悪役令嬢とヒロインと美少女
いえーい、乙女ゲーム世界要素ー!
忘れてた、あの人の脳みそがここを乙女ゲームのままだと思っていることを。
少し茶会を楽しんだあと、庭園から出た。もうホールで宰相による挨拶が終わったことだろう、メイちゃんはあそこでひどい罵声を浴びせられる、そんな場所、行かない方がいい。部屋分けはしばらくの間ホールに張り出されるし、あたし達の部屋はシャノンが知ってるし、そういえば彼、カミラとマリアと話しているとき少し遠くで周りを警戒していた。うん、やっぱり仕事はちゃんとするみたい。
「ルイ!」
廊下を五人で歩いていると後ろから声をかけられた。
「ちゅ…お兄様!どうなさったんですか、そんなに慌てて」
急に声をかけられたことにより、呼び方を間違えるところだった。
いけない、いけない、今のあたしは所作の美しい凛とした完璧な淑女だ
「あぁ、やはりルイといたんだね、君、エスメラルダ嬢の代わりの娘だろう?二日前に病で亡くなってしまったと聞いていたからおかしいな、と思ったんだけど、やはり代役を用意していたんだね」
「そ、そうなんです、旦那様がお嬢様は社交的なタイプではないし、おとなしくしていればわからないだろうって……、」
え、代役なのはゲームでも聞いてたけど、死んでたなんてそんな描写はなかった。もしかして、バグ?ここの詳細はまた聞くことにしよう、だって、それだけのことじゃチュロスはここまで慌てない。
「…お兄様、メイさんのことで、何かありましたのね、それもあの人が関わっていること」
「…あぁ、そうだ、あの女が君を探してる、他の令嬢たちもね」
どういうこと?
「やはりあなたがいじめていたのね、ルイさん」
心の中で首をかしげてると、またもや後ろから声がかけられる、正面に居て、あたしの後ろが見れるチュロスは顔真っ青だ、可哀想だから隠してやろう、カミラとマリアに目配せしてあたしのすぐ横に来てもらう。メイちゃんはシャノンの横に、グレース嬢達が手を出しにくくさせた。
「あら、ご機嫌よう、グレース様、いじめていた?私が?誰を?」
振り返れば、やっぱり名前を言いたくないあの人、そして取り巻き数人、嫌だな、そんな目で見ないでよ、そんな悪役を見るような目でさ、あんた達にいくら嫌われてもいいけど、うちのメイちゃんが心配するでしょ。
「…そこにいる方よ、貴方は身分が低い方をいたぶるのがお好きでしょう?」
「あら、それが、孤児院の経営を人に押し付けた人の言うことでしょうか?希望を与えてから落とすなんて、あなたの方が余程残酷だわ…」
作るだけ作って、受け入れるだけ受け入れて?成果がでなければ飽きて忘れる、それが如何無責任で、自分勝手か、きっとこの人は知らない。
だって、今だって、それがなんのことかもわかってない!何その、言っていることが本当にわからないって顔!
「どこのどいつかは知らねぇが、根拠のねーことでうちの姫さん虐めンのはやめてもらおうか、」
「そうだね、ルイはキミのようにあらぬ疑いをかけることはしない、優しい子だから」
あたしが怒りでどうにかなりそうなのを察した二人が一歩前に出て守ってくれた。
そのおかげであたしの頭は冷静になる。
「あなた達!見たことない顔だけど、この方をあのマルゴット家のご令嬢とわかってのこと!?あなたたちの下賤な家とは違う高貴な身分の方なのよ!」
「そうよ!どうせ、平民上がりとかでしょう?日に焼けた肌をそんな露出するなんてなんて下品なの?」
「もう一人は貧相な体!そんな骨ばっていては、だれにも見向きされないでしょうね!」
前言撤回、あったまきた。全員あたしの拳で屠ってやる、と思ったが、チュロスが後ろから握りしめた手を触れ、解く。
そして両隣の空気が変わった、灼熱と極寒だ。温度差で風邪ひく、なんてふざけれないくらいに。
「…………おいおい、オレ様たちのことこんな風に言うなんて、国的にどうなんだァ?」
「はぁ、ボク様たちの国のことを少しでも知っていれば、いや審美眼が少しでもあれば、ボク様たちを下賤なんて言えない、かな」
二人の言葉に取り巻き達の顔が引きつる、ありゃ、てっきり馬鹿にされて逆上して、もう一個くらい問題起こしてくれかなって思ったけど、そこまで馬鹿じゃなかったかァ、ここで一番の馬鹿は未だになにもわかってないボス猿だけか、取り巻きの躾位ちゃんとしなよ、あと、やんごとなき家で教えられたはずの教養、どこおいてきちゃったの?
