森の中の2人
変化術式。今、僕がルージュにかけているそれだ。が、流石に自分の意思で竜の姿に戻ったりこの姿になったり出来たほうが便利だろう。
「て、それ私にも出来るの?」
「出来るぞ?まあ、その姿と竜の姿にしかなれんがな。」
「本当に今まで生きてきて聞いたこと無いんだけど………。」
「まあ、そうだろうな。そう言うわけで術式を今から組む。それを君に教えよう。」
「ええ!?今から!?」
「さっきみたいに素っ裸になられたらこっちの気が持たねぇよ。と、言うことでその辺も加味する。」
「は、はい。」
そう言うわけで、創っていこう。まあ、やることは簡単だ。そもそもの質量分をセーブし保存しておく。で、竜の姿に戻りたいときはそこから必要分を取り出す。そんで、その間服の問題が発生するのでそこも原理は同じ。となると………。
「大体こんな感じになるかな。」
そう言って魔方陣を展開する。
「これは…?」
「ん?これが変化術式。」
「もう出来たの!?」
「まあ、さっきやったことをちゃんと術にしただけだし。」
「…お、おう…。」
「そう言うわけでこれを覚えてもらいたい。」
「これ……めちゃくちゃ難解では…?」
「なに言ってんだよ。ルージュだって空間転移使えるじゃんか。あれだって随分と高等技術だぞ?」
「ま、まあ、そうだけどさ。」
「大丈夫だって。僕がしっかり教えてやるから。」
「う、うん。」
さてさて、やはり飲み込みが早い。少し教えたら1時間とかからない内にマスターしてしまった。まあ、人間体でも竜の力はそれなりに使えるようだから本当に姿だけの変化なんだがな。
「さてと、これで本当に一段落だ………そろそろこっちの進化のほうも終わっただろうしな。」
「時空間圧縮…。」
「大体10分で100年くらい経つようにした。そこから受粉はこっちでやってどんどんここの環境に適応させた。さてさて、どうなったかな。」
「時空間圧縮ってさ、もしかしてもっと大きいものも対象にとれるの?」
「ああ、出来るぞ?例えば人間とか入れちまえばもうただの無限牢獄だな。」
「それ、清々しい顔で言うことじゃない………。」
さてさて、時空間圧縮の恐ろしさを説明したところで………中はどうなったか。
「成功だな…。」
いい感じに育っている。
「こ、この中…1株しかなかったよね?」
「まあ、教える片手間にちょちょいとね。」
中には1面の花畑が広がっていた。さながら箱庭である。
「じゃあ、庭のほうを弄るか。外に出よう。」
「うん!うん?弄る………?」
そうして、外に出てきた僕たち。
「どうするの?」
「こうする。」
【地質変化】【自然淘汰】
詠唱の一言で、雑草が枯れ果てる。そして、土壌も多少はマシにしておく。正直、ここまで育った薬草であればこのくらいでも十分だ。
「ええ………。」
「まあ、この程度ならね。」
「人の生活がしたいってのはいったいどこへ………。」
「それはそれとして楽な道を歩みたい。」
「欲望のかたまりじゃん…。」
「人間そんなもんだぞ。僕は人間が今までしてきた数百年、数千年の努力を1秒に縮めたに過ぎん。君も言ってたろ?人間はどこまで傲慢なのかって。僕自身がその答えだ。」
「そ、そんなもんなのか………。」
「そんなもんだよ。」
おっといけない。辛気くさくなってしまうのはごめんだ。
「さてさて、そんなことは置いといてこっからは畑仕事だよ?」
「イールなら魔法で………ってたぶんそうじゃないんだよね?」
「ああ、僕はあくまでも人間だからな。」
そう言って、その圧縮空間の中から種子を取り出す。うん、なかなかの出来だ。しっかりと育ってくれそうである。あとは手入れさえしていればいい。
そうして、その種を蒔いていく。僕の人間としての一歩だ。ルージュはそれをログハウスのベランダから眺めている。
「イールはそこまで強大な力を持っているのになんで人間であることにこだわるの?」
その質問に、少し考え返す。
「言葉の通り、僕は強大な力を持ったただの1個人、人間でしかないって証明したいからかな。」
「人間であることの証明………難儀だねぇ、人間も。」
「ルージュだってそうだろ?さっきのお兄さん。」
「ああ、言えてるかも。」
「何があったらああなるんだよ?」
「まあ、昔色々あったのさ。」
夕暮れ時に2人、笑いあってそんな会話をする。求めていたスローライフ…とはちょっと違うかもしれんが、全然アリだと感じるのだった。