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第二話 静かな場所へ

 学院へ向かう馬車の中で、エリシアは窓の外を眺めていた。


 石畳の道。

 行き交う人々。

 見慣れた景色。


 どれも変わらないはずなのに、

 胸の奥のざわめきだけが、まだ引かない。


 ——少しだけ、息を整えたい。


 そんな思いが、ふと浮かぶ。


 学院の正門が見えてきたところで、

 エリシアは御者に声をかけた。


「ごめんなさい。

 今日は、裏の道で降ろしてもらってもいい?」


 御者は一瞬驚いた顔をしたが、

 すぐに頷いた。


「かしこまりました。

 森沿いの道ですね」


「ええ」


 自分でも、

 どうしてそう答えたのかわからない。


 ただ、

 あそこなら、ひとりになれる

 そんな気がしただけだった。


 馬車を降りると、

 空気が少し変わる。


 街の音が遠ざかり、

 木々の匂いが、やわらかく鼻をくすぐった。


 エリシアは、森の入り口で足を止める。


 ここは危険な場所ではない。

 学院の裏手に広がる、小さな森。

 整備もされていて、

 子どもが迷い込むこともない。


 それでも、

 足を踏み入れる瞬間だけ、

 胸がきゅっと締まる。


 ——大丈夫。


 そう、自分に言い聞かせる。


 何が怖いのかは、わからない。

 けれど、怖さそのものには、慣れていた。


 木々の間を歩くと、

 葉擦れの音が、呼吸に合わせて揺れる。


 エリシアは、深く息を吸った。


 ……少し、楽になる。


 ここでは、

 誰も見ていない。

 誰かの期待も、心配も、

 背負わなくていい。


 だからだろうか。


 ふと、

 足元の気配に気づいた。


 ——光?


 木の根元。

 落ち葉の隙間から、

 淡く、かすかな輝きが漏れている。


 エリシアは、思わず膝をついた。


 覗き込んだ先にあったのは——


 小さな、

 羽の破れた、

 妖精の少女だった。


 血に濡れ、

 呼吸は浅く、

 今にも消えてしまいそうな光。


 その姿を見た瞬間、

 エリシアの胸の奥で、

 何かが強く、はっきりと反応した。


 怖い。


 ——それでも。


 考えるよりも早く、

 身体が動いていた。


 エリシアは、

 そっと、

 その小さな光に手を伸ばす。


 ——だいじょうぶ。


 声には出さなかった。

 けれど、その言葉は、

 確かに胸の中にあった。


 この瞬間の、この選択が、

 自分自身を思い出すための、

 最初の一歩になることをエリシアはまだ知らなかった。

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