福は~内ってさ」

「ぷっ、あははは!なにそれくっだらねぇ!」


 やったぜ。

 ()束と()家をかけた渾身のくだらないボケがクリティカルヒットだ。前から俺達って節分だよなって思ってたんだ。


 これで告白は無かったこととして闇に葬れるだろう。席替えに加え告白による気まずさのせいで会話機会が減ってしまうのは悲しいがしゃーない。


 と思っていたのだが。


「分かった。良いぜ、付き合ってやる」

「え?」


 まさかのオッケーが出たんですけど。

 ダメそうだったってのは早とちりだったのかな。まさか節分ネタで合格したなんてことは無いよな。


「ただし、腕組んだりキスしたりイチャつくのはダメだ。あたしは福家のこと異性として好きって思ってないからな。そういうのはしたくなったらあたしの方から告白し返すから、好きにさせてみな」


 う~ん男らしい。じゃなくて姉御らしい。

 俺としてもイチャつきたかった訳じゃないから、全く問題ない。もちろんイチャつければそれに越したことはないけれど。


「分かった。でも何ならOKなんだ? デートとか?」

「デートか、一緒に遊びに行く程度ならむしろ喜んでいくぜ。後は……これとか?」

「スマホ? メッセージ送って良いのか?」

「常識的な範囲ならな。あたしこういうの得意じゃないんだが、お前となら楽しくやれそうだし」

「よっしゃ、任せろ」


 ということで、俺達はこの日、付き合うことになった。


 付き合うといっても友達以上恋人未満なんて定番な関係であって、恋だの愛だのではなく楽しさ優先の関係だ。そしてその関係はとても居心地よく、長続きすることになったのだが……


--------


「よう福家、次の土曜にどっか遊びに行こうぜ」


 俺達が付き合い出してから数か月、今では鬼束さんの方からデートという名の遊びに誘ってくれるようになっていた。当然ながら男女の関係という意味では全く進展していないが、楽しいからヨシ。


「あ~悪い。次は予定が入ってる」

「え?福家に予定?珍しいな」


 基本的に誘われたら断らないからな。珍しいどころか初めてかも。


「土曜は丁度節分だろ、うちで豆まきやることになってるんだ」

「そういやお前んち、小学生が二人いるんだっけか」

「そそ、鬼役をやるんだ。福家なのにな」

「…………」


 あれ、そこは『鬼役ならあたしだろ』とか『お前ら全員福家だから鬼いねぇじゃん』とかってツッコミを入れるところだろ。いつもの鬼束さんならそうしてくれるのに、何故か神妙な顔をしている。


「…………あ、あのさ」

「何だよ、らしくもなく言い淀んだりして」

「あたしだって言いにくいことくらいあるさ。ってそれはそれとして、なんだが」

「ああ」

「鬼役……やらせて貰えないか?」

「は?」


 鬼役って節分の鬼役だよな。

 しかも他人の家の節分だぞ。どうしてそんなのやりたがる。


「あたしって()束だろ」

「だな。鬼役やってくれって頼まれそうな名字だ」

「それ!それなんだよ!普通はそう思うよな!?」

「お、おう、思うぞ」

「でもよ、皆がそれはいじめに繋がるから止めましょうって言って、弄ることすらしてくれねーんだよ!こっちは全力で鬼役やる心の準備出来てるのにさ!」

「あ~そういうこと」


 そういえば俺も似たような経験あるな。福の方だから良い意味での扱いだけれど、それも弄りからのいじめに繋がるから止めましょうみたいなニュアンスのことを言ってた先生がいた。


 過剰な気遣いが逆に相手を困らせてしまったパターンだ。実際、嫌がる人もいるから難しいところだよな。同級生に『富士(ふじ)』って名字の人がいて、『富士(さん)』って揶揄われるのが嫌って言ってたし。でも俺がその名字だったら面白いから自分でネタにしちゃう。


