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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

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夢見る少女と王子様の欠片4

 指導に熱をあげている親父さんの説明を聞きながら、僕らは必死に手を動かす。


 ろくろの上で回る粘土相手に格闘すること数分。調子がいいと思って気を抜けば簡単にひしゃげてしまう粘土。正直、器の形状になるイメージがまったくわかないんだが。これでショーウィンドに飾られているような商品が出来上がるなんて。すごいなと思いながら、親父さんの説明を耳にする。


 隣のリュカ様も同じように真剣だが僕とは意味合いが異なる。

 というのも……話をすこし戻そう。





「ここからは丁寧に厚みを維持しつつ……っておいこらそこのガキ! 何勝手に伸ばして、あっそこじゃない、まだ早!」

「うるさいな!? 集中できないから黙ってくれないか」

「このボンクラ……言うに事欠いてプロ相手に黙れとか……」

「アンタの声が耳障りで集中できない」

「なっ!?」


 やれやれと首を振るリュカ様だが、先生の指摘を無視した結果、案の定、粘土はくしゃりと歪んだ。


「たっはっは! やーい、潰れてやんの! こんなカンタンなのも完成させられないとは、さすがガキ!」


 指差してあげつらう親父さんにカチンと来たらしいリュカ様。存在しないはずのゴングが鳴った気がする。

 リュカ様は武器や拳の代わりに口で反撃し始めた。


「はっ! どこかの誰かさんの指導が悪いせいで要領を得ないだけだが? まったく、下手なのは冗談(ジョーク)ではなく説明だけにしといてくれよ」


「あん? やんのか」

「あ? やるか」


 体験教室に爆ぜるバチバチな火花。たしかにサントゥール堂の親父さんの説明は独特だった。やたら擬音が多く、生徒の感性に左右されそうな解説も多々あった。そのせいか、もとのセンスがいいとか波長の合う人間に対しては悪くない指導だと思うが……、素人の僕らに微細な感覚など到底わかるはずもなく、チンプンカンプンな内容になっているのだった。


 さらに、もともと繊細なところのあるリュカ様とこの粗野な親父さんとは相性が悪く、さっきからいがみ合いを繰り返している、という様子。

 横から口を挟んで仲裁しようものなら両者から睨まれるハメに。板挟みになっているリュートが目を細めて白旗を上げている。

 リュカ様に全面的に追従するカレン以外にとっては最悪といって差し支えない体験教室となっていた。

 お、おんなのこってつよいなー……。





 そして今に至る。


 まさに神経がひりつくような空気。今なら胃を押さえるリュートの気持ちがわかる気がする。


「あ〜〜、っしょうがねえな!? おれが手本ってもんをみせてやる」

「はあ? お手本? 落選続きだっていうあんたに作れるのか」

「あほか、素人の見本ぐらい作れるわッ!!」


 くわっと目をかっぴらいて親父さんはお貴族様(リュカ様)相手に怒鳴るように返した。プロ相手でも尻込みしないリュカ様はといえば、売り言葉に買い言葉、挑発的な文言を混ぜてまだやり合っている。


 互いの軽口にムキになって応戦するふたり。こうしてムキVSムキになるふたりが勝負を始めた。





「くそ、あと少しだったのに!」

「はっは〜〜ん、ザマァ。これだからよちよち歩きのピヨコちゃんは」

「ってアンタのもブレてるぞ」

「あ!? 嘘、…………ほんとに嘘じゃねーか! くっそ、騙された!!」


 リュカ様の出来がわるい作品は、いい線までいったが後半で失速し、マグカップの口の部分が盛大に崩れている。まだまだだなと嬉しげな店主だったが、リュカ様の卑怯な作戦のせいで、修正しようと手を出したためにこちらも完璧だったマグカップの持ち手が前衛的なフォルムになってしまった。


