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五十話 秘密の乙女クラブ①


「……すまない。巻き込んでしまって」


「いえ、ドレイク様のせいでは。元をただせば私のせいですので、これでアイリーン様への償いに代えられるのでしたら幸いです」


「それこそ君のせいではないのに……付き合わせて申し訳ない」


 今日までの間にもう何度繰り返したやり取りだろう。

 その度に空気が一段も二段も重くなるのに、こうして狭い馬車の中で向き合って交わすと更にいたたまれない。

 返答するとまた同じやり取りを頭から繰り返すことになるのを知っているので、サリアは首を振るに留めた。



 今日はついに件の財団が主催する秘密のパーティー当日を迎え、二人は今、会場となるリントワーム国内にある財団所有の会館に向かっている。


 既にそれぞれ例の小説の登場人物に扮しているわけだが、サリアは自分が何という人物に変じているのかも覚束ない。

 辛うじて向かいに座る帽子と黒マントのドレイクが主役の怪盗オニキスらしいとわかるくらいで、今日を乗り切れるか心配だ。



 あのお茶会での無茶な懇願を承諾した直後、すぐにアイリーンから衣装が送られてきた。

 事前に作ってあったとしか考えられない仕上がりに、断られることはないという自信が透けて見え、そこにドレイクへの信頼と二人の関係が表れている気がした。


 おそらく今回のように、ドレイクはアイリーンの要求をこれまで全て受容してきたのだろう。

 愛すべき人の望みなら、どんな無茶も極力受け入れてやる。

 己の全てを捧げることが愛することとするドレイクらしいとは思う。


 しかし彼が折り合いと呼ぶ心情を知っているだけに、それはこれこそが愛であると証明するのに必死なように見えてしまった。

 彼女に向ける眼差しは確かに優しく、ある種の愛の介在を感じるものではあったが、仮に復縁が成っていたとしても解呪には至らない、そんな気さえする。


 もっとも、そんなことを考える余裕もなかったサリアには、解呪に至る愛のなんたるかなど解りようもないのだが。


「愛って一口に言えないものなのね……」


「何か言ったか?」


「あ、いえ。ドレイク様の仰っていたとおり、アイリーン様は服飾に関して素晴らしい腕前の持ち主でいらっしゃるなと思いまして。このドレスも既存の物を直したそうですが、サイズを測った覚えもありませんのにぴったりですし、ドレイク様の衣装の出来も素晴らしいです」


「ああ。昔から手先の器用な人だったが、今では見ただけでサイズがわかるんだそうだ」


 すごい才能である。


 サリアは感心して淡い桃色のドレスを軽く広げてみた。

 丸みのある花弁に似た裾が可愛らしく、胸元にあしらわれた花のモチーフも寄せ植えのように華やかだ。


 確か扮している乙女は花の名前が付いていた気がする。

 しかし衣装と一緒に怪盗オニキスシリーズ既刊全二十三巻が送られてきていたが、今日の芝居の脚本を憶えるのに忙しくほぼ目を通せておらず、詳しいことはもちろん正直概要もよくわかっていない。


 ファンの集いに何も知らない身で混ざるのは大いに不安だ。

 ただでさえ、人の大勢集まる場所でもしも呪いが発動したらと思うと気が気でないというのに。


「……今日のパーティーを上手く乗り切れるでしょうか」


「芝居の方は脚本どおりにこなせば、あとはアイリーンが上手くやるだろう。悪いが付き合ってやってほしい」


「……はい」


「大丈夫だ。不測の事態があれば私が対処する。心配するな」


 こちらの不安を見抜いての言葉だろうか。

 どちらにしても笑いかけるドレイクの大丈夫という言葉に、不思議と不安が和らいだ。


「はい」

 


 ♢

 


「まぁ! なんですのその髪型は! きちんとお読みになったのかしら? ペチュニアの乙女はふんわりロングの内巻きワンカールが特徴ですのに!」


 郊外の窪地に建てられた、神殿を彷彿とさせる幾本もの円柱が特徴的な会館。

 その周辺に到着して落ち合うなり、黄色いドレスに身を包んだアイリーンは頬を膨らませて詰め寄ってきて、容赦なくサリアの髪をほどきだした。


 悪目立ちするのでなるべく髪は纏めておきたいのだが、この少女は聞いてくれはしない。


「まったくもう……あら不思議な髪の色。でもペチュニアの花弁のようで良くってよ。だけど仮面はそれでなくてはいけませんの? ペチュニアの乙女の仮面は目元だけで、露になっている花弁のような唇にオニキスは恋するんですけれど」


「これだけはダメです! 絶対に!」


 危うく仮面まで取られそうになってサリアが慌てて押さえると、アイリーンは憐憫のこもった目を向けた。


「そう……そんなに広範囲に傷跡が……わかったわ、そのままでも十分ペチュニアの乙女に見えるから大丈夫よ。クラクス様もシルエットは完璧だわ。流石は私の運命だった人。立襟の高さも調節してますから、絶対に正体がバレることはありませんわ!」


 さ! と普段よりも三倍は強めに巻いている髪をふんわり揺らし、アイリーンはサリアの腕を取る。


「私達は先に参りますから、クラクス様は手筈どおりにタイミングを見計らって後ほど入館してくださいませ」


「ああ、わかった」


「お二人とも、よろしくおね……そういえばあなたのお名前をお聞きしていなかったかしら。でもここではペチュニアの乙女と呼ぶからどうでもいいことよね。さ、参りますわよ!」


お読みいただきありがとうございます!

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