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01.プロローグ



 目が覚めると真っ白い天井が見えた。


(ここは……どこだ?)

  

 俺の名前は佐丹龍之介さたんりゅうのすけ、21歳。

 どこにでもいる量産型の学生だ。

 大学ではクイズ研究会に所属している。


 数ヶ月前、ネットのクイズ番組『雑学王決定戦20✖✖』に出演し、見事優勝。

 賞金を獲得した俺は、夏休みを利用して、憧れだったギリシャを旅していたはずなのだが……?


(確か、アクロポリスに行ったんだよな……パルテノン神殿を見学している途中、不意に意識が遠のいて……)

  

「気がついたか」

  

 声の方向に目をやると、空前絶後の超絶イケメンが立っていた。


(古代ギリシャの彫像みたいだ。この人が助けてくれたのか? 天井が白いということは、ここは病院で、この人は医者ドクター?)

  

「助けていただき感謝します。本当にありがとうございました」


「礼を言われる覚えはない。断っておくが我は医者ではないぞ?」

 男は可笑しそうに笑った。


 そういえば、この男のいでたちは全身黒ずくめである。

  

「我が名はルシファー。貴殿の世界で言うところの堕天使、あるいは悪魔と自己紹介すれば分かるかな?」


「はぁーーーーーー!?」

  

 俺は飛び起きた。


「なんで悪魔界隈の頂点が俺の前に……? 俺、何か悪いことしました? これから殺されるんですか?」


「心配するな。貴様はもう死んでいる」


(北斗の拳かよ!)


「我が屠った。貴殿を(この)世界へ転生させるために!」


「異世界転生って女神様の御業じゃないんですか? ……その、勇者とかを召喚するために」


「そう。実に忌々しい手口よ。この世界の揉め事に別世界の人間を巻き込むという……。が、結果が出ているのも事実。異世界からやってきた勇者とやらに、魔族は何度も痛い目にあってきた。そこで今回、我も試してみることにしたのだ。異世界からの魔王召喚を!」


「そのために俺を殺したんですか? 転生じゃなく転移でよかったじゃないですか!」


「そのやりかたは知らん」


「鬼! 悪魔!!」


「悪魔ですが、何か?」


 俺は頭を抱えた。


(どうしてこうなった……どうせ召喚されるなら綺麗な女神様に呼ばれたかった……)

  

「そう暗い顔をするな。女神は転生者に一つだけしかチートを与えぬそうではないか。我はそんなケチ臭いことはせん。貴殿には我の最大限の加護を与えよう。それを詫びとして受け取ってほしい」


「俺はこの世界で何をすればいいのですか。勇者を倒せばいいのでしょうか?」


「それは貴殿が判断することだ。我の望みは魔族の幸せ……ただそれのみ!」

  

 俺の意識は再び遠のいていった――



  ◇



 わらわの名はリリス。

 1000年の時間ときを生きる大悪魔デーモンロードじゃ。

 神代の頃に建てられたというルシファー様の神殿を守護する者であり、旧魔王軍の四天王が一人でもあった。

  

 数分前――

 妾が神殿近くの居城で、庇護する者たちから陳情された難問に頭を悩ませていた時、不意に魔力の揺らぎを感じた。

 長きにわたる生の中で、妾が初めて出会う奇妙な波動じゃった。


「何事じゃ……?」


「リリス様、いかがなされましたか?」

 妾が信頼を寄せる配下の一人、ダークエルフのオークニーが緊張した面持ちで問う。


「神殿の方から奇天烈な魔力の波動を感じた。オークニーは気づかなかったか?」


「申し訳ございません。わたくしは何も……」

 オークニーが頭を下げる。

「しかし、リリス様がそうお感じになられたのでしたら、それこそが真実。わたくしが確認してまいりまます」


「いや、妾も行こう。この目で確かめてみたい。オークニー、ついてまいれ」


「お待ちください! リリス様に万一のことがあったら……」


「心配は無用じゃ。妾は強いぞ? 誰が相手であっても、そうそう後れは取らん」


 城内は平時と同様、穏やかな時間(とき)が流れておる。

 誰も慌てた様子がないということは、妾の勘違いか?

 そうであればよいのだが……。

 

 ルシファー様の神殿はソドムの森――人間どもが“生きて帰れない死の樹海”と恐れる大森林の中心部にある。

 神殿の背後には、霊峰ゴモラが後ろ盾のごとく鎮座しておる。

 

 樹々の間を抜けて、神聖な空気が漂う空間に出ると、一万年以上経っても風化しない不思議な石で建てられた白亜の神殿が、いつもと同じように荘厳な姿を見せた。


 異変は……あった。


 ルシファー様が張ったと言い伝えられる強固な結界によって、誰も立ち入ることができないないはずの神殿から、一人の美しい()()が現れたのじゃ。

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