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出だしは不安いっぱい

今日ようやく、待ちに待った後宮入りの日!

ほぼ全ての夜会(グレース嬢関係以外)に呼ばれ、自慢の庭で開いた茶会も大好評、そしてなんかよくわかんないけどめちゃすごい検定に合格したあたしに(ぶっちゃっけお母様に死ぬほど詰め込まれただけだから何やってたのかあんまり覚えてない)後宮入りのお手紙が届かない訳もなく…まぁ届いた時、安心してちょっと泣いちゃったけど、当然の結果だよね!

あたしによく合うセットされた髪、今日のために作ってもらったきれいなドレス、そして、今まで研鑽してきた可愛くて美しい顔!そして、昨年チュロスとニールに送ってもらったブレスレット。これぞ超絶美少女!あまりにも可愛い、しかし他の人からの評価も欲しい!ので!お隣の部屋にいるお母様に聞いてみよ!!


「お母様!今のあたし世界一可愛くない?どうかな!?」

「あなたが落ち着いたら私の意見を言います」

ふぅ!お母様ってば相変わらず冷静だね!さて、落ち着け、あたし、令嬢モードに切り替えるんだ…

「お母様どうでしょうか?私、世界で1番美しいと思いませんか?」

「世界一可愛くて美しいわよ、もう少し品があったら完璧なのだけれど、あなた、お父様に似て元気だから…」

「あー、うん、それは否定しきれない」

思わず令嬢モードから切り替わってしまった、そうなんだよな、あたしのテンションってお父様に近しいものがあるんだよな、むしろ染まらないお母様、強い。


「そんなに緊張しなくても、あなたなら大丈夫よ」

「そう、だよね!うん!」

いろいろ不可解なことがある、だけど、大丈夫、大丈夫なはず!

「……きっと、大丈夫」

簡単に大丈夫と言えるほど、この国の状態は良い訳じゃない、丁度1年前に起こった戦争は何も得られることのない引き分け、あたしも知り合いの騎士の何人かが大怪我をした、街で出会った人々が兵士となり戦死した、うちの配給に参加した浮浪者が大した武器も持たず、特攻させられた!王族が好きな宝石のために!

力なくつぶやくあたしの頭をお母様がぎゅっと抱きしめた。

「あなたは私とお母様の血を引く女、国の一つくらい、簡単に変えてみせなさい」

「うん」

最強の鬼婆二人の血は確かにこれ以上ないほどあたしを鼓舞してくれた、そして、これ以上ないほど背筋が凍った、オフタカタハオニババチガイマスジョケツデス。


「あぁ!!ルイ!!!立派な正妃になるんだよ!!!!」

珍しく土も泥もついていないお父様がバンッとテラスの扉から入ってくる、なぜ外にいたのかは聞かない、だってお父様だし。

「お父様ぁ!!!!!!」

あたし達は全力で抱きしめあった、お母様が頭を押さえてため息をついていたが仕方ない、あたし達は仲良しだから!


ひしーっとしばらく抱きしめあったあと、なぜいきなりの登場したかの理由をお母様が問う。

「馬車が来たよ」

「チュロス!」

終わると同時にあたしもテラスに飛び出した。

あ、ここ一階だからやってるだけだよ!2階からは飛び出さないんだから!


「……ちぇ、チュロ……クラウスじゃない」

王宮からの迎えの馬車、本当は自分達で勝手に行かなきゃ行けないんだけど、しばらく会えてないから迎えに行く、ってこの間の手紙であったのに…来たのは顔馴染みのおじさん騎士。

「…あの方は少し、厄介なやつを止めるのに手こずっててな」

「……?厄介なやつ?」

厄介と聞いて思い浮かぶのはあの女、グレース嬢だ、でもあたし達の界隈で彼女を示す言葉はあのブスだ、や、わかってる、グレース嬢は確かに美人に育った、ただ中身がおばさんなだけだ、でも、全世界の女の子は全て可愛いと豪語するチュロスもといクラウスがブスと言うのをやめないのであたし達もそう呼んでしまうのだ、お陰でどこにいっても界隈以外の人とはその意味が通じない、秘密の暗号と同じような物だ。


