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30.海洋都市国家アルデバラン④

『首尾はどう? こっちは一段落した。手が足りないようなら、応援に行くけど……?』


 念話で、リリスと緋魅狐に連絡を取った。


 2人も仕事が片付いたらしく、王城で合流することにした。


 騎士達から報告を受けていたミシェル王は、我々に謝意を述べると、リリスが作成した契約書にサインをした。


「サタン魔王陛下、アルニラム神皇国をご存知でしょうか? 彼の国は、魔王討伐のため、既に異世界より勇者を召喚しているそうです。くれぐれも、ご注意を……」


 別れ際、ミシェル王が言った。


「何故、俺に教えた? 俺が死んだら、たった今、交わした契約は終了する。塩も海産物も納める必要がなくなる。貴国にとっては、好都合だと思うが?」


「あなたたちと実際に接してみて、魔族に対する見方が変わったからですよ。姿形は違うかもしれないが、理解しあえないということはない。すぐにとはいかないかもしれませんが、将来的には良きパートナーとして、それぞれの国の発展を手助けしあえる関係を築けたらと考えています」


「ありがとう。俺も、共存共栄できる関係が築けることを、心から願っているよ」



  ◇



「しかし、いくらなんでも勇者の召喚は早すぎないか? 俺が何をしたっていうんだよ? 問答無用で殺す気MAXじゃないか」


 ジャングリラに戻った俺は、魔王城で四天王と別れ、国境防衛都市マルスへ行き、やりきれない思いでバフォメットに愚痴った。


「神皇国ですからね。魔王……いや、そもそも魔族の存在そのものが許せんのでしょう」


 バフォメットに案内され、見張り塔に上る。


 高さ50メートルの塔には龍人とリザードマンが1名づつ、計2人体制で任務に就いていた。


 龍人にはドラゴン、リザードマンにはワイバーンの姿になれる者がいるらしい。

 アモンが最前線に派遣したこの2名も、おそらくそうなのだろう。

 桁違いの魔力量を感じた。


「ご苦労様! 何か変わったことは?」


「こ、これは魔王様! ……今のところ、特に異常はございません!」


「アルニラム神皇国が勇者を召喚したそうだ。いつ、何が起こるか分からん。引き続き、気を引き締めて任務に当たるように」 

 バフォメットの言葉に、歩哨の2人は、

「イエッサー!」 

 と答え、敬礼をした。


「ところで、準備して欲しいと頼まれた武具と防具だけど、届いでる? ドワーフたちに、最優先で作るように指示しておいたんだけど……」


「滞りなく!」

 バフォメットは胸に手を当て、深く一礼をした。


 見張り塔の外には、薄紫色の大地と青い空が広がっている。 

 地表を覆っているのは酸化したタングステンの粒子なのだそうだ。

 雄大で神々しくすらある光景だった。


「ここを血で染めたくはないんだけどな……」

 螺旋階段を下りながら、ポツリと呟いた。

 

「魔王様、勇者と話し合われてみてはいかがでしょう?」

 俺の前を歩くバフォメットが言った。


「こちらから勇者に会いに行くのか?」


「はい。魔王様も、勇者も、出身は異世界。考え方、価値観などで共通する部分も多いかと思われます。無駄な犠牲が出る前に一度……」


「悪くない手だと思う。俺も、どんな奴が勇者として召喚されたのか興味があるしな」


「私の愚見に過分なお言葉、身に余る光栄。……ですが、魔王様が勇者と接触する前に、充分な下調べは必要かと存じます。何卒、アルニラム神皇国に斥候を放つご許可を!」


「自分の身を守る以外の戦闘は固く禁ずる――これを厳命しておいてくれ」


「御意!」

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