「うちって姉弟も姉妹も居ないし、親戚にも程良い年齢の子供がいないからさ。鬼役やる機会が全く無くて」

「だから俺の家の節分で鬼役をやらせて欲しいってことか」

「そうなんだよ。頼めるか?」

「後で親に確認はするけど、多分いいぜ。んじゃ今年の鬼役よろしくな」

「やった!」


 うちの家族の性格上、喜んで受け入れてくれるに違いない。

 ただ一つだけ大きな問題がある。


「でもよ。それって俺の彼女が家に来るってことになるんだが平気か?」

「うっ……福家ってあたしのことを……?」

「もちろん伝えてある」

「な~んだ。なら平気じゃん」


 マジかよ平気なのか。

 俺が鬼束さんの家族に会うなんてことになったら緊張緊張ド緊張なんだが、逆だと違うのかな。


「あ、でもお土産もってかなきゃダメなのか?」

「要らない。そういうのマジで要らない。むしろ鬼役やってもらうんだから、そんなの貰ったら困るわ」

「そういうものか」

「そういうものだ」


 きっと両親もそう思うに違いない。


「う~ん……でもあたしがやりたいことやらせてもらうのに何もしないのは……」

「そこ気にしちゃうのか」

「よし、決めた。せめて福家を喜ばせてやるよ!」

「俺を? どうやって?」

「ふふふ。それは当日の秘密ってことで」

「なんか怖いな」

「おう。怖がれ怖がれ。鬼様だからな!」

「ぴえん。福ちゃん泣いちゃう」


 鬼束さんのことだ、妙なことはやらないだろ。

 そう信じた俺が馬鹿だった。


--------


 節分当日。


「鬼束です!今日はよろしくお願いします!」


 鬼束さんは俺の家に入ると全く臆することなく元気に挨拶した。旅行にでも行くかのような大きなリュックを持ってるんだが、何が入ってるんだ?


