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第6話

 数日後、誰かから聞いたのか、アシュトンが現れハイライトの消えた瞳で私に尋ねた。

「……元カノやその妹から俺の話を聞いたって、聞いたんだけど……」

「聞きましたね」

「……なんて言われたの?」

「つい最近まで、元カノ宛に手紙を送っていたそうですね」

 笑顔で言ったら慌てている。

「いや! 君と付き合うことになってすぐやめたから! ていうか、やきもちやいてるの!? うれしいんだけど!」

 最後、輝く笑顔になったので私も笑い返した。

「わざと嫉妬させるようなことをしたら即別れます」

 ヒュッと息を吸い込むアシュトン。


 私は、ずい、と前のめりになり人差し指を立てる。

「いいですか? 何度も言いますけど、私は一番優先されたいし、誰よりも選ばれたいんです! アシュトン様が『君が好きな俺が好き』だろうと、私自身を見ていないわりに愛が重かろうと、どうでもいいんですよ選んでくれるなら! 選んでくれるなら誰でもいいんです! だから、私も一緒なんで人のこと言えません!」

「そ、そっか……それなら……手紙を出してもいい? 押せ押せでいくと嫌われるからほどほどにしろって両親からも妹からも、ついでに元カノとその妹からも叱られて、手紙を止められたんだ」

 上目づかいで尋ねてきた。


「いいですよ。むしろ、ほどほどにしなきゃいけないからって他の令嬢に手紙を出したりとかされるほうが嫌なので。もう一度言います。私は優先されたいんですー!」

「大丈夫。俺、よそ見をしないから。だから君も他の男から手紙を受け取らないでね?」

 って言われたので、私はフッと冷笑した。

「……他の男どころか、令嬢からも片手で数えるくらいしかないですわー。ちなみに、男がくれる手紙の内容は、私の幼なじみについての質問事項ばかりが書いてあるものばかりなので、即くず籠行きですわー」

「じゃあ、読まずに返して」

「最近は、言われずともそうしてますよ。なんせ、私の名前すら知らない奴が書いてますから。『ボーモント家の令嬢へ』って書いてあるお手紙、受け取りたいって思います?」

 アシュトンが呆れ顔になった。

「……うーん。なんていうか、そこまでいくと話を盛ってるのかって思っちゃうよ。ひいき目じゃなくてもローズマリーは美人の部類に入るのに、なんでそんなことになってるの?」


「……私も知りたいです。でも、昔からなんですよ。そして盛ってません。ガチで手紙はソレばっかりが届くし、交際の申し込みは幼なじみ目当てで彼女と縁をつなげたら即別れ話をされますし、クラスメイトは私の名前を覚えていませんし、名前を呼ばれたのはアシュトン様の元カノの妹であるナーシー・エアーライン伯爵令嬢が、超久しぶり……というか、幼なじみ以外で私の名前を呼ばれたことあったかな?」


 話していると悲しくなってくるが、本当なのだ。


「大丈夫! 俺がローズマリーの名前をたくさん呼ぶし、手紙も送るよ!」

 アシュトンに笑顔で言われたので、もう一度釘を刺した。

「私の幼なじみについて尋ねてきたら、即くず籠に入れて以降は受け取り拒否しますからね」

「いや、知らない人の話なんてしないから、安心して」

 そう言われた。


 ……アデラインって、高位貴族じゃ知らない人が多いのか。

 そういえば、侯爵令嬢も伯爵令嬢もアデラインのことを知らなかったな。話題にすら出さなかったもん。


 その話以降、手紙が毎日届くようになった。

 こちらも返事を書いて送っている。

 アシュトンの手紙は「さすが高位貴族……!」と感心するような文句のつけようのない手紙だった。

 時候の挨拶から始まり、前フリがあって、本題、そこから締めくくりまでの文章が非常に自然なのだ。

 型どおりの定型文を使っています、なーんて感じは一切無い。

 なので、私も書いてみて、アシュトンに添削してくれと添えておいた。

 侯爵夫人ともなれば、お手紙を書くこともあるだろう。

 アシュトンなら代筆してあげるとか言ってくれそうだが頼りっきりも良くないし、たぶんバレる。

 なので鍛えてもらいたいと書いたら、次の手紙から、この文章は良い、ここはこういう表現のほうが好まれる、と書いて送ってくれるようになった。

「めっちゃいい人にしか思えないんだけど……。なんでみんなそんなに嫌がったかな?」

 首を捻るよ。


          *


 ラベンダー・ホワイトツリー侯爵令嬢から、

「その後はいかがです?」

 と聞かれたので、手紙を出し合って、ついでに私の手紙を添削してもらっていると答えたら啞然とされた。

「とてもいい方だと思いますが……。おかげさまで少しずつ手紙の文章力も上がってきましたし」

 御三方は、私をまじまじと見ると、視線を交わしてうなずき合った。


「ローズマリー様とアシュトン様は、相性が良いのですわ」

 と、ラベンダー・ホワイトツリー侯爵令嬢から言われた。

「アシュトン様は、手紙も圧がすごかったのです。読むと、本来の自分とかけ離れた美辞麗句がずらりと並び、いったい誰宛に出したのかしらと首を捻りたくなるくらいでした。……ですが……。えぇ、確かにそうでしたわ。私の憧れていたアシュトン様は、教えを請うと懇切丁寧に教えてくださって……。その頼もしく優しいお姿は私と婚約した際に消えてしまったのですが……。そうですか、そうやってアシュトン様の良い部分を見て学ぼうとするローズマリー様の姿勢が、アシュトン様の暴走をソフトにしているのですね……」


 いえ、そもそも暴走していませんて。

 暴走しているっていうのは、アデラインの好みを知りたいあまりに名前も知らない人宛に『お前友人だろ? 教えろよ』って手紙を出す人のことを言うと思いまーす!


「私たちの間では皆ローズマリー様を好意的に受け止めておりますので、教養はさほど無理しなくても大丈夫ですよ」

「それより、アシュトン様をよろしくお願いいたしますわね?」

「無理はせず……相性がよろしいようだから大丈夫そうですが、あくまでも無理せず、つらいようだったら相談に乗りますから、早めに言ってくださいね」

 と、声をかけられた。


 いや実際、めちゃくちゃ好意的だよね。

 でも、聞いた話じゃアシュトンもそこまで暴走しているようには思えないんだよなー。

 なんでそんなにダメだったんだろ?


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