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ド平均な僕、なぜか完璧な彼女の運命の相手らしい  作者: 天地サユウ


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第九話 バイト先の天使な後輩

 駅前の商店街に店を構える『明林堂書店』。

 ラノベを買い集めるための資金を稼ぐ職場であり、店内に漂う紙の匂いが擦り減った精神を癒してくれる場所でもある。


「高坂くん、小日向さん。ちょっといいかい?」


 レジカウンターで文庫本にカバーを掛けていると、白髪で丸眼鏡を掛けた店長が声をかけてきた。


 隣で同じく作業の手を止めたのは、高校一年生の後輩アルバイトの小日向灯里(こひなたあかり)だ。

 肩口で切り揃えられた艶やかな栗色の髪に、大きな琥珀色の瞳。

 書店員指定の黒エプロンが、彼女の小柄な体型をより際立たせている。


「はい、どうされました?」

「二人が協力して作ってくれたライトノベル特設コーナーのPOPだけどね、お客さんからえらい評判が良くてね。あの棚の売上が上がったんだよ。本当にありがとね」

「本当ですか!? やったぁ! 時雨先輩の考えた紹介文が完璧だったからです!」


 灯里ちゃんはパァッと顔を輝かせて僕を見上げる。


「いや、灯里ちゃんの描いてくれたヒロインのイラストが目を惹いたおかげだよ。すごく可愛かったし」

「えへへ……先輩に褒められちゃいました」


 僕が素直に褒めると、彼女ははにかみ、耳まで真っ赤にして嬉しそうに身をよじった。


「いやはや、本当に息ピッタリのいいコンビだねぇ。わしには君たちの青春が眩しいよ。じゃあ、わしは少し奥で休むから、あとはよろしく頼むよ」


 目尻に深い皺を寄せて優しく笑うと、店長はゆっくりとした足取りでバックヤードへ消えていく。

 大人のからかいに気恥ずかしさを覚えつつ、僕たちは再び作業に戻った。


 ◇


 平日の夕方、客足も落ち着いたコミックコーナーで棚の整理をしていると、ふわりと甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。


「時雨先輩、新刊の陳列終わりましたよ」


 背後から僕の袖を引き、灯里ちゃんが首を傾げて上目遣いで微笑んだ。


「お疲れ様、灯里ちゃん。いつも手際がよくて助かるよ」

「えへへ……これくらい、先輩のためなら楽勝ですから」


 先輩のため、という言葉に妙な力が入っているのは気のせいだろうが、シフトが被るたびに、いつも僕の傍を離れないのは不思議だ。


 休憩時間には僕の隣に座ってきたり、小まめに気を配ってくれる、僕の唯一の優しい後輩ちゃんだ。

 妹のひよりにどこか似ているが、中身は天使と悪魔ほどの差がある。


「そういえば先輩、なんだか目元に隈ができてますよ? 学校で何かあったんですか?」


 灯里ちゃんは心配そうに眉を下げて聞いてくる。

 その上目遣いの破壊力に少しだけドキッとして、僕は視線を逸らした。


「あぁ……まあ、ちょっと厄介事に巻き込まれてね」


 実は生徒会長に交際を強要され、十年ぶりに再会した幼馴染から結婚を迫られている――なんて、ラノベ主人公のような狂った現実を話せるはずがない。


「もしよかったら、私でよければ相談に乗りますよ? バイトのあと、少し一緒に……」


 灯里ちゃんがさらに一歩距離を詰め、潤んだ瞳で見つめてくる。

 適当に誤魔化そうとした時、エプロンのポケットでスマホが短く震えた。

 画面に表示されたのは、麗奈さんからのメッセージだ。


『時雨くん、青春研究部だけれど、正式な部活動として承認されるには最低五名の部員が必要だと、私としたことが伝え忘れていたわ。明日の放課後までに人員を確保してちょうだい』


 思わず画面を二度見する。

 現在、部員と呼べるのは僕と麗奈さん、詩織ちゃんの三人。

 あと二人も意味不明な実験場に引きずり込まなければならないのかと思うと、頭痛と胃痛が同時に襲ってくる。


「うっ……」

「せ、先輩!? 急に顔色が悪くなりましたけど、どうかしましたか!?」

「いや、人生のハードルがまた一つ上がっただけだよ……」


 深い溜め息を吐き出す僕を、灯里ちゃんはおろおろとしながら心配そうに見つめていた。


「だ、大丈夫ですか? やっぱり、バイトの後にでもお話聞きますよ! 私、先輩の力になりたいです!」


 身を乗り出してくる彼女の優しさが、擦り減った心にひどく沁みる。

 だが、こんな天使のような後輩を、あの狂気の実験場に引きずり込むわけにはいかない。

 先輩としてのささやかな矜持だ。


「ありがとう、灯里ちゃん。でも大丈夫だよ。ちょっと学校で面倒な頼まれごとが増えただけだし、今日はこのまま帰って、対策を練るよ」

「……そ、そうですか。じゃあ、また今度、絶対ですよ?」


 肩を落としながら名残惜しそうに見つめてくる彼女に申し訳なさを感じつつ、僕は曖昧に頷いて誤魔化すことしかできなかった。


 ◇


 その日の帰り道。

 僕は夜風に吹かれながら、重い足取りで明日からの立ち回りについて頭を抱えていた。

 

 あと二人の部員。

 学園の頂点である完璧な生徒会長と、幼馴染の転校生。この二人が火花を散らす謎の部活に、好き好んで飛び込む物好きなど存在するはずがない。


 だが、部員を集めなければ、僕は麗奈さんの権力にによって終わりを迎える。

 ――となれば、頼れるのはあいつらしかいない。


(大輝、凛、圭吾、澪……頼む。誰か僕の生贄……いや、助けになってくれ!)


 黒い打算を胸に秘め、僕は夜空を見上げた。 

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