48.ハワード商会②
2週間後━━。
アンジャル王国からハワード商会のキャラバンがやって来た。
人間の国から商隊が訪れるという噂は、いつの間にかルシフェル中に広まっていて、魔王城で働く小悪魔や獣人のメイドたちは、
「アンジャル王国で一番大きな商会が来るんだって!」
「可愛いお洋服とか、いっぱい積んでるらしいよ♡」
「知ってる? ヒューマンの女性用下着は可愛いいんだって。安ければ買いたいなぁ~」
「下着なんて他人からは見えないじゃん。何でもよくない?」
「だから、あんたはガキなんだよ。可愛い下着を着けていたら、いざという時に男が喜ぶの!」
「「「キャアー!!!」」」
ルシフェルやマルスの酒場では、荒くれ者たちが少年のように顔を輝かせて、
「武具の類も売りに来るのか?」
「ヒューマンの国には腕のいいドワーフがたくさんいるからな」
「珍しいマジックアイテムとかも見たいな」
「楽しみだぜ!」
レンゲ畑で、花冠を作って遊ぶ少女たちは、
「オモチャとかもあるかな?」
「お人形があったらいいな!」
「わたし、絵本が欲しい!!」
などと大いに盛り上がっていたそうだから、俺が念を押すまでもなくガーディアンたちはキャラバンを丁重に迎え入れてくれた。
「遠路はるばる、ようこそ」
マルスの一角に造った交易所で、俺はロン代表と握手を交わした。
「カゲトラ、案内をありがとう。後は、こっちに任せて、持ち場に戻ってくれ」
「御意」
大鬼の頭、カゲトラは俺に向かって恭しく一礼をすると、
「この国には少数ではあるが、人間も暮している。だから、警戒など無用。楽しんでいってくれ」
ハワード商会一行に言った。
キャラバンにはロンの他に、ハワード商会のスタッフが5人と冒険者が10名いる。
「いや……護衛は道中の盗賊対策のためで、断じてルシフェルの皆様を警戒しているわけでは……」
ロンが慌てて言う。
「カゲトラ、誤解するな。代表は、以前に言っておられた。『積荷を襲われたことはあるが、それは全て人間の盗賊だった』と……。我々を色眼鏡で見られているわけではない」
「これは、たいへん失礼しました。では、ごゆるりと」
ハワード商会の面々と護衛の冒険者たちは、「ふぅ~」と安堵の息を吐いた。
***
「これは素晴らしいです!」
王都から持ち込まれた服飾品、ジュエリー、陶磁器、ガラス製品を見て、オークニーは目を輝かせた。
今後、本格化するかもしれない商業ギルドの運営は、オークニーに任せるつもりである。
一部の民が期待していたファンシーなランジェリーや武具やオモチャの類は影も形もなかった。
俺の要望に含まれていなかったから、当然と言えば当然なのだが……。
でも、どうしよう……?
「これは予想以上です! 必ずや王都……いや、大陸中の国で大評判になるでしょう!」
魔国産の香水、アルコール、果物、野菜の品質をチェックしていたロンが興奮して言った。
「では、取引成立ということでいいか?」
俺が訊くとロンは満面の笑みを浮かべた。
「もちろんですとも!」
「二回目の交易もあったりなんかする?」
「魔王様さえよければ。喜んで!」
俺は、ホッと胸をなでおろした。
「今後、交易の窓口はオークニーが務める。ディラン伯と商会を訪れた時、同席していた騎士だ」
「おお……あの時の! 今後とも、よろしくお願いいたします」
ロンはオークニーに深々と頭を下げた。
「魔王様、よろしいでしょうか?」
キャラバンの紅一点の若い女性が口を開く。
「この国にポーションなどはございますでしょうか? もし、余裕があるようなら、お分けいただきたいのですが……」
「なにか凶事でも起こったのか?」
「スラム街で疫病が蔓延しているのです。お恥ずかしい話ですが、感染を恐れる貴族たちがポーションの買い占めを行っており、本当に必要な者の手にに届けることができない状態なのです」
「……魔王様、ご存知でしょうか?」
オークニーが重々しく口を開いた。
「最近、一部の人狼の間で原因不明の奇病が流行っていたことを」
(え?)
「食中毒に似た症状だったそうですが、ポーションがほとんど効かず、治癒魔法と併用することにより、なんとか一命をとりとめたとか……」
(ロキアの名誉を守るために詳細は伏せておくように厳命した結果、とんでもないデマが流布されている!)
「この事件を受けて、エルフの居住区にあるポーション工房で、魔王様より賜った異世界の薬草をレシピに加えたネオポーションが開発され、量産されていると聞きます。そちらへ相談されてはいかがでしょう?」
「お、おう……」




