45.それって俺のせいですか?
近頃、ジャングリアの魔都・ルシフェルに住まうご婦人方の間で話題になっているものがある。
エルフの居住区でつくられる、伽羅や白檀などの香木を主原料にした香水だ。
これまでになかった高貴な香りと大評判で、連日、多くの女性がエルフの居住区に足を運んでいるという。
(品切れになってなきゃいいんだけど……)
ちなみに、ジャングリアでも貨幣は流通している。
人間との戦争に敗れる以前、魔族領にそびえし魔王城には、莫大な量の金貨や宝物が保管されていた。
先代魔王が討たれ、連合軍の部隊が魔王城に迫った時、略奪を恐れた魔族は全ての財宝をリリスの城の地下へと移し、魔王城を爆破した。
現在、ジャングリラで国家事業に携わる者には金貨 or 現物で報酬を支払っている。
魔法薬店に行くと、入荷したばかりだという伽羅の香水があった。
この世界において香水は、
・精神を落ち着けるために効果的
・異性を惹き付けるために効果的
・気分をアゲるために効果的
なポーションとして扱われている。
「人気の商品だから気が引けるけど……1つ欲しい……いいかな?」
「もちろんですわ! リリスさま、ロキアさま、緋魅狐さま、アモンさま……どなたにプレゼントですか?」
対応してくれたエルフのお姉さんが悪戯っぽく笑う。
「全員、違うわ!」
強く否定しておいた。
「ところで、ロキアさまといえば……」
(だからロキアは関係ないと言っとるじゃろうが!)
「病院が大変なことになっているらしいですよ」
(え!?)
魔王様からお金はいただけませんと固辞されたが、経済を回したい旨を伝え受け取ってもらい、俺は急いでホスピタルへ向かった。
***
エルフの居住区にあるホスピタルは、ジャングリアでも指折りの治癒師と最新の治療薬ポーションが揃う。
料金は無料。
国営の施設だ。
50ある病床は人狼で埋め尽くされていた。
「いったい何があったんだ?」
青い顔でベッドに横たわる人狼のロビンに訊ねる。
ロビンはロキアの弟で、弓の名手だ。
「姉ちゃんの手料理を食べたら、こんなことに……」
(はぁーーーーー???)
「食あたりですわ。みなさん、症状が落ち着きましたが、ここへ運ばれて来たときは腹痛、嘔吐、ジンマシン、痙攣、幻覚、幻聴……と、それは酷いありさまでしたわ」
病室で経過を観察していた治癒師のホワイトエルフが言った。
「魔王様が、緋魅狐殿の料理を絶賛しておられたので……。姉ちゃんは『自分もサタンくんに“女子力高いね♡”ってホメてもらいたい』と、包丁を握ったのです。シチューのようなものを試食させられたオレ達は、このようなありさまに……」
(お~まいがぁああああああああ!)
「魔王様、お願いです。どうか、ロキアさまの手料理を食べてください。そして、『美味しい! ロキアは、いいお嫁さんになれるね♡』と言ってあげてください」
ロビンの隣のベッドに横になっている人狼が言った。
「食えるか! こんな惨劇を見せられて!」
「大丈夫です……魔王様のお力を持ってすれば、ロキアさまの飯テロにも、きっと耐えられるはず……」
ゲッソリと頬が痩けた別の人狼が言った。
「《飯テロ》の使い方が間違ってるわ!」
とはいえ、このままロキアを放置しておいたら……。
(更なる犠牲者が生まれる予感しかない!)
「わかった。なんとかするよ……」
俺は力なく言った。




