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51.バンパイヤ・カーミラ

 翌日。 


 霊峰ゴモラを越えた先の森に俺は初めて足を踏み入れた。


 リリスは前を歩いている。


「あのコウモリは何者だ?」


「名前はカーミラ。バンパイヤじゃ」


「リリスに相当な恨みを持っていたようだけど……何をした?」


「知らん。まったく身に覚えがない」


 リリスは不意に足を止めると振り返った。


「なんじゃ、その疑いの眼差しは?」


(……よ、よく分かったな)


 リリスは溜息を吐いて、再び歩き始める。


「そもそもカーミラとは接点がない」


「そうなの?」


「カーミラは魔王軍の一員ではなかった。森の奥に引き篭もっておる変人よ。妾が最後に会ったのは100年以上も昔の事じゃ。先の魔王様の命を受けて魔王軍にスカウトしに行ったのじゃが断られた。だからといって報復などしておらん。恨まれる道理がない」


「それなら、どうして?」


「それを確かめに来ておるのじゃろう?」

 

 リリスは不敵な笑みを浮かべた。



  ***



 森の樹々が焼け落ちている。


 中央に炭化した謎の物体……


(もしかして、これ熊か?)


「妾が仕留めたジャイアント・グリズリーじゃ。なかなかの大物じゃろ?」


「これほどの大きさの魔獣が街に現れたら、非戦闘員はひとたまりもないな。都市用の防壁を築くか?」


「緋魅狐が張った結界によりルシフェルに魔獣は入ってこれん。危険なのは、薬草や木の実を森で収穫する時じゃな」


「人間の国を真似て《冒険者ギルド》でも作るか? 薬草採取、魔石採収、魔獣討伐、魔獣の巣の探索などの調査を行ってもらうような……」


「あはは! よいではないか。もしかするとダンジョンが見つかるかもしれんぞ」


 紺色の葉を茂らせた樹木が増えてきた。 

 地面には彼岸花に似た赤い花が咲いている。 

 空気が少し冷たくなった。


「もう少し先に洞窟が横たわっておる。そこがカーミラが住まう場所じゃ!」


 洞窟はなかった。


 いや、何者かによって蹂躙されていた。


 ダイナマイトで爆破されたみたいに大小の岩が入り口を塞ぐように積みあがっている。 

 鋭利に砕け散った岩の破片は、まるで散弾銃の弾丸のように樹々の幹へ突き刺さっていた。


「……なあ、リリス。カーミラの住居というのは、もしかしてここか?」


「もしかしなくても此処じゃ……」 

 リリスは目の前の惨状に言葉を失くしていた。

「酷いの……いったい何が起こったというのじゃ……」


「ふざけるな! よくもぬけぬけと……」 


 怒りに震えるカーミラの声が響く。


 ジャイアント・セコイヤのような巨木の枝にぶら下がっている。


 カーミラは、コウモリからゴスロリファッションに身を包んだ地雷系女子に姿を変え、俺たちの背後に降り立った。


「謝罪に来たのかと思えばリリス、あたしを愚弄しに来たのか? よほど死にたいらしいな」


「落ちつけ。なにを憤慨しておる。妾がお主にいかなる非礼を働いたというのだ?」


「グリズリーを狩るついでに、あたしの家の玄関をメチャメチャにしただろうが! へんてこな弓矢を使って!!」 

 カーミラが惨状を指差す。


「リリス、おまえ……」


 俺の視線から逃れるように、リリスはあさっての方を向いた。


「あ~、そういえば矢尻に風魔法が付与された超遠距離用の矢を試し打ちしたわ~、ここまで飛んでおったのか~、いやはやドワーフとエルフの技術は凄いもんじゃのぉ~サタン?」


 俺はリリスの頭を鷲掴みにすると全力で押さえつけ、ふたり並んで土下座した。



  ***



 海洋都市国家アルデバランでやった時と同じように、瓦礫でゴーレムを造り洞窟の入り口を片付けた。


 崩落の恐れがありそうな場所は、リリスが強化魔法で補修する。


 俺が造ったゴーレムにカーミラが興味津々だったので、詫びの品としてプレゼントした。


「いいの! 本当に?」 


「遠慮なくどうぞ。これで今回の件、水に流してもらえるだろうか?」


「もちろん! あたしなんかに魔王サマが頭を下げてくれた時点で、そうするつもりだったよ」


「よかった。じゃあ、俺たちはこのへんで」

 

 リリスと一緒に帰ろうとするとカーミラが引きとめた。

「待って! せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」


「カーミラよ、引き篭もりのお主にしては珍しいの。妾たちを家に招待するなど……」


「リリスは招待してないから」

 カーミラは舌を出した。

「それから、あたしが引き篭もっていたのは、係わりを持ちたいと思える人がいなかったからよ。どうでもいい連中にあたしの時間を邪魔されるのが嫌なだけ。コミュ障とかではないから! ……でも、魔王サマのことはもっと知りたい。あたしのことも知ってほしい。あっ、これって、もしかして恋の始まり?」


「ギルティィィイ! いまから貴様を処刑する」 

 リリスの手元から黒霧が立ち上り、禍々しい大鎌が現れた。


「それはあかん! 落ち着けぇえええええ!」 

 俺はリリスを羽交い絞めにした。

「連れの平常心が行方不明なのでこれから探しに向かいます。では、ごきげんよう!」


 リリスを捕獲したまま俺は転移魔法で魔王城に帰った。

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