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第四話 目を覚ました光



 屋敷に戻ったとき、空はまだ明るかった。


 学院を早退する理由を告げたとき、

 教官は深く詮索しなかった。

 エリシアの顔色を見て、

 それ以上は何も言わなかった。


 それが、少しだけ救いだった。


 馬車の中で、

 エリシアは膝の上の小さな身体から、

 片時も目を離さなかった。


 妖精の少女は、

 相変わらず眠ったままだったが、

 呼吸は、確かに安定している。


 冷たさも、

 もう感じない。


 ——連れて帰って、よかった。


 そう思った。


 屋敷の裏口から入り、

 人目を避けるように階段を上がる。


 自室の扉を閉めた瞬間、

 エリシアはようやく、

 深く息を吐いた。


 カーテンを引き、

 光を落とす。


 ベッドの上に、

 そっと妖精の少女を横たえた。


 白いシーツの上で、

 淡い光が、かすかに揺れる。


 エリシアは、

 椅子を引き寄せ、

 そのそばに腰を下ろした。


 ——ここなら、大丈夫。


 誰にも邪魔されない。

 急かされることもない。


 ただ、そばにいられる。


 時間が、静かに流れる。


 どれくらい経っただろう。


 ふと——

 指先に、くすぐったい感触があった。


 エリシアは、はっとして視線を落とす。


 小さな指が、

 シーツを掴んでいる。


 そして、

 ゆっくりと。


 妖精の少女が、

 目を開けた。


 透き通るような、

 淡い色の瞳。


 焦点が合わず、

 不安そうに揺れている。


 エリシアは、

 反射的に身を屈めた。


「大丈夫よ」


 声は、

 自然に出た。


 驚くほど、落ち着いていた。


「ここは、安全な場所。

 誰も、あなたを傷つけない」


 妖精の少女は、

 一瞬、びくりと身をすくめた。


 けれど、

 エリシアの声を聞いているうちに、

 その緊張が、少しずつほどけていく。


 小さな唇が、震えた。


「……こ、こわ……かった……」


 掠れた声。


 それだけで、

 胸が、ぎゅっと締めつけられる。


 エリシアは、

 ベッドの縁に手を置き、

 視線の高さを合わせた。


「うん。

 怖かったよね」


 否定しない。

 理由も聞かない。


 ただ、

 その言葉を、受け取る。


 妖精の少女は、

 しばらく黙っていたが、

 やがて、小さく息を吸った。


「……いか……ない?」


 不安に揺れる問い。


 エリシアは、

 迷わず首を横に振る。


「行かない」


 短く、はっきりと。


「あなたが眠るまで、

 ここにいるわ」


 その言葉に、

 妖精の少女は、

 ようやく目を閉じた。


 再び、

 眠りに落ちていく。


 エリシアは、

 その様子を見守りながら、

 小さく、胸に手を当てた。


 不思議だった。


 不安は、

 どこかへ行ってしまったわけじゃない。


 けれど、

 今は、静かだった。


 誰かのそばにいることで、

 こんなにも、

 心が落ち着くなんて。


 エリシアは、

 その小さな光から、

 目を離さなかった。


 名前も、

 正体も、

 まだ何も知らない。


 それでも。


 ——ここにいる。


 その事実だけで、

 今は、十分だった。


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