04.城下の村
リリスの眷属たちが暮らす村は、城から南に300メートル程下った所にあった。
木製の門を潜ると、ウサ耳のお姉さんが嬉しそうな表情でリリスを迎えた。
「こんにちは、リリス様! 本日は、どのようなご用向きで、こちらまで来られたのですかぴょん!」
目鼻立ちがはっきりとした可愛い顔をしている。
膝上丈のニンジン色のチュニックがよく似合っていた。
「シャルロットよ、元気そうでなによりじゃ。今日は、もしかするとお主たちの生活を一変させるかもしれん日じゃ。皆を広場に集めよ」
「は、はいだぴょん!」
シャルロットは敬礼をした後、脱兎のごとく駆けていった。
うらぶれた雰囲気の村を歩く。
モフモフした大きな尻尾をしているのは栗鼠族だろうか?
ゴブリンは成人で150cmくらい。
肌が緑という以外は、人間とさほど変わらない外見だ。
長くて縞縞模様の尻尾をしているのはアライグマ系か?
「あっ、リリス様だ!」
「リリス様~」
子供たちが手を振っている。
凄い人気だ。
リリスの隣を歩く俺に興味深そうな視線を向けていたので小さく手を振ると、きゃあきゃあ言って手を振り返してくれた。
もしもキャンディーとかお菓子を持っていたら、子供たちに渡して頭を撫でていたと思う。
村の広場には、かなりの人数が集まっていた。
「これより、この地に農園を作る。お主らを、飢えと危険から解き放つものじゃ。農園が完成すれば、腹を空かせることもなくなるじゃろう。さすれば、危険な魔獣が巣食う森の深部にまで狩りに行き、命を落とすこともない。開墾は、妾の隣におるサタン殿が買って出てくれた。皆も、協力するように」
数百の視線が一斉に、俺に向けられる。
(本当に出来るよね……大丈夫だよね……?)
変な汗が出てきた。
リリスに、ポンッと肩を叩かれた。
「サタン殿、よろしく頼む」
(ベルゼブブ、どうすればいい?)
<メッセージ>『まず農地を作りたい場所と、広さを確認してください』
リリスに尋ねると、
「村の近くであればどこでもかまわん。広さは、大きければ大きい程いい」
との答えが返ってきた。
『ではマスター、森の樹々が根元から徐々に地中へ埋まっていく……というイメージを強く持ってください。魔法の効果はイメージの力に比例します』
――イメージした。
身体の奥底から不思議な力が湧き上がってくるのが分かる。
『次に森を消し去る広さをイメージしてください。マスターがよく知る場所か、大きな建物を想像するのが簡単かと思われます』
東京ドームを思い浮かべた。
『準備が整いました。では、右手を空に向けて次の詠唱を行ってください――』
「闇夜に煌めく禁断の力よ、我が前に立ちふさがる森よりも高き存在を示せ。灼熱の業火よ、巨大な影を放ち、其処に在る全てを焼き尽くせ。魔力の渦巻く輪廻の輪よ、永遠の転生を我に授けん。【リインカネーション】!!!」
宙に巨大な魔法陣が出現――
次の瞬間、目の前の樹々が跡形もなく消え失せていた。
おそらく、東京ドーム1個分くらいの範囲で……。
(なんじゃコリャーーー!)
『木が枯れたり倒れたりした後、自然に分解され土に戻るプロセスを超高速で行いました。この土地にはルシファー様の加護が授けられたため、通常よりも短い期間で作物が収穫できます』
「サタン殿、何をやった?」
リリスが目をまん丸くする。
ギャラリーは口をパクパクさせて、目の前に出現した更地を指差していた。
「えーっと、森の樹を分解して土にしました。この土地では作物の発育も早いため、早期の食料安定化が期待できると思います」
ベルゼブブの言葉を伝えているだけなので、自然にへりくだった物言いになってしまう。
(にしても、魔法を発動させるためには、あんな厨ニ病的長尺詠唱が必要なんだな……結構、恥ずかしいな……)
『詠唱の文言はデタラメです。そもそも、マスターに詠唱は必要ありません。今回はギャラリーが多かったため、インパクトを重視して芝居がかった演出を提案させていただきました』
(次からはヤメて……)
『了解』




