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38.閑話②

 勇者一行は、その日のうちに帰路についた。


 5頭の軍馬はマルスで預かっていたのだけれど、引き渡す際に、ちょっとしたトラブルがあった。

 ニンジンの《彩誉あやほまれ》を餌として食べさせたところ、いたく気に入ったらしく、ジャングリラから離れることをグズったのだ。


 急遽、ルシフェルから彩誉あやほまれを大量に取り寄せ、勇者パーティーに渡した。

 軍馬たちは納得したのか、ようやく重い腰を上げてくれた。


 我々の夕食のテーブルには、アルデバラン産の海産物がズラリと並んだ。


 勇者一行をもてなす場合に備えて、セーラが急遽仕入れてくれたのだ。


 ミシェル王と交わした契約では、塩や海産物の受け取りは震災復興後としていたため、今回は正当な料金を支払った。


「魔国からの買い付けということで疎まれるかと思っておりましたが、魔王様をはじめ四天王の方々のご活躍により、大歓迎されました。同行させた獣人たちも、『まさか人間からこんな対応をされる日がくるなんて』と、いたく感激しておりました」

 セーラが教えてくれた。


 勇者一行に振る舞うはずだった料理――

 スズキ(のような魚の)パイ包み焼き、伊勢海老(よりも一回り大きなエビ)のウニ衣焼き、タコとイカのマリネ、クラムチャウダーなどなど……は、どれもこれも美味しかった。


 セーラは本当に腕がいい。

 

「――お疲れ様でした。魔王討伐の理由がないと知った以上、勇者が攻めてくることはないでしょう。当面、無駄な血を流さずに済みそうで何よりです」


 食事を終えて、勇者一行とのやりとりを説明し終えると、アモンが言った。

 優雅に紅茶を(たしな)んでいる。

 

「それに、アルニラム神皇国で起こっていることの調査を行うと……悪くない流れじゃな」


 リリスは、ヤマトの民から献上された日本酒を飲んでいる。 

 昨年、仕込まれた樽の中で、最も出来の良かった樽の酒なのだそうだ。 

 リリスは上機嫌で、初めて味わう酒を堪能していた。


「調査の件だけど、一緒にやっていくの?」


 ロキアの前にはプリンアラモードが置かれている。

 最近、ハマっているデザートなのだ。


「それなんだけど、『協力しようか?』って聞いたら、断られたよ」


「なんという不敬な!」 

 バフォメットが嫌悪感もあらわに顔を歪めた。


「いや、理由は至極真っ当だった。『魔族の手を借りていることが明るみになれば、俺たちの身が危ういからな』だそうだ……。それより、遠慮しないで、何か飲めよ。エール、ワイン、日本酒、ウイスキー、ブランデー、ソフトドリンク……何にする?」


「では、いちごオーレを頂戴いたします」


(まさかの、いちごオーレかい!)


「勇者パーティーの調査の進捗は、ナアマから逐一報告がありんしょう」 

 煙管をくゆらせながら緋魅狐が言う。

「ナアマはナアマで、独自に調査を行いんしょうから、遠からず黒幕は明らかになりんしょう」


「そうだな。俺は幸せ者だよ、優秀な配下に支えられていて……。今日、緋魅狐が点ててくれたお茶も絶品で、勇者パーティーも感心していたしな。以前、料理を作ってくれた時も思っていたんだけど、緋魅狐って女子力が高いよな。いい奥さんになるんだろうな」


 何気なく言ったのだが、これがいけなかった。


「お~っほっほっ!」

 緋魅狐は鉄扇で口元を覆って笑った。

「恥ずかしゅうござりんす、魔王様。まことのことを申されて……確かにアチキは『女子力』というものが高いかもしれんせん。食べることしか能のありんせん、悪魔やフェンリルやドラゴンたちとは違って……」


「なんじゃと、緋魅狐……キサマ、死にたいらしいな」 

 リリスが、ゆっくりと立ち上がる。


「気が合うね、リリス。ボクもその女狐を八つ裂きにしようかと考えていたよころさ」 

 ロキアがフェンリルに姿を変える。


「魔王様、女狐にたぶらかされてはなりません。リリス、ロキア、その毒婦を魔王城の外へ! 私も龍の姿となり加勢します!!」


「うわぁああああああ! 待て、落ち着け、喧嘩するな!! バフォメット、こいつらを抑えろ!!!」


「みなさん、どうか冷静に!」 

 バフォメットが4人の間に割って入る。

「……痛い、痛い、痛い! 魔王様……む、無理です!」


「「助けてーーー!!」」

 

 バフォメットと俺の悲鳴が魔王城に木霊(こだま)した。

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