「シャノン、このような者達は、この後宮にふさわしくない、そうでしょう?」
「そうですね、ルイ様」
目線を向けたアタシに向かって恭しく一礼して、この場にふさわしい態度、あたしを守る立場としてふさわしい言動で、取り巻き達に近づく。
騎士はただの護衛じゃない、騎士になるには強さだけじゃない、令嬢たち以上の教養だ、だって見抜かなくてはいけないから、その女が王子にふさわしいか。一番近くで……女じゃ嫉妬で間違った判断を起こすとかで騎士にしかその権限はない。
「アンタらやっちゃったねー、この人達は隣の王族と皇族だよ、来てもらってすぐで悪いけど、帰ってくれる?帰りは馬車ないから、徒歩になるけど」
「は?な、なに言って」
「わかんなかった?アンタらは失格だって言ってんの、もうここでの立場はない、わかる?」
「そ、それならそこの平民もそうでしょう!?」
「あら、知らないのかしら、身分は彼らのチェックリストにないのよ、彼女はあなた達と違って間違った行動はしていないわ」
まぁこれは屁理屈だ、だって、平民はここにいるはずがない、だから彼女はゲーム内で特例として後宮に残り続けることができた、ま、乙女ゲームの世界だからできたことだ。うん、この世界でも通用するようでよかった。
「グレース様、助けてください!」
「もう二度とこのようなことはしません!ですから…」
「私たちにお慈悲を…!」
取り巻き達はグレース嬢に縋りつく、シャノンの冷たい目にこの人には何を言っても無駄だと悟ったんだろう、少しあたしもびっくりした、あたしに向ける熱視線とは全く違ったから、少し、怖かった。
さて、お優しいグレース様は一体なんていうのかな?あたしはちょっと楽しみにしていた、どんなトンデモ理論でこの取り巻き達を庇うのかなって……
「…何を言ってるの?脱落と言われたなら帰らなくちゃ、そうでしょう?」
……ああ、そうね、あなたはまだゲームと思ってる、だから、脱落したらそこまで、強制ゲームオーバー、何をしても無駄だとわかっているんだ。だからそうしない取り巻き達が不思議なんだね、いやあこういわれたら怒りの矛先がグレース嬢に……
「そうですわね!私たちったら!」
「早く家にかえらなくては!」
「グレース様、私たち目が覚めましたわ!」
「「「流石グレース様」」」
なに、これ……
カミラとマリアの騎士が一向に来ない2人を探していたところに捕まり、そのまま部屋の場所を教えてもらい、あたしとメイちゃんの部屋に隠れた、グレース嬢とモブ令嬢たちから身を守るために。
「メイさん、怖いものを見せてしまいましたわね、ごめんなさい」
「い、いえ!確かに怖かったです、けど、お姉様が守ってくれましたから」
あれは教祖と狂信者だった、異常だ、「カリスマ」も行き過ぎるとこうなるの?
あの後もグレース嬢のためとあたしからメイちゃんを引き離そうとした、その目には彼女たちの意志などなかった、一体どうやってあそこまで……
「あの女、洗脳してンな」
「…ボク様も、そう思うかな…」
洗脳で好感度を異様に上げてるのかな、ん?好感度?
あ、プレゼント機能じゃない!?
この「後宮成り上がり!」はノベルゲームじゃない、エリア移動して、攻略キャラに会って、話をして好感度をあげる、ミニゲームをするとアイテムが手に入る、そのアイテムをあげると好感度が上がる。
あたしもたまに選択肢が出る、いつも重要な場面で。キャラとのイベントに出てくる選択肢は間違えると好感度が下がったり、攻略不可能になったり、ゲームオーバーになったりする、それと同じようにグレース嬢にはプレゼントをした相手の好感度をあげる力を持っているのかもしれない。でも国内の令嬢ほとんどが彼女の虜って…
「ラナンキュラスの茶会……」
グレース嬢が1年に4回は開いているお茶会、歳の近い令嬢は大体に招待状が出される、あたしにはなしだけど。もちろんラナンキュラスは毒があるから、出されるお茶は真っ青なバタフライピーティーらしいんだけど、何故か参加した人には真っ赤なラナンキュラスが贈られるらしい。そういえば、グレース嬢のドレスの刺繍、ゲーム時代は青い薔薇だったのに、赤いラナンキュラスだ、これ、もしかして、何かある?
