12.再会
(完敗だ……)
落下しながら、アモンは思う。
(私は、このまま死ぬのかな……? 多分、そうなんだろう……)
森の樹々が倒れ、大地が揺れる。
(闘いが全ての生涯だった。
誰よりも強くありたいと願った。
私に敵うドラゴンは皆無だった。
《最凶》《暴君》などと称され、誰もが私を恐れ、敬った。
同時に、私は孤独になった。
誰も、本心を明かさない。
私の顔色を伺い、媚び諂う。
だけど、リリスとロキアと緋魅狐たちは違った――。
魔王様が勇者によって倒された時、私は新魔王となるべく、リリスに闘いを挑んだ。
誰もが、次の魔王にふさわしいのはリリスだと考えていたから……。
力で証明したかったんだ。
私の方が魔王にふさわしいのだ、と――。
「こんな時に、魔族同士で争って何の意味がある? 魔王になりたくば、お主がなればよかろう」
リリスは言ったけど、
「譲られた称号に意味などない」
私の言葉にリリスは呆れ、魔王軍から去ってしまった。
いつしか、ロキアと緋魅狐も魔王軍を離れ、私は再び独りになった――)
アモンの身体が小さくなっていく。
(ゴメンなさい……リリス、ロキア、緋魅狐……私、間違っていたよ……最後に、もう一度だけ逢いたかった――)
アモンは静かに目を閉じる。
頬に一筋の涙が光った。
***
「おおっ……目が覚めたようじゃの」
意識を取り戻したアモンの耳に、なつかしい声が響く。
ぼんやりとした視界の焦点が定まると、アモンの瞳に、やさしく微笑むリリスの顔が映った。
「えっ!? ここは、いったい……?」
身体を起したアモンの目に、信じられない光景が飛び込んでくる。
リリスだけではなく、ロキアと緋魅狐の姿もあったのだ。
「ここは妾の城じゃ。気兼ねなく、ゆっくりいていけ」
「派手にやられちゃったみたいだね~。でも、気を落とすことないよ。サタンくんには、ボクだって勝てなかったんだからさ。仕方ない、仕方ない!」
ロキアが腕組みをして、うんうんと頷く。
「もう少し横になっているでありんす。アモンは、ここへ運ばれてから3日間、眠り続けておりんした。無理は禁物でありんすえ」
――あの日。
サタンとの闘いに敗れたアモンは、瀕死の状態だった。
体が大きければ大きい程、生命維持に要するエネルギー量は多くなる。
生存確率を上げるため、アモンは人形である龍人に姿を変え、そこで力尽きて意識を失った。
アモンを追って地上に降りたサタンは、なぎ倒された樹々の中心に横たわる、金色の髪の女性を見つけた。
角も尻尾もなかったが、状況からアモンだと分かった。
治癒魔法で怪我を癒した後、リリスの城へ運ぶと、
「あとは妾たちが引き受ける」
リリスが言った。
「リリス、ロキア、緋魅狐……会いたかった! 逢えてよかった!!」
アモンの目から自然と涙が溢れる。
「ごめんなさい! あの時は、本当に――」
「もう、よい。昔のことじゃ」
「へぇええええ! アモンが謝るなんて、明日は赤い雪が降るんじゃない?」
ロキアの脳天を緋魅狐の煙管が打ち抜く。
苦悶の表情を浮かべて、ロキアはうずくまった。
「いまのはロキア、お主が悪い!」
リリスが冷たく言い放ち、ロキアはアモンに、
「ゴメン」
と頭を下げた。
「パァアアアン!」
緋魅狐が一つ、大きく柏手を打つ。
「なにはともあれ、これで手打ちといたしんしょう。昔のことは水に流して――」
「「「おかえり、アモン!!!」」」
リリス、ロキア、緋魅狐の声が重なった。
「ただいま!」
アモンは涙を拭い、笑顔で答えた。
四天王は再び一つになった。




