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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

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夢見る少女と王子様の欠片2

 朝食を終えて、僕は庭に出た。

 リュカ様の機嫌は治ったようだが彼はまだ眠いからとベッドに戻ってしまった。なお僕は入ってくんなと脚で退出を余儀なくされ今に至る。無念だ。


「暇になっちゃった。なにしよう。ん、あれは?」


 庭先で鉢植えの花に水をやる少年を発見する。庭仕事に精を出す少年はリュートといったか。初対面ではおどおどしていた様子の世話係だが今は鼻歌交じりに軽快にジョウロで水を与えている。陽気なメロディーに耳を傾けていると、じゃぼん、とジョウロが彼の手元から落下する。


「あれ? どうかした?」

「え、ま……見、みてました? 僕、見らられれ!?」


 途端に挙動がおかしくなる少年。鼻歌まで聞かれていたことを自ら口にするとしゃがみこんでしまった。うずくまる彼は腕の中で何事か、いや、失敗を延々反省しているようだった。


「えっと、大丈夫。聞いてたけど、すごくうまかったよ?」


 後ろから近づいて声をかける。肩を叩いて鼓舞までしたのに、今度はひっくり返る勢いで尻もちをつく少年。あわや鉢植えを落とさんばかりの絶叫をしながら手足をバタつかせて距離をとられてしまった。どんくさい子だな、僕は自分のことを棚に上げて思った。


 耳元を抑えてまっかっかな少年は、動揺を隠せぬままさっと鉢植えを置いてずざざざという効果音とともに逃げ腰だ。あ、ちょっと親近感を覚えた。なんか同族の匂いを感じたぞ!!


 じーっと僕はその姿をみつめてひらめいた!


(僕って天才かもしれないな……フフ)


「ねえ、いっしょに遊ばない?」

「え……」

「僕ひまなんだ。いっしょになにかしよ?」

「ええと、でもおぼっちゃまは?」

「リュカ様ならまだ布団の中でおねんね。だからさ、ね?」


 彼の耳元にダメ押しとばかりに囁いた。


「ふたりきりでどっか行こうよ」と。


 呆然とするリュートに近づいてお誘いした、結果。

 またも元気な叫び声が飛び出すが、「だめかな」と再確認するとおどおどしながらも首を横に振って『だめ、じゃないだあ』と返してくれた。やった!


 さっそく仕事を片付けて遊びに行く手伝いをする。鉢植えをもとの場所に戻し、ジョウロを拾い直し、残りの花壇にも水をやった。


「ところで何して遊びますだあ?」

「そうだね……――あ! そういえば町に下りた時、看板に面白そうな地名があったよね!?」

「面白そうかはわからねえっけど、森も川も、この島は自然が豊富だがらな」

「なんだっけな、そう!」

「――紺碧虫の森に、鎧川、琴引きの洞窟。まさか抜け駆けするつもりじゃないだろうなァ」


 突然、僕らが話し込んでいた軒下の窓が開いた。開け放った窓からする声は、なんとリュカ様のものだった。ひょっこりと頭を出した彼の様子を確認する間もなく、軽く額を指で打たれてしまった。痛い……。


「そこはあとで冒険しようって約束してたろ。反故にするつもりか」


 リュカ様は枕を抱えて頬杖をついていた。若干の不機嫌モードのあと、今打った指が宙をさまよい、僕の髪を弄ぶ。


「そ、れは……」


 返す言葉もなかった。たしかに、約束は約束だ。守らねば、ゼッタイ、だ!

 ということはこれは僕が悪いのでは……?

 むむむと思案しているすきにリュカ様がリュートに声をかけた。先に僕が声をかけていたというのに。これだって抜け駆け、じゃないか!