「こんにちは、今日は子供達の相手をしてくれるんだってね。助かるよ」

「うふふ。話に聞いていたよりもずっと綺麗な女性ね」


 母さんそういう話はしないでって言ったのに。どうして母親って空気読まず子供が嫌がる話を人前でするんだろう。


「こんにちは!」

「よろしくお願いします!」


 それに引き換え弟と妹は元気に挨拶する良い子達。

 後でたっぷり褒めてやろう。


 ひとまず挨拶を終えた鬼束さんは、俺の部屋へと向かった。


「おお~ここが福家の部屋か。なんか……こう……男の子だな!」

「感想雑ぅ」

「んなこと言っても、どうせあたしが来るからって片付けたんだろ。無難なものしか置いてないしこれ以上何を言えと」

「たしかに」


 だが片付ける前も多少散らばってただけで特色は無かった気がする。なんか自分が無個性な人間に思えてちょっとだけ凹んだ。


「さぁ、準備するから出ていけー」

「ここ俺の部屋なんだが」

「細かいことは気にしない気にしない」

「細かいかなぁ」


 なんてちょっとした軽口を叩きながら部屋を出る。

 準備にかなり時間がかかるらしく、豆まきの開始予定時刻より大分早い。


「あれ?もう?」


 それなのに、十分くらいで部屋に入って来いとスマホに通知が来た。


「入るぞ~」

「おう」


 一体何の準備をしたのか。

 少しは予想すべきだったのに、どうして何も考えずに中に入ってしまったのだろうか。


「なっ……!?」


 扉を開けた瞬間、そこに広がる光景が信じられず硬直してしまった。


「そんなところで立ってないで中に入れよ。流石に恥ずかしい」

「お、おう…‥」


 だが部屋の中で二人っきりになるのはいかがなものか。

 そう思いながらも体が勝手に指示通りに動いてしまう。


「ふふん。どうだ。凄いだろ」

「…………凄すぎ。似合いすぎて怖いくらいだ」

「だろだろ!自信あったんだ」

「…………恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしい!だがこういうのは照れたら負けだ!」

「…………何の勝負だよ」


 会話をしたからか、ようやく少しだけ現実を受け入れられるようになり、鬼束さんの目に視線を合わせた。


「なんだもう良いのか?」

「どういう意味?」

「言っただろ。鬼役をやらせてくれるお礼をするって」

「そういう意味だったのかよ。てっきりドМを告白されたのかと思ったぞ」

「酷いな!? かなり勇気出したんだぞ!?」

「お礼は要らないってあれほど言ったのに。まさか鬼柄ビキニ(・・・・・)を着るとは」


 布面積は大きめで、流石に恥ずかしすぎたのか下半身はショートスカートのようなものを履いているが、それでも露出過多で色っぽい。服の上からでもスタイル抜群なのは分かっていたが、想像していたよりも遥かにバランスが取れた体つきだった。


「でもありがとう。満足したから上着を着ろよ」

「いや、これで鬼役やるつもりだが」

「痴女じゃん!」

「痴女言うな。安心しろって、メイクして小物をつければ露出女からお色気鬼さんに変身するから」

「家族イベントでお色気は要らないんだけどなぁ」

「ちぇっ、なら上着を羽織るか」

「持ってるなら最初からそうしろよ!」


 胸元を隠す程度の小さな鬼柄上着を持って来てやがった。それを着るだけで大分お色気成分が薄まった気がする。


「ふふふ」

「なんで嬉しそうなんだ」

「襲われてもおかしくないって思ってたが、福家が紳士だったからさ」

「家族がいるのにするわけないだろ!?」

「家族がいなければしてたのか?」

「…………」

「そういうところが分かったから嬉しいんだよ。愛しの彼氏君」

「揶揄うなって」

「そう言うな。あたしだって彼氏の家にお邪魔して緊張してるんだよ」

「いかにも本音っぽく冗談とも取れそうな流れでそういうこと言うのやめてくれない?」

「本気だ本気。なので手が震えてメイクに時間かかるから、それまで家族と遊んでな」

「…………分かったよ」


 つまりまだ鬼束さんの準備は終わってなかったということだろう。

 そしてそれは俺にビキニ姿を見せる為だけに呼んだという意味でもある。


 これまで鬼束さんは徹底して俺と肉体的スキンシップを取ったり、肌を露出するようなことはしてこなかった。だからこそいきなりの行動に驚き、普段とのギャップでつい魅入ってしまった。どうにか紳士的態度だと思って貰えたようだが、結構な時間ガン見してしまった気もするし……ううむ、果たして俺の態度は正解だったのだろうか。


 そんなことを考えながら弟と妹の相手をしていたら、今度こそ結構な時間が経ってからスマホに連絡が来た。今回は俺が部屋の中に入るのではなく、部屋から鬼束さんが出てくるようだ。


「おら~、悪い子はいねーか!」

「それは違……ってうお、すげぇ!」

「わ~!鬼だ!すっげええええ!」

「鬼さんだ!鬼さんだ!」


 あまりにも高クオリティな鬼コスプレ。

 例の鬼柄服に加えて角付きウィッグを被っているのはもちろんのこと、黒塗りのメイクが鬼らしさを存分に表現している。いや、それらも凄いが、もっとすごいのは棍棒だ。鬼束さんの体と同じくらいある巨大で太い棍棒の威圧感が強い鬼感を演出している。あんなの持って来てなかったから、空気を入れて膨らませたのかな。どこで売ってたんやら。


