四十三話 いつかの朝の続きを①
いつにもまして晴れやかな朝だ、とカーテンを開けたサリアは青々とした空を仰いだ。
夢見も良く、昨日からの軽やかな気分が続いていて活力が漲っているのを感じる。
解呪に向けた作業を早く始めたいくらいだ。
サリアは早速、研究室に向かうべくクローゼットを開けて支度を始めた。しかしすぐにその手が止まる。
「ん……と、あれ?」
♢
「……ヒュ、ヒューバート様!」
「はい、おはようござ——なんです、こそこそと柱に隠れて」
本来は直接研究室へ向かうつもりだったが、問題が発生したため急遽ドレイクの部屋前までやって来たサリアは、そこでドアの隙間に滑り込もうとするヒューバートを捕まえた。
「あ、あの……自前の物は紛失しましたので、ローブをお貸しいただきたいと昨日お願いしたと思ったのですが……」
「え? ああ、ええ、聞きました」
「そうですよね。だけど、ご用意いただいた服の中にローブがなくて……それに、今日はなんだか服が派手というか——」
そう訴えながら、柱に身を寄せ縮こまったサリアは胸元のフリル部分を隠すように掴んだ。
今朝用意されていた服は、これまでのシンプルで暗色の物とは違い、ふんわりとして装飾の多いドレスばかりだったのだ。
今は仕方なく、一番控えめだった淡いラベンダーと白でまとめたドレスを選んでいる。
「とっても素敵なのですけど、もう少しシンプルなデザインで、出来れば目立たない暗めの服がいいなと……柱の影に入ったら見えなくなるような黒いのが……」
身を縮め、柱の影から覗き見て訴えると、ヒューバートがはぁ、と一つ溜め息を吐いた。
「目立たないって仰いますけどね、黒い服に黒ローブの方がこの宮廷内では逆に目立ちます。そんな怪しい格好してる人いませんから。解呪に向けてご助力くださっているのは大変助かりますが、あなたメイド達に最近なんと噂されているか知ってます? 図書館の怪人、一人黒ミサですよ。殿下の怪しい客人として注目を集めているんです。これではその内あなたの素性に気づく者も出てきます」
「怪人……」
そんな風に呼ばれていたとは……とショックを隠せない。
「あなたの身バレも心配ですが、殿下が怪しい魔術に興味を持っていると勘違いされても困るんです。ここでは誰もあなたを知りませんし、呪術師だと明かすこともありません。イメージなんて必要ないでしょう。出来ればその仮面も外していただきたいところです」
「——こ、これだけは! 絶対ダメです!」
サリアが慌てて仮面を押さえると、ヒューバートはなるほどと頻りに首肯した。
「そちらはやはり術具なんですね。杖や装身具にすれば良いものを、そんな怪しい仮面にするあたりどこまでも徹底していますね」
「……そ、そんなところです」
何を? と思いつつも肯定すると、ヒューバートがスッと両手指を見せてきた。
さまざまな形の指輪が幾つも付けられている。
「私なんかはありきたりですけど、ほら、この指輪を術具にしていて、それぞれ紋章を彫り込んでいるんです。転移術は中々複雑ですからね、事前の仕込みが大切ですよ。あ、この右手薬指の指輪だけは違うんですけどね。見ればわかりますって? そうですよねぇ、華奢でハイセンスなデザインの一粒石ですもの、術具じゃないってすぐわかりますよねぇ。え? じゃあ何かって? それは、あれですよ、ほら、え? ねぇ? おわかりでしょう? いやですねぇ、もう」
うふふ、と漏らしながらチラチラとこちらを窺ってくるヒューバートは、指輪について聞いてくれと言わんばかりだ。
「……ヒューバート様、術具のお話は結構ですから、とにかくローブかフードの付いた服を」
「わかりました、お話し致します。これはですね、ご想像のとおり先日エミリアと」
「指輪のお話は結構なんです、聞いてくださいヒューバート様!」
「先ほどから入り口で何をしているんだ」
一人語りを始めてしまったヒューバートに堪らずサリアが大きな声を出すと、さすがに気になったのか部屋の扉が開いてドレイクが中から顔を覗かせた。
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