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イールと言う男

 イールと言う男。2日前私を助けてくれた男。是非ともお礼をしたいところなのだけれど………。


「失礼いたします。メイ様。」


「カノン?入りなさい。」


 私はこの国の第四王女であるメイ·ベルウェート。入ってきたのは私専属のメイド、カノンだ。2日前のあの日、ちょーっとお忍びで町に出てみたのだけれど野蛮な集団に絡まれてしまった。そのときに助けてくれたのがイールだ。


「イールについて、何か解った?」


「一応、関連があると思われる情報が。」


「本当!?いったいどんな!?」


 食いぎみに質問する。


「は、はい。実は、メイ様がイール殿に助けられた同日、国外追放された者が居まして。」


「国外追放?」


「はい。何でも、身分証明書を持っていなかったとか。」


「それがどうかしたの?」


「その者が名乗った名こそイールであった、と。」


「じ、じゃあ、もうこの国には居ない…ってこと?」


「その者のが同一人物であれば恐らく…。」


 そんな…酒を注いでくれとお申し付けがあった(※彼女の記憶には拡大解釈が含まれます)のに!


「それよりも、メイ様。あれほど無断での外出はお止めくださいと申しましたのに。」


「あら、無断ではありませんよ?きちんと近衛兵には連絡いたしましたし。」


「止められたでしょう?」


「それは正面からいくからそうなるのよ。」


「え?」


「ほら、ドアならここにあるじゃない?」


 そう言って壁の方向を指差す。


「…メイ様。失礼ながら、それは窓ではありませんか?ここどれだけ高いと思われてます?」


「ふわふわ~って飛べばいいのよ。」


「はあぁ…彼らも苦労するわね。」


「にしてもイール様…いったいどこに行かれたのかしら…。」


「居るとしても、そう遠くはない筈です。まだ2日しか経っていませんし、隣国に入った当たりではないでしょうか?まあ、あの森に迷い混んでいなければ…。」


「飛竜の森…ですか。」


 上級の冒険者でさえ最深部到達は不可能とされる深い森だ。中にはワイバーンが居るとされていることからその名がついている。


「ともかく、これ以降外出はお止めくださいね?今回はたまたま運が良かっただけなんですから。」


 そう釘を刺して、カノンは私の部屋を後にした。そうは言っても、イール様の行方が気になる。己の身を挺して私を助けてくれた方なのだ。このままなにもしないのは王族のプライドが許せない。そうは言っても、いったいどこに行ったのかしら…。


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


 イールと言う男。2日前、この森にやってきた不思議な男。私を見ても恐れおののくこと無く、圧倒的な力を示した凄まじい男。今ではこの森で自給自足をしている。


「ま、正直な話ね、食べなくても生きていけるんだけどね?」


『バケモンじゃん。』


 彼の形容としてもっとも正しい言葉だろう。


「そうは言っても僕も人間らしく暮らしたいわけさ。魔力を介した代謝にリソースを割くって言うのはわりと面倒だからね。」


 人の生活をしたい理由が面倒だからって言うのはどうかと思う。


『なるほど。』


「てなわけで畑を作りたい。」


『土地死んでない…?』


「そこなんだよ。ここはいくらなんでも魔素濃度が濃すぎる。てなわけで僕が作りたい畑って言うのは薬草畑だ。」


『薬草?』


「人間には魔力切れっていう現象がある。これをリカバリーするのに魔力回復薬と言う方法があってだな。」


『なるほど、それを売って生業にするってことだね?』


「そう言うことだ。ここならいいのが育ちそうなんだが…問題は苗がない。」


『苗か…どんな感じの植物なの?』


「魔素濃度が濃く日当たりのいい清流に群生している。紫色の花を咲かせるんだが…見たことあるか?」


『うーん、ここよりもうちょっと西に行ったところに川があったけど…あったかな…?』


「んま、行ってみる価値はある。案内頼めるか?」


『もちろんだよ!』


 イールと言う男。不思議な男。

 その男を背に乗せ空を駆ける。


「綺麗だな…。」


 彼はそう呟いた。


『イールだったら、空も飛べるでしょ?』


「そうだけど、そうじゃない。」


 南方に見える城壁を見る。


『そう言えば、イールはどこから来たの?』


「ああ、遠くのほうだよ。」


 そう言うと彼は眼下に広がる森林を眺める。


「こんなに綺麗なとこじゃなかった。」


『そうなんだ。』


 そうして、私達は西を目指すのだった。

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