「城に付けば嫌でもわかる、さぁ、乗りな」

「まぁ、仕方ないか…クラウス、もう騎士団長だもんなぁ」

三年前、騎士になって早々、クラウスはへっぽこ騎士団長ことクラウス父を決闘でボコボコにした、ゲームの時とは違って、幼少期から騎士団長になるために努力してたから、他の人たちも副団長として一年の研修をこなしてからなら、と快く受け入れた。まぁ、クラウス監禁事件とか、本来は反対するだろう熟練の騎士のみんな、元騎士団長の頼りなさぶりは知ってるもんね……


「あたしの護衛さんは一体誰になるんだろう」

「一応決まりでくじなんだが、嬢さんの護衛の騎士は絶対に何か不正したとみんな睨んでるよ」

「うぇー、もしかしてあたしのアンチ?」

あたしめちゃくちゃ話題の美少女だからアンチもそれなりにいるんだよね、悲しいことに…いや、これこそ美少女の宿命?

「…いや、その逆だな」

あれ、じゃあ熱烈なファンってこと?でもあたしと仲良くしてる人でそんな人いないから、それなりに若い人だよね、うぅん、でもファンならいいのでは?

……あたしのこの考えは直ぐに裏切られることになる。


まだ集合の1時間前、明らかに早すぎた、いや、騎士団の馬だもんね、早くつくよね、まぁ、多分クラウスがあたしと話す時間を取りたかったからんだろうね。もう、兄バカなんだから!とはいえ……

「うぅん、相変わらず趣味の悪い」

よく言えば絢爛豪華、悪く言えば成金趣味なお城の外装はゲーム通りだ、主人公ちゃん視点からはこんな高そうなとこ入っていいのかな、だったけど、令嬢であるあたしとしては金の無駄だな…という感想しかない。


……そういえばヒロインちゃん、結局今まで会えなかったな、一応会う努力はしたんだけど……グレース嬢が先にあって取り巻きに入れてたらどうしよう、可哀想な子を受け入れる私、みたいなアピールで…あいつなんだか分からないけど、同世代の女子からはカリスマ扱いなんだよね、ヒロイン補正があるなら、悪役令嬢補正というものもあるのかもしれない、そうしたらあたしはモブ補正?こんなに美少女なのに注目されなかったらそれもあるのかも、少なくとも同世代が集まる後宮ではあたしはグレース嬢の敵として邪険にされるのは目に見えてる。


でも、いい、あたしの味方には騎士団長になったクラウス、そして文官として働くニールがいるし、騎士の多くはあたしとお友達だし…あたしには誰にも譲れない目標がある。

「よし、頑張……」

「ルイ!右によけて!」

え?


突然のクラウスの声に反射的に右に動く。ふぅ、これもお祖母様の扱きの成果…

そして私のすぐ左、先程までいた場所を何かが爆速で通り過ぎた、えと、これは一体……??あたしはこちらに走ってくるクラウスにどういうことか尋ねようとした、その時だった。

「……ルイ、会いたかったぜ!」

「ひゃあ!!??」

後ろから誰かに抱きしめられた、え、あ、え???何?何なの!?


「「ルイ(嬢さん)から、離れろ!」」

クラウスがあたしを、ここまで連れてきてくれたおじさん騎士が後ろから抱きしめてきた人を引っ張って、あたし達は離れた、知らない声だし、知らない人だ、まって、本当に誰!?


「ルイ、ごめんね、怖がらせて…こいつは今すぐさらし首にするから」

クラウスの腕の中で未だ固まる私を少し撫でた後、怖い顔をして剣を抜いた、知らない人を口を塞いだ上で羽交い締めにするおじさん騎士もやったれ!って顔してる、というかやったれ!って言ってる……2人と同じ白い軍服…なるほど騎士、もしかして、この人が…?あたしの護衛もといファン?過激派みたいだけど、流石に護衛さんを無くす訳にはいかない!


「待って!さらし首はダメ!そんな血なまぐさいのあたしの晴れの日にすることじゃない、そうでしょ?」

「……それは確かに、それに、クビは後任の護衛が決まってからの方がいいか」

離してやれ、クラウスの言葉で……知らない人、兼あたしの護衛騎士さん(やっぱりそうだった)が離される、よかった。

「…ありがとう!クラウス!」

「……ルイ、もう僕のことはチュロスと呼んでくれないかな?」

満面の笑みのあたしとは逆に、クラウスの顔は曇って、少し寂しそうにそう言った、前にあった時はチュロスで、手紙でもチュロスと書いていたから、突き放されたような心地なのかも、あたし達、あだ名をつけて仲良くなったもんね、でも……