やだな、ラナンキュラス、あたしも好きな花なのに。
「シャノン、騎士団の皆様に、グレース様から何も受け取ってはいけないと、伝えてくれるかしら、特に、ラナンキュラスは」
「はい」
シャノンは一礼して部屋を出ていく、未だにモブ令嬢達があたし達を探し回っているなら、騎士達はホールかどこかに集まって事態の把握をしているだろう、実際そうするって部屋の前で別れたチュロスが言ってたし!
ラナンキュラス、ラナンキュラス…ゲームのグレース嬢のドレスは青い薔薇、ラナンキュラスでなくてはいけない理由って何?きっとあるんだ、彼女が知っているゲーム知識で……あたしの頭になんの引っ掛かりがないってことは、ラナンキュラスはきっと、王子に繋がってる。
でも、チュロスからラナンキュラスをあの女から贈られたって話は聞かない、クラウスの好きな物は花じゃないから?ラナンキュラスというか、庭園では花を貰える、それは別にどの攻略対象にも刺さらない、モブ令嬢達に手紙付きで送ると、ミニゲームでの妨害が無くなるくらい。ミニゲームはそこまで難しくないから、妨害があってもなくても大して変わらないから、あたしは1回も贈ったことない、手紙もミニゲームじゃないと手に入んないし、モブよりも攻略対象のキャラに使いたかったから。同時攻略とかする時はプレゼントを手紙付きで贈らないと好感度が基準まで上がりきらずに、時間切れになっちゃうんだよね。あと、たまに返事をくれたりして…いい要素だった。あるキャラの手紙が可愛いのなんの……じゃなくて。
「ノエおじ様、グレース様についた騎士は?」
カミラとマリアの騎士はあたしもよく知るおじ騎士、というかさっきも会った、チュロスに並ぶ実力者らしいし、まぁ二人に着くならこの人だとは思ってた。
おじ騎士は話を振られて、あー……と気まずそうに頬をかいた、まさか!
「……新入りのミオードだ、嬢ちゃんもよく知ってる」
「……ま?」
あ、やば、驚きすぎて素が出た。
ミオードはおじ騎士の息子、てか養子、てか元うちの子!うちの孤児院に居て、チュロスやニールには及ばないものの、その高い能力を買われ、おじ騎士に引き取られ、騎士学校に行き、去年卒業した、いやー、騎士になったと聞いた時は泣いたね、泣きすぎて川できるかと思った。
ミオードはグレース嬢のことを知ってる、孤児院ではお兄さん的立ち位置で、グレース穣が捨てた子供たちの面倒もよく見てたから……
前までなら彼がグレース嬢側に着くわけない、って胸張って言えるのに、あっちは強制的に好感度をあげる方法があるってわかった瞬間、もうダメだった。モブ令嬢達にいくら嫌われても、敵対されても何も問題は無い、でも、ミオードはダメだ。
「安心しな、嬢ちゃん、ミオードはすぐあっちの家の護衛と交代させられる予定だ、宰相閣下の一人娘にペーペーの、しかも、 元孤児の騎士がつき続けるわけないだろ?」
安堵させるためか、からかいの入ったおじ様の言葉に強ばっていた体から力が抜けていった、王家に最も近いと言われるマルゴット家、くじ引きの結果とはいえ、新人騎士をいつまでもそばに置くはずがない、ゲーム内でも宰相は出てきたけど、見栄重視だったし。よし、落ち着いた。令嬢モードON!
「それも、そうですわね、私としたことが取り乱してしまいました」
「なァに、シャノンがクビになったら直ぐに嬢ちゃんの騎士にしてやるよ」
「ふふ、ありがとう、おじ様」
ミオードがあたしの護衛騎士ってのもちょっと面白いかも!そして未だにシャノンのクビは狙われてるのか、ちゃんと仕事してくれるから別にいいんだけど……
「ルイ様、俺はあんたから離れる気ないからな」
いつの間にか帰ってきたらしい、シャノンが後ろから耳元で囁く、悲鳴を上げそうになったけど、何とか耐えられた。それは多分、シャノンのつけている香水の香りを覚えてしまったから、チュロスとは違う甘い匂いをあたしは気づいてしまったから。
シャノンをクビにしないとあたし、どうにかされちゃうかもしれない。




