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第三話 そばにいる、ということ



 妖精の少女は、とても軽かった。


 両手ですくい上げると、

 淡い光がこぼれるように揺れ、

 エリシアの指先を、かすかにあたためた。


 生きている。

 ——けれど、ぎりぎりだ。


 それは、見ただけでわかった。


 羽は裂け、

 血に濡れた身体は冷えきっている。

 呼吸も、浅く、弱い。


 エリシアの胸が、きゅっと締めつけられた。


 ——置いていけない。


 理由はなかった。

 考えた結果でもない。


 ただ、

 そうすることだけは、できなかった。


 エリシアは、森の奥へ進むのをやめ、

 近くの木の根元に腰を下ろした。


 膝の上に、そっと妖精の少女を横たえる。


 どうすればいいのか、わからない。

 誰かを呼びに行くべきか。

 学院に戻るべきか。


 でも、

 この小さな身体を置いて、

 立ち上がることができなかった。


 ——だいじょうぶ。


 心の中で、もう一度、そう言った。


 その瞬間。


 胸の奥が、

 じんわりと、あたたかくなる。


 それは感情というより、

 もっと静かなものだった。


 エリシアは、

 無意識のまま、手をかざした。


 治そう、と思ったわけじゃない。

 魔法を使おう、と意識したわけでもない。


 ただ、

 そばにいよう

 そう思っただけだった。


 指先から、

 かすかな光が零れる。


 それは眩しいものではなく、

 木漏れ日のように、やさしい光。


 エリシアは驚いて、自分の手を見る。


 ——え……?


 けれど、

 不思議と怖くはなかった。


 光は、妖精の少女の胸元に触れ、

 静かに、溶けていく。


 血の流れが、止まる。

 呼吸が、わずかに深くなる。


 傷が、急速に塞がるわけではない。

 痛みが、完全に消えるわけでもない。


 それでも、

 消えかけていた気配が、そこに留まった。


 ——生きてる。


 エリシアは、ほっと息を吐いた。


 そのまま、しばらく動けずにいる。


 時間が、ゆっくり流れる。


 森の音。

 風の気配。

 葉擦れのささやき。


 妖精の少女は、

 眠るように目を閉じたまま、

 小さな胸を、規則正しく上下させている。


 エリシアは、

 その様子を見つめながら、

 胸の奥に広がる安堵感に、戸惑っていた。


 ——不安が、ない。


 いつもなら、

 理由もなく胸を締めつけていた何かが、

 今は、静かだった。


 代わりにあるのは、

 不思議な落ち着き。


 誰かのそばにいることが、

 こんなにも自然だったなんて。


 そのとき。


 微かな声が、聞こえた気がした。


 ——…た…すけ…。


 とても小さく、

 今にも消えそうな声。


 エリシアは、はっとして身を屈める。


「大丈夫。ここにいるわ」


 今度は、声に出した。


 返事はなかった。

 けれど、

 妖精の少女の指が、

 かすかに、エリシアの服を掴んだ。


 離れないで、と言うように。


 エリシアは、そっと微笑む。


「うん。行かない」


 約束するように、

 その小さな手を包んだ。


 妖精の少女は、

眠るように目を閉じたまま、

エリシアの服を掴んだままだ。


エリシアは、

その手を離さなかった。


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