 弟と妹も超喜んでるし、これは完璧な鬼役だわ。


「うわ~!鬼が来たぞ~!追い出せ~!」


 わざとらしく叫びながら福豆がたっぷり入った大皿を弟と妹の傍に持って行く。


「鬼は~外~!」

「おには~そと~!」

「おには~そと~!」


 小学生とはいえ、全力で投げつけられて結構痛そうな音がした。でも鬼束さんは全くそんなそぶりを見せなかった。


「ふははは!効かん効かんぞ!この程度か!?」

「くっ……まだだ。まだ豆は沢山残ってる! 二人とも頑張ろう!」

「うん!」

「はーい!」


 ノリノリで鬼役をこなしてくれた鬼束さん。俺はそれにのっかり場を盛り上げる。

 その結果、弟も妹も大満足したようだ。




「鬼束さん、今日はマジでありがとう。二人にとって最高の想い出になったよ」


 節分が終わり、メイクを落とし終えた鬼束さんを最寄り駅まで送っていた。


「また来てねなんて言われちゃった。どうしよっかな~」

「ははは。鬼束さんさえ良ければ、また遊び相手になってあげてよ」


 かなり懐かれたから、節分以外でも喜んでくれるだろう。


「福家は弟と妹のことが大好きなんだな」

「ああ。超可愛いだろ」

「ブラコンシスコンだったか」

「歳が離れているからか、つい甘くしちゃうんだよ」


 素直な良い子に育ってくれてるからってのもあるかもしれないけどな。


「なぁ福家」

「鬼束さん?」


 隣を歩いていた鬼束さんが歩みを止めたので、俺も足を止めて振り返った。


「すげぇ嬉しかった」

「鬼役が出来たこと?」

「それもだな」

「弟と妹が喜んだこと?」

「それもだな」

「他は……なんだろ」


 今日は鬼束さんがテンション高くずっと楽しそうだったから、嬉しいことなんて山ほどあるのかもしれない。


「お前が紳士でいてくれたことだよ」

「え?」

「それにあたしのことをちゃんと女として見てくれてたって分かったこと」

「…………」

「結構不安だったんだぜ。イチャつきNGって自分から言い出したことだけど、彼女らしいことを全然求めてくれないからさ」


 だってそんなことしたら嫌がられるだろ。鬼束さんと一緒にいるだけで楽しいし幸せだし、それ以上は進めたらラッキーだと思うくらいに留めておくと心に決めていた。


「でも分かった。今日、あの子達と一緒のお前の姿を見てたら分かったんだ」

「何が分かったんだ?」

「お前が良い奴ってことだよ」

「え?」


 鬼束さんは頬を染めながらニカっと格好良く笑った。


「福家、好きだ。あたしと付き合ってくれ」

「あ……え……?」

「どうしていきなりって顔してるな」

「だ、だって俺、鬼束さんを胸キュンさせるようなこと何もしてないぜ」

「胸キュンポイントなんて人それぞれってことさ。あたしはお前が家族に向ける優しい感じが気に入ったんだよ」

「そんなことで……」

「そんなことでお前はあたしを堕としたんだ、おめでとう」


 なんかスッキリしないけど、つまりはいつもの俺のままで良いってことなのかな。

 突然すぎてどう受け止めれば良いか分からないけれど、ひとまずは自然な感じで対応しよう。


「嬉しいけど、少し複雑」

「何がだよ。こんな美少女をゲットしたんだから素直に喜べって」


 自分で美少女って言うな。


「いやだってさ、せっかくの節分ペアなのに、このままだと欠けちゃうじゃん」

「欠けちゃう?」

「鬼束が福家になっちゃうかもしれないってこと」

「なっ!?」


 途端に顔を真っ赤にする鬼束さん。これまで恋人ネタは回避して来たけれど、するとこんなに可愛らしい反応をするんだ。


 はは、彼女と恋人らしくイチャつく自信がついてしまったぜ。




 この後、鬼柄ビキニの話題で揶揄いまくったら、またそれを着て襲われてしまったのはあまりにも嬉しい予想外だった。

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― 新着の感想 ―
>またそれを着て襲われてしまった って、どこでっ!? っていうか、もしや後日譚? 送って行く途中だったはずだから、、、駅近くのアレだったりして?
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