表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

難儀なカノン-3

 最初に動いたのはルージュだった。速い。が、目で追えないほどでもない。


【束縛】


 鎖がルージュを捕らえる。


「なるほど…。」


「教えてもらおう…あんた達は何者だ?」


「さて、なんだと思う?」


 その台詞を吐き捨て、まるで闇に飲まれたようにルージュは姿を消す。


「なっ!?」


 空間転移?

 思考もわずか、ノーガードの後頭部に蹴りが入る。両手がふさがって本気が出せないのもあるが、それを抜きにしてもこいつは強い。だが、あの女ほど厄介ではない。

 体は大きく吹き飛ばされ、大木に叩きつけられる。


「あらあら、魔族ってこんなに弱かったっけ?」


 余裕そうに笑ってやがる。だが、こちらにもまだまだ余裕がある。


「っ…。」


「人族のほうがまだ強かったわよ?」


「……舐めるな…。」


 魔族の意地がある。これでも私は幹部なんだ。魔王様に支える上級の魔族なんだ。

 魔力を練り、奴に集中する。


鎖刃屠(サバト)


 四方八方からの鎖による刺突攻撃。逃げようとも、何度でも屠るまで続く猛攻である。だと言うのに、そいつは軽々しくそれらを躱しこちらに近づいてくる。


 だが、それでいい。


 眼前に奴の拳を捕らえた。真正面、この距離。逃げることなど出来まい。奴の脳天に鎖が撃ち込まれ―――――。


「ふーん、なかなかやるね。」


 その攻撃は届くことがなかった。奴は、鎖の切っ先を転移させた。ちょうど自分に当たらないように。

 私はその拳を受けた。死ぬかと思った。なんとか、四肢はついている。巨木ごと薙ぎ払われ、また身体が吹き飛ぶ。正直、意識を保てているのが不思議なくらいである。

 あれを直に食らってしまっては、流石に視界が眩む。立ち上がることも儘ならない。


「あ、あんた…本当に人間かよ。」


「うーん、その問に答えるならノーだ。」


 こちらも本気が出せない。奴は、恐らくこちらを殺そうと思えばいつでも殺せる。何故それをしないのだろうか?


「さて、今度はこちらの番かな。貴様らはなぜ私とイールについて嗅ぎ回っている?」


 なぜその事がばれている?こいつは未来でも見えるのか?


「さて、なんのことだか?」


「しらばっくれるなよ。私は自身に向けられた感情を読み取ることが出来る。だから貴様らがどこに居て、何を企んでいるのかが解った。さあ、答えろ。」


 反則だろ?そんなの………だからあのときの攻撃も回避できたってことなのか?勝てるわけがない………。


「さあ、探れとしか言われていない………それ以上は私も知らない。」


「ほう…私達は静かに暮らしたいだけだ。」


「静かに暮らしたいだけ………?」


「ああ、だから邪魔するのであれば徹底的に―――――。」


 その瞬間であった。とてつもない魔力の波動を感じた。魔王様に匹敵するほど…恐ろしく強大なものだ。


「………帰る。」


「は?」


「怒られた………。」


 いまいちよく解らない。なんだ?今のは一体………そんなまさかだとは思うが、あれがイールと言う男の魔力だとでも言うのか?

 ルージュは闇に身を隠した。私は1人、その場で何も出来ずにいたのだった。


「報告って言ったって………どうすりゃいいんだよ………。」


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


 あの娘、仕事が速いのよね。もう終わったみたい。まだお昼を過ぎた当たりだと言うのに、私の手元にその本は帰ってきていた。流石は魔道師団長に折り入って作ってもらった代物だ。


「さて、業務に戻りましょうか。」


 そう呟いて件のページを開き、心理世界を顕現させる。


「それで………あの2人とは出会えたの?」


「ルージュのほうだけだ。」


「あら、イールのほうの調査もお願いしたのだけれど?」


「馬鹿を言え!ルージュはこちらの動きをある程度把握していた!!」


 こちらの動きをある程度把握?まさか、見られているとでも?この心理世界を?いやいや、そんなわけはない。


「ルージュに向けられた感情と言うのはすぐに読まれる………奴はそう言う能力を持っていた。」


 不味いわね。敵に回したら厄介すぎる。


「ただ、こうとも言っていた。私は静かに暮らしたいだけだ、と。」


「静かに暮らしたいだけ………決して手は出すなってことかしら?」


「恐らくな。最もあんな奴人間がいくら束になろうと勝てる気はしないがな。そもそも、奴は人間じゃない。空間転移を使い、並外れた身体能力を持っていた。」


「バケモノね………イールについては本当に何も解らなかったの?」


「そ、それが………信じられないかもしれないが、もしかしたらイールは魔王クラスの力を持っているかもしれない。」


 その言葉に、私は唖然とする他なかった。国の存続を脅かすどころの話ではない。世界の命運そのものがかかっているのだと、そう直感した。


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


「さて、ルージュ。血の気がありすぎだ。」


「は、はい………。」


「穏便に帰すだけって言ったよな?どうして戦闘なんかしちまったんだよ?」


「つい、久しぶりで………。」


「昂っちゃったか…。」


 さてと、少々厄介なことになりそうだなんて、そんなことを思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