表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/44

39.調査

【アルニラム神皇国】


 孤児院の院長、ローズは疲れきった顔で帰宅すると、執務室の机に着き溜め息を吐いた。


「ミャー♡」 

 黒猫のニュクスことナアマは、ローズの膝の上に乗ると、甘えた声で鳴く。


「あらあら、どこから入ってきたのかしら。ニュクスは本当に神出鬼没ね」


 ローズに撫でられ、ナアマはゴロゴロと喉を鳴らした。


「お帰りなさいませ、院長先生。……今期の予算はどのようになりましたか?」

 紅茶を運んできた修道女(シスター)のアンが、心配そうに尋ねる。


「魔王復活により、国防費が増えているとのことで、また少し削られました。わたくしの力不足で、みんなには迷惑をかけます。申し訳ありません」


「そんな! 院長先生は頑張っておられます。頭をお上げください!」 

 アンが慌てて言う。

「先代の教皇様なら、このような時世でも、きっと孤児院を守ってくれたはずです。教皇が代替わりして……」


「おやめなさい! ニコラウス様は、先代教皇を殺めた大悪魔・メフィストフェレスを封印した聖人。きっと深いお考えがあってのことでしょう……」


「そのお話なら聞いたことがありますが……本当のことなのでございましょうか?」


「ええ、事実ですよ。メーテス大聖堂の地下に、メフィストフェレスを封印した指輪が保管されているそうですよ」


(メフィストフェレス様が封印されている……?)


 ナアマの目がキラリと光った。



  ***



【皇国騎士ニックの家】


「なんというか、本当に魔人なのかと疑うことが多かった。連行していく奴等から、魔力の類は一切感じなかったからな」


 ニックの同期、ロバートはそう言ってエールを飲み干した。


「日を追うごとに、この任務から外してくれって思いが強くなっていく。『この人たちは、本当に捕らえなきゃならないのか』って疑問が常につきまとう」


「お前が感じた違和感を、騎士団長殿には報告したか?」 

 空になったロバートのジョッキにエールを注ぎながら、ニックが問う。


「言ったさ! だが『我々の仕事は教団がリストアップした人物を捕らえることだ。白黒は異端審問官が判断する。余計なことは考えるな』だと。どうしようもねえよ」


 ロバートは吐き捨てるように言って、またエールをグイッと(あお)った。


「……そういえば、異端審問所の警備にあたっていたヤツも、笑えない話をしていたな」


 ストレスに加え、酔いも手伝ったのだろう。 

 普段は口数の少ないロバートが饒舌になっている。


「裁判で、魔人であることを自白した連中の身体には、例外なく酷い痣や傷があったそうだ。取り調べで何が行われていたのか、推して知るべしだ」


「まさか、そこまで腐っていたとは……」 

 ニックは言葉を失った。


「こんなことを話しているのがバレたら、俺もお前も異端審問所行は確定だな」 

 ロバートは笑った。



  ***



【貧民街の教会】


「ベルゴリオ司教を殺した犯人は、本当に悪魔憑きだったの?」


 礼拝堂に碧の声が響いた。


「……わたくしには分かりかねます」


 司祭のモートンが、弱々しい声で答える。


「正直に言え! ここで起こった事件が引金となって『魔人狩り』が始まったんだ。この国が現在どんな状況なのか、説明が必要なのか?」


 エディが低い声で凄む。


「……ベルゴリオ司教を(あや)めたアンダーソンは『悪魔憑き』ではないと思います。彼には動機がありました。母親が行っていた過剰な布施により、家庭が崩壊したのです。原因はアストレア教団にあると、逆恨みしたとしても不思議ではありません」


「日々の暮らしさえ、ままならない貧民街の連中からも、金を毟り取っていやがるのか!」

 エディはモートンの胸ぐらを掴んだ。


「教団の上からの命令なのです。一介の司祭でしかない、わたくしに何ができるというのですか!?」


 悲痛な声だった。


「熱心な信者さんの中には、どん底の暮らしから抜け出そうと、藁にも縋る思いで布施をされている方もいます。それを断れというのですか? 神から見捨てられたと思わせろと? あなたに、そんなことをする権利があるというのですか!」


 頬に、涙が伝っていた。


 エディはモートンから手を離すと、

「アンタは、アンタで苦しんでいたんだな……すまなかった」 

 と、頭を下げた。


「……じゃあ、ニコラウス教皇は、なぜ『悪魔憑き』なんていう嘘を?」


「その問いには私が答えましょう、勇者様」


 強い意志が感じられる声がした。 

 碧が振り返ると、白い司教服を纏った長身の男が立っていた。


「お初にお目にかかります。勇者・アオイ様、そして皇国騎士・エディ殿。私はベルゴリオ司教の後任として当教会を預かるアヒムと申す者……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