古の王
―――――速い。
それだけ感じ取る。後は本能に任せ、障壁を展開した。
激しくぶつかり合う。眼前のそれは、ほとんど少女の体を成していない。おおよそ異形の怪物である。
「さて、こいつはなんだ…?」
独り言混じりに腕を振り下ろす。すると異形も地面に叩きつけられる。
さてと、僕は目覚めさせてはならないものを目覚めさせたのかもしれない。
『あれは…古の鎧…。』
「古の鎧?なんだよそれ!?」
乱暴にルージュが聞く。
『1000年ほど前、文明その物を破壊した王が居た。それが従えていたのがあれだ。』
なるほどね。しかしこの術式…厄介だ。
『その王は何百もの古の鎧を従え、この世界を滅ぼし世界を作り替えたと言う。』
「なんでそんなものが今、それもあの女の中に…?」
『解らん…だが、奴ならなにか知っているんじゃないか?』
そう言うと、黒竜はこちらを向く。種明かしをすると、あれは僕の産み出した術式だ。だが、少し違和感がある。そもそも、僕が居たのは6000年前の話だ。つまりは…1000年前、人類は僕のレベルに追い付いていたのだろう。だが、そこで狂人が文明を破壊した。結果、再構築されたこの世界は以前よりも劣った文明レベルである。ってとこか?まあ、何故あれが今になって発動したから知らんが。
「納得。」
さて、ともかく目の前のことに集中しよう。あれの対処は正直面倒である。まあ、まずはセオリーを試そう。
「主を履き違えるな。」
「うぅ…!?」
おぉ、動きが止まった。
そのまま、奴の目の前まで降りる。
「主を履き違えるな。僕の名を唱えろ。」
「く…クライン…様…。」
クライン…予想外の名前だな。僕を崇拝していた狂信者じゃないか。
「クラインか…あいつは不老不死にでもなったのかね?まあ、いいさ。ともかく出ていけ。」
それだけ言うと、鎧はくだけ散る。これがこの術式の解除方法。主が命じなければ永遠とこのままな上に、これが誰かを殺せばそいつもこうなる。無限に増え続ける僕の兵隊だったんだが…。
ともかく、このおてんばに回復魔法をかける。まだ事切れてはなかったらしい。
『おまえは...何者なんだ?』
黒竜が僕に問う。
「イール·マギア。ただの人間だよ。」
『マギア…だと!?その名は…いや、不思議ではない…か…。』
「何よ…何を知っているの!?」
「まあ、落ち着けよ。御二人さん。お兄さんの方はだいぶ勘づいているみたいだがな。」
『マギア…魔術の祖、魔術の神と称えられた存在。生物の頂点としてこの星に君臨した男…イール·マギア。なぜそんな人がここに...。』
「争いが嫌だったからさ。人殺しはもう勘弁願いたい。そんな一心でこんな未来に来たが…まさか1度文明が滅びていたとはね…。」
「イール…。」
「まあ、僕はとりあえずこの子を送り届けることにするよ。君らは兄妹水入らず、じっくり話すといいさ。」
そうして、僕は彼女を抱えその森を出るのだった。
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「…兄貴…あの女の中にいる奴のこと気がついてたのか?」
『逆に、おまえは解らなかったか?』
「解るわけ無いだろ?」
『はあ、やっぱりまだまだだな。力は確かだが、感情を読み取る能力が未発達だ。』
「じ、じゃあなに?ワイバーンならあのくらい解って当然とでも?」
『解って当然だ。この地では竜信仰が根強かった。その信仰心を力に変えることが出きるのが我々ワイバーンだ。』
「そんな…。」
『だからこそ、おまえは異例なんだ。信仰心なしの補助であれ程の力を持つ。仮に感情を力に変化させる能力が開花したらおまえに勝てる奴などイール·マギア以外居らんだろう。』
「………まさか、あんたがいつまでも居残り続けるのって。」
『…まあ、なんだ。まだまだおまえは強くなることが出きるってことさ。』
どうやら、私と言うのは今の今まで随分と勘違いをしているようだった。私はこの上ないほどの力を持っていると自負していたが…決してそんなことはなかった。
黒竜は何も言わずに飛び立った。
「…バカ兄貴…。」
ぽつり、そう呟く。
「ごめんなさい。」
今度は少し、大きく言う。
私は、兄貴よりも弱かった。きっと他のワイバーンよりも弱い。感情を読み取る力…今後の課題となりそうだ。
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