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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

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魅惑のサマーバケーション2

「お待ちしておりました。ベルナルド家一同様」

 その時ぺこりとゼンマイ人形のように華麗なお辞儀をする赤毛の少女が現れた。

 こちらへ、と右手で奥のリビングを促すツインテールの少女。

 彼女はここでの使用人だという。

 屋敷のメイドさんたちとはまた違ったお仕着せ姿が新鮮だな、と僕は思った。


「ご苦労。滞在中はお世話になるよ」


 フレデリック様が彼女に手を差し出した。

 ところが彼女は手を振って握手を拒む。


「とんでもございません! ご当主様はお気を遣わずにおくつろぎくださいませ。滞在中の観光地のご案内から身の回りのお世話までわれわれにお任せいただければと」

「ん、たすかるよ。ところで……そろそろ荷物を預けたいのだけれど?」


 その一言に少女はハっと口元に手をあてた。すぐさま申し訳ありませんと謝罪を続ける。

 ついでに険しい顔をしながらなぜか足を動かした。

 その際、彼女の後ろに控えていた少年が一瞬顔を歪ませる。


(今、蹴……?)


 その少年が恐る恐る口を開いた。


「に、荷物はこちらだべ。や、屋敷内の手入れは済んでるから、おら、みなさんの荷物を運ぶっぺ」


 話の途中少年は胸を叩いて、任せてくださいというように言外に訴えた。


 説明を終えた少年は鼻息荒くさっきの少女の方を向く。やったぞ、と自慢げに。


 ところがツインテールの少女は頭を抱えていた。彼女が口を開く。

「……リュートおおおお、あなたなまり(・・・)は注意したわよねッ!? あんなに練習したのに、結果がそれ(・・)?」


 目頭に手を当てて天を仰いでいた少女が言う。


 本格的に彼の失態が許せないらしく、額に青筋を立てて、完璧だったよそ行きの顔も崩し、少年に詰め寄る。

 ぽかん、あまりにも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする少年。彼は期待していた褒め言葉のかわりに足蹴にされてしまう。

 ギロリとした視線で睨みつけられたリュートと呼ばれた小麦色の肌に金髪の少年はみじろぐ。


「は……ぇぇぇ、ごめんなさいだああああ。許してけろおおおお」

「ぬわぁにが〝ケロッ〟よー!」

「だ、だれもそんなこといってないだああああー」


 スカート姿もはばからずキックを繰り出す少女と、彼女の足技から逃げるため尻を両手で防御する少年。


 そばかす顔のリュート少年は縮こまりながら言う。


「大体カレンってばおらのメモさ奪うから……」

「カンペぐらい無くても言えるようにしなさーい!!」


 彼の背中を押すというよりも叩かんばかりの勢いには、なんだか会話の内容もあり、僕まで尻すぼみしてしまった。


(可愛いのに、なんか、すごい子だなぁ)


「ほら、ルナ。とても他人事とは思えないよなぁ?」


(ギクっ!?)


 リュカ様の囁きに釘を刺されてしまった。


 ……と、完全に蚊帳の外で達観していたはずの僕だったが。


「そこのあなたがルナね!!」

「あ、うん。そうだけ……どおぉぉぉ!?」

「う、うらやま……じゃない、なによ、その態度!? あなたベルナルド家の方ではないんですってね、使用人のくせに、生意気よ!!」

「ええ、なんでッ!? うえぇっ?」


 まあたしかに言っている内容は正論だが、初対面の相手に斬りかかる勢いが、なんというか圧が、とんでもなくつよい。

 こちらがたじろぐ熱量でカレンは僕の方に詰め寄る。

 壁際にまで追い詰められて困惑しきりの僕。


 と、ここで救世主の登場だ。


 僕らの間に割って入るように手を出したのは。


「悪いね。ルナくんも、夏の間は屋敷の人間として扱ってほしい。これは私からのお願いだ」

「ぐ……ぬっ……。と、当主様がそうおっしゃられるなら」


 大変不承不承といった顔でうなずくカレンにエマ様はあらあらと苦笑している。

 さすがフレデリック様、見事な仲裁です!


