21.勇者・星野碧①
【アルニラム神皇国・皇国騎士団本部・鍛錬場】
「……ま、参りました」
木剣の切先を喉元に突き付けられた騎士が声を震わせる。
「お見事です、勇者様!」
騎士団総長のギークは、お世辞抜きに賛辞を贈った。
超人的な身のこなし。
圧倒的な強さ。
これが女神に選ばれし勇者の能力……!
「模擬戦にお付き合いいただき、ありがとうございました!」
白の戦闘服に身を包んだ星野碧は、人懐っこい笑顔を浮かべた後、深々と一礼した。
異世界に来る前の碧は、都内の女子校に通う高校生2年生だった。
ダンス部に所属し、Hip-Hopダンスの国際大会に出場するのを夢見て、練習に明け暮れる日々を送っていた。
その日、碧は疲れていたのだろう。
部活からの帰り道、いつもより重い足取りで駅に向かって歩いていると、夕暮れの薄暗がりの中、車道に飛び出す黒猫の姿が目に入った。
反射的に助けようと手を伸ばしたが、イメージ通りに身体が動かなかった。
大型トラックの急ブレーキ音――。
次の瞬間、碧の全身を激しい衝撃が駆け巡り、意識は闇に閉ざされた。
目覚めた時、碧の前に女神がいた。
「勇敢なる者よ、あなたにお願いがあります。勇者となって、魔王を討ってください」
「……え、私?」
「そうです。あなたは選ばれし者です。魔王を倒す力があります」
「ちょ、ちょっと待って! 私は死んだの? あのネコちゃんは……?」
「子猫は無事です。残念ながら、あなたは……」
そうか……私は死んだのか……。
不思議と悲しみの感情は沸いてこなかった。
呼吸しているし、会話もしている。
実感がなかったのかもしれない。
「そっか……ネコちゃんは助かったんだ。良かった……。でも、魔王を倒すなんてゼッタイ無理だよ! 私、人を殴ったりした経験すらないから!」
「あなたには女神の加護を授けます。弱き者を助けるために、自分の命を投げ出した純粋な魂と勇気があれば、必ずや魔王を討つことができるでしょう。どうか、我々の世界を救ってください」
アルニラム神皇国に勇者として召喚された碧は、それから毎日、皇国騎士団の指導の下、剣技を磨いた。
女神から与えられた【剣聖】のスキルによって、碧は次々に技を習得し、この日で皇国騎士団の上位10名の騎士全てに模擬戦で勝利した。
「勇者様、そろそろ次の段階の訓練に入りましょう」
ギークは提案する。
「皇国騎士団が行う魔獣の討伐に、勇者様もご参加いただき、実戦経験を積んでいただこうかと考えておりますが、いかがでしょう?」
ついに来たか……!
碧に緊張が走る。
魔獣といはいえ、命を奪うという行為を自分が行えるのだろうか?
碧は自分の頬を両手でパシンッと叩いた。
できる、できないの話じゃない。
やるのだ!
私の使命は、魔王を倒すこと。
ただ、為すべきことを為すのみ!
「楽しみです!」
碧は力強く答えた。