「どうせならまた町にいこうぜ。店の中とか入ってないし。ここ観光客向けの体験もあるんだろ」

「へ!? え、ええ、ありますだ。焼き物も有名で、陶芸なんかも……」

「いいね。そこにしよう」


「何勝手に決めてるんですかー」と僕が憤るもリュカ様は笑って、さっきまでの自堕落モードが嘘のように颯爽と衣装を選び出す。お前らも遅れんなよと僕らを焚き付けながら、それでも窓の方をみていた僕をみて、一言。


「盗み見禁止な?」

 バタン、窓が閉まった。


「ふんがああああ、だれが覗きなんかするもんですか!!」


 舌をだしてあっかんべーをする僕を窓の向こうから笑う彼。にくたらしいったらありゃしない、それでも彼が楽しそうならいいかなとも思ってしまうところが、惚れた弱みってやつ?


「おふたりは仲がいいんだなあ……羨ましいだ」

「え?」

「おらはその、カレンとうまくやれてないから……」


 意気消沈するリュートが漏らした内容は気がかりだったが、またリュカ様の機嫌を損ねるわけにもいかず、僕はリュートを伴って玄関へと急ぐのだった。





 リュカ様によって店に行くぞとなかば強引に誘われた僕とリュート。二人を引き連れて出発することをエマ様に報告している彼をみつめる。

 その際エマ様から例の欠片の加工を済ませたら? と提案を受けた。

 なんでも、島に滞在中でないとできないらしいのだ。


(なるほど、その手があったか)


 という流れで僕らは町までやってきた。





 漁港は潮の匂いととれたての海産物を焼くいいにおいでいっぱいだった。

 波打つ音をBGMに僕らはまず腹ごしらえをすることにした。

 

「串のイカ焼き……それからソース焼きそばも三つ、お願いしますだあ」

「まいど!」


 手近な屋台で昼食をなんなく選ぶリュートに僕は感激した。


「迷いなく選ぶなんて……つまり名店ってことだよね!?」


 リュートは紙皿を受け取ると蒼白になった。こちらをゆっくりと振り向くにつれ体ごと震えだし、今にも料理を落としかねない勢いだ。哀れになるほど青白いままリュートは言う。


「おら、くせで頼んでしまっただあ。カレンと来る時はいっつもここだから……」、目を細くして小刻みに揺れながら謝罪するという、新しいスタイルの謝罪方法を確立したリュートであった。

「へぇ、お気に入りの味か」、しげしげとリュカ様が皿の料理をみつめる。その視線がいつもより好奇心で輝いているのは気のせいだろうか?

「なにも問題ないよ! それだけおいしいってことでしょ?」

 僕はといえば、もうよだれを飲み込むばかり。焼きそばに釘付けでおなかまで鳴ってしまった。ぐーという音がナイス! という褒めことばにも聞こえそうなほどだった。


「お貴族様に合うかどうかは――ああ!?」

「「ごくん」」


 僕らは揃って皿の料理に食いついた。僕はイカ焼きでリュカ様は焼きそば、互いに目を見合わせる。


「驚いた……。うまいな、このちぢれた麺」

「こっちもおいしいですよ。変わった塩辛いタレに絡むイカの弾力がたまらん〜〜」

「おいおい口調おかしくなってるぞ」


 リュカ様が僕の口元についたタレを拭ってくれる。それを素直に受け入れてからリュカ様の手が止まっていたことに気づくと。


「リュカ様も、ほら!」

「もが。……ごっくん、いきなり人の口に放り込むなよ。危ないだろ」

「味は! 味はどうでしたか!?」

「まー……いける。歯ごたえが肉質で、独特なタレのおかげで一本では足りないかもしれない」

「もう一本買います?」

「いや、他のも食べてみたい」

「ですよね!!!!」


 意気揚々と僕らは屋台の品を選び出す。


「驚いただあ。まっさかこんなに喜ばれるなんて……へ、へへ。帰ったらカレンにも教えてやるだあ」


 そんな僕らを呆然とした様子でリュートがつぶやいた。鼻先をこする彼の照れ笑いを聞きながら、先人に助言を求めた。

 口々にあれがいいかこれがいいかと相談しながら、僕らは屋台を食べ歩く。リュートも僕らの談義に参加し、新しいものに挑戦しようと誘いをかけるのだった。

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