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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

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魅惑のサマーバケーション3

(ほんとにラフな格好で出てしまった……)


 恐る恐ると進む僕だったが、先頭を行くリュカ様の開放感につられてスキップまで披露する。


 まばゆい外に出てしばらくすると清涼な雰囲気の林が見えてきた。


 木の葉にはなにか札のようなものが釣り下げてあり、風が吹くと札が優雅になびく。


「リュカ様、あれ、なんでしょう?」

「お前も気になるか」


 たなびくそれはパッと見は文字かと思ったが、よくよく目を凝らせば白い紙に色とりどりの記号が描かれている。

 リュカ様も興味を引かれたようで肩の高さにあった札をちぎることなく体の方に引き寄せてみつめている。


「魔除けの札か?」


 魔除け、といえば幼い頃のリュカ様の例のエピソードを思い出してしまう。僕がふふと声を漏らすとリュカ様はとたんに不機嫌な顔つきになる。


「馴染めてないようだから連れ出したがすでに自然体、か? 俺が誘わなくともよかったかな」


 からかい調子のリュカ様。

 僕は慌てて否定した。


「そんなことありません! リュカ様の気遣いのおかげで緊張が解けましたから……」

「お前でも緊張す……――そういえば例の茶会ではガッチガチだったな」

「あぅぅ……なんてこと思い出してるんですかー」

「そっちこそ忍び笑いしてただろ?」

(バレてりゅうぅぅぅ……)


 図星を刺されて僕は両方の人差し指をくっつけてごまかすように照れ笑いを浮かべた。


 そんなぽんこつな僕だが、リュカ様はこともなげに誘う。


「せっかくだ。これがなにか、下まで降りて町の人間に聞いてみよう」

「はい!」


 これはそんな、いつもとは違った、一夏の物語。


#


 僕らは別荘のある(ふもと)からさらに下っている。


 道中、見晴らしの良い高台からはちょうどアーチ状の入口が見え、その向こう側には石造りの家が点在する、こぢんまりとした港町が広がっていた。


 漁港らしく船がいくつも停泊している。

 船のすぐそばを歩いているとリュカ様に話しかけられた。


「おい、気をつけろよ」

「心配無用、いくら僕でも海に落ちるなんてそんなドジは……、あ。す、すすす、みません!!」


(しっかりしなきゃ!)


 いくら気を抜いているとはいえ、彼のトラウマを揶揄するような発言をするなんてと自分を責めた。


 そんな僕の頭を撫でるてのひらの存在、リュカ様は思いの外やさしかった。


「平気だ。会話の上ならだいぶ払拭できてる」

「はあ……。ほんとですか?」と泣きそうな声で僕は尋ねた。

「ふ、お前でも気を遣ったりするんだな」

「あー、今ばかにしましたね!?」


 僕が頬をぷく〜とふくらませている間にとうとうアーチの下にたどり着いてしまった。

 彼は一足早くアーチの下だ。

 僕はリュカ様にうなずきくと、続いてゲートをくぐった。


 足を踏み入れた先にはすぐ前に立て札があった。

 僕らはそれを読む。


(なになに……。これは観光客向けのお知らせかな)


 立て札には主要なスポットへの案外が矢印付きで書かれている。ようこそ、のあとに書かれていた観光地の名称を見つめながら僕は声を張り上げた。


「気になる名称がいくつもありますよ! ほら、これとか!」

「紺碧虫の森に、鎧川、琴引きの洞窟……なんだ、楽しそうじゃないか。あとで冒険してみるか?」

「いいんですか!?」

「ま、短い夏休みとはいえまだまだ日にちはあるからな。ゆっくり楽しもうじゃないか」

(わ、わーい!!)


(そういえば……)


昼時の閑散とした町はのどかな雰囲気に包まれている。涼しさも相まって都市部との違いが如実だと思う。ついきょろきょろと周囲を見渡してしまうと「観光客感丸出しだな」とリュカ様にからかわれてしまった。むむむ。


「そんな顔しても変わらないぞ?」

「うるさいですね!」


 憤慨する僕。けれどリュカ様は一ミリも気にしてない様子で町の風景を見渡している。


(こういうところ、ちょっと憎らしい、かな)


 まるで僕だけしか意識してない、みたいで。


 観光といえば、人口が密集するあの街と比べても空気も新鮮でおいしい気がする。やっぱり自然が豊富な島だからかな?


「気のせいだろ」

「ええー、そうなんですか? って、僕また声に!?」

「だな。しっかり出ていたぞ」


 うかつにも声にだしていたことを主人に指摘され僕の頬が熱をもった。恥ずかしいと気落ちする僕に対してリュカ様はふふっとおかしそうに目を細められた。


(ほんと、そんな態度まで様になるんだから。とんでもない御曹司様だよなあ)


 ――ああ、ほんと、報われない片思いだ。


 そんな伏せた視線の先、石畳みの隙間には、僕の思いみたいな、行き場のない花びらがぎっしりと詰まっていた。

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