「……だってもうクラウスは大人で、あたしだって人をあだ名で呼ぶ様な歳じゃない、それに正妃になるものとしてふさわしい振る舞いでは無いでしょう?」

後宮入りしたらあたし達の関係って昔のようにはいかない、だからそう区切るためにも、ちゃんと名前で呼ばなくちゃって、思ったの。


「……ルイ」

あたしの言うことを分かってる、でも、少し悲しい、という顔のクラウス、全く馬鹿だなぁ、何も変わらないのにね。

「でも、忘れないで、今でもクラウスはあたしの2人目のお兄ちゃんで、心の騎士だよ、それは絶対にこれからも変わらない」

「……うん、僕が少しわがままだったみたい、君は少し会わないうちに立派な淑女になったんだね」

そうなんだよね!まぁ本質は変わらないけど。お母様曰くじゃじゃ馬……ま、外面も大事だよね!あ、そうだ。


「えっと、あたしのこと知ってるんだよね、でも一応、マナート家息女のルイといいます、これからよろしくね、あたしの護衛さん」

挨拶は大事と教えられたあたしだ、完璧な笑顔を添えて、む、とおじさん騎士を睨んでいた彼に向かって手を差し出した。

「オレはシャノン、よろしく」

あたしとシャノンという騎士との握手は成立した、けれどそれ以上に発展した。


「きゃっ」

あたしは今度はシャノンの腕の中にいた。クラウスの腕の中とは違う。これはあたしを守る腕じゃない、これは、あたしを逃がさないための腕だ、それがよく分かる、少し苦しくて、熱い…

「お前が好きだ」

囁かれた愛の言葉、平凡な言葉なのに、言われ慣れた言葉なのに、どうしてこんなに……ドキドキしてるの、あたしー!?


「あー、いい匂いする、ずっと嗅いでたい 」

「え、あ、嗅ぐなぁっ」

「ぐあっ」

あまりのことに頭領から教わったアッパーが出た、ふぅ、やはり拳か、じゃなくて!

「ど、どういう……」

思い切り顎を打ちKOしたシャノンにさっきのどういうことか聞こうとした、がそれは叶わなかった。


「……ルイ様??これは、もう、処してよろしいのですよね?」

クラウスと同じく、しばらくあたしに会えてなかったがために、2人で計画して、時間を作ってここにきたのだろうもう1人の兄、ニールがシャノンに向かって護身用の短剣を投げる姿勢であたしの傍による。

「ルイ、さすがに僕もこれは許せないよ、今すぐこいつを片付けてしまおう」

おじさん騎士もウンウンと頷いている、やめて!首切りのジェスチャーも加えないで!あたしがうんって言ったら絶対本当にそうなっちゃうじゃん!


「ダメだって!もう!シャノンにはあたしがしっかり叱っておくから!」

「ルイ、でも」

「このような不届き者は…」

「た、確かに驚いちゃったけど、悪い人じゃないんでしょ?ダメだよ、こんなこと…」

2人があたしの事を思ってくれてるのは分かる、とても嬉しい、でもそのために過度な制裁はしないで欲しい、このことはほんの少しだけ、油断しちゃったあたしも悪いし…いや、99%あっちが悪いよ?だからシャノンは本当におしおきする、子供たちが皆ギャン泣きしたようなお母様直伝のお仕置をする、だからそれでなしにして欲しい。


「じゃあ、ルイが、また2人きりの時だけでも、チュロスって呼んでくれるなら」

「ルイ様が私の頭を撫でて褒めてくださるなら…」

わがままだなぁ……どっちが年上なんだか!

「チュロス!ニール!ちょっとしゃがんで!」

あたしのその言葉で2人は素直に目の前で少ししゃがむ、うん、普通の女の子には少し高いだろうが、163位はあるあたしには丁度いい位置だ。


「ありがとうね、あたしよりあたしの事を大切にしてくれて」

2人の頭を撫でる、ウェーブがかかってふわふわなクラウス、もといチュロスの髪、サラサラでひっかかりのないニールの髪、2人の背が高くなってから久しく撫でていない、懐かしい感触だ。

「当たり前だよ、僕の妹、そしてご主人様」

「あなたのことを世界で一番大事に思っているのは、家族である私達なのですから」

そうだよね、あたし達は家族なんだもんね!


「オレがそこに入ることは?」

「「「シャノン(あなた)は反省しなさい」」」

うん、ちょっと心配だけど、大丈夫……大丈夫かな!?

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