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25.国境防衛都市

 城塞完成後、森で細々と暮らしていた魔族たちが、庇護を求めて連日のように城へやってきた。

 

 もしかすると、勝手に城塞を築かれたことに対する不満を持つ者もいたのかもしれない。

 が、都市の発展ぶりや四天王が一堂に会する様子を目の当たりにしたためか、皆一様に「魔国の一員として全身全霊を持ってジャングリラの発展に尽くさせていただきます」と誓った。


「あ~、やっと終わったぁ~!」

 全ての謁見を終えた俺は、玉座で大きく伸びをする。


「今日の分はの。明日以降も、まだまだ続きそうじゃが」

 リリスが面白そうに言う。


「いったい、どれくらいの魔族が、この森に隠れ住んでいるんだよ!? もう相当な数が、首都に集まっているぞ」


「ボクも、これほどの数の魔族がいたなんて知らなかったよ。でもさ、国を守るための戦力、生産するための労働力が増えるのはいいことでしょ?」

 ロキアの尻尾がリズミカルに踊っている。


「それは確かに」

 俺は苦笑した。

「ジャングリラの住民が増えることは大いに喜ぶべきことなのに、忙しさのせいで愚痴っぽくなっちゃったね。悪かった」


「魔王様、そろそろ本格的に軍の整備に取り掛かられてはいかがでしょう?」

 アモンが恐る恐る言った。

「現在、城門を警備する戦士(ガーディアン)は若干名しかおりません。いかに城塞が堅牢とはいえ、有事には心細い戦力です。魔国の平和を維持するためにも、それ相応の戦力を城塞付近に配置すべきかと……」


「もっともな意見だな。実は、俺も気になっていた。戦士の数だけでなく、生活環境も整えなきゃならないってね。ガーディアンたちが安心して任務に就けるように、シャングリラ第二の都市(まち)を造ろう」


  翌日から、さっそく国を挙げての大工事が始まった。

 首都から城塞までは、相当な距離がある上に、道らしき道も存在しない。

 必要な物資と人員は、大規模な転移魔法陣によって輸送。

 城塞側からも、首都まで簡単に帰還できるようにした。

 万一、外敵が城門を突破して都市が落とされそうになった時は、全員が退避した後、首都側の魔法陣を消して無効化すればいい。


 都市が2つになるということで首都をルシフェル、国境防衛都市をマルスという名前にした。

 マルスの責任者は、四天王の強い勧めもあって、黒山羊の頭と黒い翼をもつ悪魔・バフォメットに任せることにした。

 テンプル騎士団が崇拝していたとかで有名な悪魔だ。


「大役を仰せつかり、身に余る光栄に存じます。このバフォメット、必ずや魔王様のご期待に応えて見せましょう」


「何か必要な物はあるか?」


「戦士たちのために、充分な武器と防具をお願いしたく存じます」


 魔法による遠距離攻撃が行えない者たちのために、弓・クロスボウ・バリスタなどを多めに用意して欲しいとの要望だった。


「ドワーフたちに頼んで、大至急、準備するよ」


(そういえば、冒険者パーティー《銀の翼》のアーチャーは、矢尻に魔石を使ったモノを使っていたな……)


 俺は《蒼の鉱山》でパメラが放った矢のことを思い出した。


(かなりの威力だったけど、うちでも作れるのかな? 併せてドワーフたちに相談してみよう)



  ***



「矢尻に魔石! なるほど、それは面白い着眼点ですな」


 魔王城の工房で働くドワーフのキプロスが、興味津々といった様子で目を輝かせた。


「魔王様は、人間が使ったその矢の威力を、実際にご覧になったわけですね?」


「うん」

 俺は頷いた。

「アイアンゴーレムに対して使われたんだけど、命中したとたん物凄い炎を上げた。アイアンゴーレムには通用しなかったけど、他の魔獣が相手なら大ダメージを与えていたんじゃないかな」


「ふむ……。単に魔石を矢尻に加工した物ではなさそうですな。魔法使いの方と共同で開発した方が、魔王様が望む結果の品が造れると思うのですが……」


「もちろん、いいよ。《魔女の村》に行って、協力してくれる人物を見つけよう」


 《魔女の村》は、魔王城の傍に作った香木の森の中にある。

 伽羅(きゃら)や白檀を植樹したところ、幻想的な香りに惹かれるものがあったのか、魔人やエルフの魔法使いが居住許可と、香木の一部使用を求めて俺の元に殺到した。

 新しい(ポーション)の研究・開発に役に立つならと許可して、ついでに高麗人参とかベラドンナとかラベンダーとなど、魔女のお姉さんたちの研究心を掻き立てそうな植物も幾つか植えた。

 

「このエリアには初めて足を運びますが、何というか……神秘的な空間ですなぁ」

 キプロスが夢を見ているような目で、タメ息を吐く。


 確かに。


 絵本に登場しそうな可愛らしくも風変りなエルフのツリーハウス、小さなお城のような魔人の家、キプロスが初めて目にする異世界の樹々に花々、その蜜をついばむ色とりどりのハミングバードたち――。


「ごきげんよう、魔王様!」


 振り返ると、ホワイトエルフのローズが、カゴ一杯のラベンダーを持ってニコニコと微笑んでいた。


 青い瞳、腰まで届く金色の長い髪、彫刻のように整った美しい顔立ちとスタイルをしている。


 きっと、ラベンダー畑からの帰り道、我々に遭遇したのだろう。


「今日は、どのようなご用事で?」


「魔石を使った矢尻を作りたいんだけど、協力してくれる魔法使いを探しに……」


「わたくしでよければ、喜んで協力させていただきます!」


 最近、ルシフェルに越してきたばかりのローズは、あまりにも快適な生活を送らせてもらっている恩に報いるため、一刻も早く何かの役に立ちたいと考えていたのだそうだ。


「キプロスに知恵と力を貸してやってくれ。よろしく頼む」


「魔王様の御心のままに」


 ローズは優雅な仕草でお辞儀をした。

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