「はは、意外とそういう作風のがウケるんじゃないか?」と皮肉るリュカ様。子供げない煽りだった。


 だがしかし、数秒自分の失敗作に衝撃を受けていた様子の職人は、突如覚醒する。だれも予想だにしない方向で。


「うりゃりゃりゃりゃおりゃああああ!」


 ろくろを目まぐるしい速度で回転させては大げさなポージングを披露していく。おのれの手で大胆なタッチをいれる親父さん。彼は職人魂に火がついたらしく、超絶技巧を素人の前で次々に発揮していく。これには皮肉を交えていたリュカ様の口も半開きだ。


 こうして全神経を注ぎ、次々に技術を用いて完成させたマグカップは、人の手に馴染むというより、まるで人の手のような造形をしていた。


「で、できた……。くぅう。苦節二十二年、懇親の作品がついに出来たぞ!!」


 なにやら天高く拳を振り上げる親父さん。体験教室のヒリついた空気はすっかり霧散しており、彼の顔はどこか晴れ晴れとしていた。まるで憑き物が落ちたように。





「まさかあの人がスランプだったとはね……」とは胃薬を飲み込むリュート。

「想像つかないだろ、あのガサツな親父の悩みなんて。最後なんか態度を変えて俺に感謝してきたぞ」と辛辣な表現をするリュカ様。


 どうやら自身の作風に思い悩みスランプに陥っていたらしい親父さんは、晴れやかな顔で僕らの作品を焼き上げに向かった。その高かった壁も、なんの影響か、リュカ様との口論がきっかけで乗り越えられたらしい。単に口喧嘩によるストレス発散が効いた気もするが、ともあれ二人のいがみ合いがなくなってホっとした。


「そうね! これからは積極的に体験教室を開催するって言ってたわよ。でも、ほんとに大丈夫かしら?」と、予約数の減少を気にしていたカレンが口にする。


 僕も同意する。なぜなら。

 ここの教室で……生徒が料金以上の体験ができるかは、親父さんの機嫌に左右されそうだな、と僕らは心を同じくしたからだった。





 ふいに陶芸教室の待合室で休んでいるとリュカ様がつぶやいた。


「そういえば、ルナ、お前の方の加工はどうするんだ?」

「忘れてた! あてがないからどうしよう」

「加工って、もしかしてこの前の不知火の?」

「カレン、よくわかったね。そうだよ」

「観光客がよく持ち込むからね。それならこの先のジュエリーショップ、リュクスがおすすめだわ。せっかくだし、焼いている間に行っちゃいましょ!」


 というわけで待ち時間を利用して別のアクセサリー店へ僕らははしごすることになった。一同を先導するカレンの足からはスキップまで飛び出し、軽やかな足取りをじつに女の子だなあと僕は感心してしまった。





「で? 頼みたい品物ってのはどんなやつだい?」


 店員のおねえさんが挑むようにこちらを見つめる。


 真っ黒なのにつやつやと輝く不思議な物体。使命をまっとうした塊は特殊な塗料の影響か、夜空をそのまま切り抜いたような印象を受ける物体に変化していた。控えめに言っておそろしいほど魅惑的な石ころを、僕はポケットから取り出した。


(断られないといいけど……)


 ドキドキしながら包みを丁寧に剥がして光にかざすと、おねえさんは上機嫌に話した。


「あらあら、これ上物じゃないの! 坊やいいもの拾ってきたわねェ」

「えへ、えへへ……」

(褒められちゃった)


「いっちょ前に照れちゃって、も〜う! よーし、かわいい坊やのために、この子は責任持っておねえさんが磨いてあげるわァ」

「本当ですか!?」

「ええ。持ち主にふさわしいアクセサリーになるよう、仕上げる。うっふふふ、久々に腕がなる〜〜」

「私も楽しみだわ! ね、ルナ」

「うん!!」


 おねえさんが奥で磨くというのでその間、店に並んだアクセサリーを見学しつつ待合室で待機することとなった。


「ただの固形物なんて言わせない。一流のレディに仕立ててあげるから覚悟しときなさい」

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