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第10話

 数日後、侯爵家に招待された。

「彼女が、俺のお嫁さんだよ!」

「お招きいただき、ありがとうございます」

 アシュトンに紹介されたので挨拶をすると、なぜか全員がホッとしたような顔をしている。

「こんなマトモなお嬢さんを捕まえてくるなんて……」

 侯爵夫人が目尻の涙を拭うと、

「お母様、まだ早いわ!」

 と、妹嬢が返している。


 うーん、妹嬢は歓迎していないのか……と思いきや、

「まだ付き合って日が浅いっていうじゃない! お兄様が捨てられる可能性がまだまだあるのよ!」

 と、言いだしたよ。

「……いえ、あの、アシュトン様とは結婚を前提にお付き合いをさせていただいておりまして……」


 とたんに全員が、一斉に私を凝視したのでちょっと怖かった。


「……子爵家の娘ですが、教養の授業は高位貴族のほうで受けておりまして、令嬢がたの助けもあり、平均レベルには達しているとのことです。……それでも侯爵夫人としてはまだまだかと思いますが、精進しますので何卒よろしくお願いします」

 口上を述べ頭を下げると、全員がウンウンとうなずく。

「気にしなくていいのよ。私も完璧とは言い難いわ。他の令嬢とも交流があるのでしょう? それでじゅうぶんよ。私も後押しするから!」

 と、夫人がグイグイきた。

 アシュトンのグイグイさって、夫人に似たんじゃない?


「うんうん、向上心があり努力家で良いお嬢さんじゃないか。そうか、子爵令嬢まで広げたら見つかったのか。良かった良かった」

「義姉様、困ったことがあったらなんでも言ってちょうだい! 私も伝手を総動員して義姉様を応援するから! その代わり、愚兄をよろしくね!」

 あ、当主様と妹嬢もぐいぐいくるな。

 とりあえず、自己紹介をお願いしたいところです。


 執事らしき、老齢の使用人の方が咳払いし、落ち着くように指示をしてようやく全員が挨拶を交わした。

「アシュトンが困らせていない? また手紙攻撃をしているって聞いて叱ったんだけど。迷惑だったらちゃんと言うのよ?」

 いきなりブラックウッド侯爵夫人が言いだす。

「……いえ、アシュトン様のお手紙は、洗練された文章に詩的な表現で、非常に勉強になります。私は手紙を出すことがあまりなかったので、ご多忙なアシュトン様に指導を受けておりまして……。アシュトン様とのやりとりで少しずつ文章がうまくなってきて、非常にありがたく思っております」


 全員が感心したような顔をした。

「……いやー、真面目な御令嬢と縁を結んだね。アシュトン、お前、大切にしろよ」

 ブラックウッド侯爵が言い、アシュトンが深くうなずく。

「これを逃したらもうないと思うから、彼女の望みは全て叶えるくらいの心持ちで挑んでる」

 ……アシュトンが大仰なことを言いだしたよ。

「いえ……。こちらこそ後がありませんので……」

 ヴァレンティノ子爵夫人と母が消えても、そう簡単に私の評価が覆るわけではなく、むしろそれはそれ、これはこれってことになるかもしれない。


 いくつか質問に答えていると、だんだんと式の日取りや当日のドレスの話になっていった。

「やっぱりドレスは子爵家で作りたいかしら? お母様もはりきってらっしゃるとなると、こちらが無理に手を出すのも悪いしね」

 そう言われたので、笑顔で伝える。

「その心配はありません。母は、『凡庸な娘が分不相応に侯爵子息に嫁ぐ』なんて風当たりの強いことには反対で、『美しく才能溢れる子爵令嬢に相手を譲るべき』って考えておりますから」

「「「は?」」」

 声を揃えて相づちを打たれた。


 アシュトンが引き継いで説明をすると、全員が笑顔で怒っている。

「あらあら。面白い考え方をされるのね、あなたのお母様とそのお友達の方は」

 とたんにアシュトンが睨んだ。

「母様。ローズマリーに言うのは違うでしょう。彼女は被害者だ。そして、その二人がローズマリーを貶めていたからローズマリーと俺が知り合えたんだ」

「あら、そういえばそうね。感謝しなくちゃ」

 夫人が口に手を当てて意見を翻した。

 感謝はしないでください。私は頭にきています。


 ……ということで、ブラックウッド侯爵家におんぶにだっこで式の支度をしていただくことになった。

 侯爵家なので、それなりに盛大かつ厳かに挙げなくてはならないので(ただし私の意向は最大限に受け入れるので、質素にやりたいと言えばそうなったらしい)お任せしたほうが双方のためなのだった。


 母のこと、いつか許せる時が来るかもしれないけど、今のところは無理かなー。

 父も、

「それでもお前は母親か!?」

 って怒っているし、弟も、

「さすがに姉様にひどくないですか……?」

 と軽蔑のまなざしを送っているしで、母はいたたまれなくなったらしく領地の別荘へ引っ込んでしまった。

「マジで私の結婚について反対してるみたいですね……。いくら侯爵家が全部やるって言ってるからって、普通は母親も娘の嫁入り支度を少しは手伝いませんかね?」

「むしろ邪魔をするんじゃないか? アイツ、本当にお前を妬んでいたぞ」

 私がボソッと言ったら父がそう返した。

 娘が侯爵家に嫁ぐことを妬む母親か……。

 うーん、仲直りは一生無理でしょうね!


 もちろん父は喜んでいる。

 不良債権だと思っていた娘が、侯爵家と縁続きになったからだ。

 父と弟は侯爵家へ挨拶に行き、いい感じに話をまとめてきたらしく笑顔だったし。

 弟の婚約者とは正直仲良くないんだけど(彼女はアデライン信者なので、あからさまではないにしろアデラインと縁が出来たことに喜び彼女が姉だったらもっと良かったのにという態度で私をないがしろにしていた)、私の結婚について驚いていたもののそれ以上の反応はしなかったので、弟と結婚したときは挨拶程度なら我慢しようと思った。


 弟と婚約者は恋愛なので弟は私より婚約者を優先するだろうけど、私とも仲が良い。釣り書きが一枚も届かない姉を心配して、あちこち当たって見合い相手を探してくれたしね。

 なので、弟の相手が気に入らないからって弟とまで絶縁する気はなかった。

 ……今のところはね。


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― 新着の感想 ―
困った身内は厄介です。 物理的にも距離を置くのが1番ですから、ヒロイン、早く嫁げるといいですね!
弟の婚約者も地雷案件かな…? 本当に下位貴族の女子の中ではアデライン結構ブイブイ言わしてる一大勢力っぽいけど…そういうの、上からぺしゃんこにされると一瞬なんだよなぁ…
弟君いい子なのに、あんまりたちの良くない令嬢に捕まってないか?政略じゃなく恋愛なら考え直した方がいいんじゃね?
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