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15.人間の国②

 ウォータールーは石とレンガ造りの家が立ち並ぶ、中世ヨーロッパのような美しい街だった。


 街の中心部には噴水や時計塔がある。

 活気に満ちた市場には、様々な露店が軒を連ねていた。


 たくさんの人が行き交う通りには、前世で見た異世界アニメに登場するような冒険者っぽい恰好をした4人組の姿も見える。

 戦士が2名、魔法使いとアーチャーが1名づつ……といった感じか。


(いまさらだけど、俺が魔族だってバレないだろうな?)


<メッセージ>『マスターの種族は悪魔皇帝デーモンエンペラーですが、外見上は人間と何ら変わりがありません』


(デーモンエンペラー? 何その強そうな響き……やば!)


『最強種です。現在、魔力は意図的に放出しない限り、体外に漏れることはないようにしていますので、気づかれる心配はないでしょう』

 

 とはいえ《君主危うきに近寄らず》という言葉もある。

 その場を離れて宿を探すことにした。


 建物に掛かった看板に目をやりながら歩いていると、

「お兄さん、この辺りじゃ見ない顔だね。何を探してるの?」

 店の前で客引きをしているメイド服の女の()に声を掛けられた。

 可愛いフクロウの髪飾りをしている。


「宿を探しているんだ。今日、この街に着いたばかりで右も左も分からなくて……」


「じゃあ、うちに泊まりなよ! 料金は一泊……な、な、な、なんと驚きの良心価格、銅貨10枚!! 一階で食堂もやっているから、別料金で朝も昼も夜も食べることができるよ。うちのシチューは近くの町からも、わざわざ食べに来る人がいるくらい美味しいんだから!」


「それは楽しみだな」


「でしょー、でしょー。はい、それじゃあ決まりだね!」

 

 手を引かれて中に入った。


 食堂のカウンターで記帳して、料金を前払いで支払うと、人のさそうな女主人から部屋のカギを渡された。


「奥の階段を上がって右手、一番奥の部屋を使っておくれ」



  ***


 

 その日の夕食時――。


「うわ~、これは本当に旨い!」


 看板料理のシチューを口に運んだ俺の頬が緩む。

 ミシュランガイドで紹介されている名店のビーフシチューみたいな味だ。

 売れっ子クイズ作家になった大学の先輩に、ご馳走してもらった一皿にも引けを取らない。


「お兄さん、楽しんでる?」


 店先で客引きをやっていた給仕だ。

 仕事が一段落したのか、俺の対面の椅子に腰掛ける。


「サボってていいのか? 女将さんに怒られても知らないぞ」


「ヘーキ、ヘーキ! 忙しくなったら、すぐに動くからさ。……それより、ウオータールーで指折りの食堂《フクロウ亭》の料理のお味はいかがかな?」


「文句のつけようがないな。シチューは勿論、オムレツもサラダも丁寧に調理されていて、プロの仕事って感じだ。部屋も掃除が行き届いていたし、連泊しようかと思っている」


「本当!? 私の名前はローラ、よろしくね! お兄さんの名前は?」


「佐丹龍之介」


「サタンリュノ……長くて発音しづらいわね……ごめんなさい、サタンくんでいい?」


「お好きなように」


 この世界では<サタン=悪魔>という概念はないらしい。

 前世では嫌というほどあった名前いじりがない!

 ありがたい話である。


「サタンくんは冒険者? この街に来たのは、領主サマの鉱山に出現したゴーレムを討伐するため?」


「鉱山にゴーレム? その話、詳しく教えてよ」


 ローラの話によると、伯爵が所有する魔鉱石の鉱山にアイアンゴーレムが出現。

 鉱員の多くが命を落としたという。


 安全が確保されるまでは採掘は中止となり、一週間――。

 仕事にあぶれた労働者は勿論、何かの拍子にアイアンゴーレムがウォータールーを襲うのではないかという不安が街に暗い影を落としているのだそうだ。


 冒険者ギルドからの依頼で、何人もの冒険者たちが討伐クエストに挑んでいるが、いまだ未達成。

 昼間、市場の近くで見かけた4人組も、クエストに挑むパーティーだったのかもしれない。


「いい? ソロでどうにか出来るモンスターじゃないから! サタンくんは絶対に行っちゃダメだよ!」


 店の奥から、女将さんが大声でローラを呼んだ。

 新規の来店者があったようだ。


「……ヤバッ、もう行かなきゃ! サタンくん、報酬が高いからって《蒼の鉱山》には絶対に行っちゃダメだからね!」

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