 さて、一方のご子息はといえば。


「ふわぁ……ああ。顔合わせは終わったか? じゃ、俺部屋で寝てるから」


 寝ぼけ眼に僕は脱帽した。

 こんなやり取りの最中でも半眼とは、おそるべし。

 僕はふつうにリュカ様の胆力に震えていた。


「待ちなさいリュカ」

「なんです、母上?」

「まだ荷物の整理だって済んでいないでしょう!? それにいくらちいさな別荘とはいえ、この家のルールだってあるはずよ。一応把握しておいて……」


 と、口酸っぱく叱責するエマ様もどこ吹く風とリュカ様は平常運転である。

 ただ内容自体には了承して荷物を片手に一人、足早に部屋へと向かおうとしている。


 そういえば妙に静かだなと思って初対面のカレンとリュートの使用人コンビをみつめた。


(あれ? なんかリュカ様をみる目が……)


 カレンは左右の髪を握って心なし赤い顔をしていた。瞳まで潤んで、上気してる頬、熱でもあるんだろうかと僕は首をかしげた。


「ほら、部屋行くぞ」

「え……あ、はい!」

 彼女を見ていたせいで返事もそこそこになってしまった。

 連れだってリュカ様と部屋へと向かう時、腕を引かれる僕の方を唇を噛み締めてにらみつけるカレンの姿がみえていた。


「な、ななな、なんなのよ~~~!?」


 扉が閉まる物音に負けない高い叫び声、なかなか癖のある子だなあなんて僕はのんきに思ったりした。


#


 トントントン、とノックの音が続く。

「失礼しますだあ」


 どうぞと返した僕の声に反応して、方言まじりの挨拶で入室してきたのはリュートくんだった。

 どうやらエマ様に頼まれた追加の荷物を届けに来たらしい。

 彼は会話もそこそこに荷物を設置すると背中を丸めて部屋から出ていく。

 たまたま見ていた僕と目があうと、苦笑いで、ぺこりと会釈をし、彼は扉から引き返した。


 そんな彼らの他に、湖畔の町で雇ったコック代わりの料理人と執事長代わりの世話係、成人済みの男性二名が追加で、この夏を過ごすことになった。なお厳密には庭の手入れを担当しているマダムもいるらしいが、その人は他の別荘とも兼任かつ人見知りらしく、特に紹介されることはなかった。


 湖畔のちいさなお家、いつもより近い距離に、どぎまぎしてしまう。普段なら、執事として仕事をするところだが、今は臨時休業中。リュカ様もお坊ちゃまらしい姿を脱ぎ捨ててくつろいでらっしゃる。さりげなく脱ぎ散らかした靴下が、もう、自堕落モードを満喫しまくってる証のように思えた。どうでもいいけど、屋敷の執事長のこめかみがピクピクする幻影がみえてしまい僕はひきつった。おぼっちゃまっていう生き物は怖いものなしだなと思う。え、リュカ様だけが例外だって? ははは、まさか!


 なーんて現実逃避する僕だけど、じつはツインのベッドの足元、それも端のほうにちょこんと座ってものすごい汗をかいていた。


 室内は暑くないどころか、快適そのもの。なのにダラダラと汗を流す僕をみかねてか、リュカ様が声をかける。


「その辺の散歩でも行くか。お前もついてこい」

「ひぇへ、……はひ!」


 普段の過ごし方も忘れてド緊張しながら後を追う。リュカ様の長い足についていくには精一杯で、早足で家の外へと向かう。足が揃ってでたり片側引っ込んだりって……あれ正解がわかんないよ!?


 途中の一室でエマ様が僕らを振り返った。


「あら、もうお出かけなの? お部屋の片付けは……」


 くどくどと注意するエマ様に対し、あとでゆっくりしますよと、リュカ様は母親の諫言も無視だ。片手を挙げて答えると、玄関で靴をはいている。


 慌てて僕がはかせようものなら、大げさな身振り手振りで制止してきた。構わず靴をつっかけるようにはき、彼は僕をも急かすように振り返るのだった。


「ほら、お前も!」

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