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十八話 脅迫


『呪いでドレイクを魅了しろ』


 ヒューバートの無茶な要求に、サリアは戸惑いを隠せず慌てて拒否した。


「呪いの力⁈ 無理ですそんなこと、私は誰かを呪うなんてことは」


「いいですかサリア嬢。呪うと言ってもですね、これは人を救うための呪いです。解呪と同じです」


「同じじゃないです、呪いで感情を捻じ曲げるんです。それは悪しき——」


「何も悪しくないです。この非常事態にも曲がんないから曲げてほしいんです。我が君はド真面目なんですよ。簡単に一目惚れしてグイグイいったり、ころころ好きな人が変わったりするタイプじゃないんです。そこにトカゲの姿です。王太子が呪われただなんて内外に知らせるわけに行きませんから、人前に出る機会は減りますよね。元々無いに等しい恋心を、抱く機会すらゼロになっては人を愛することなんてこの先ありませんよ。困るんですそれじゃ」


「わ、わからないじゃないですか、そういった方が急に現れて激しく恋に落ちることだって」


「いいえ、ありませんね。この一大事にも曲がらなかった、あの真面目さでわかるでしょう? 恋愛観に独自の美学をお待ちなんですよあの方。それにですね」


 ヒューバートは、ずいっとサリアに顔を寄せた。


「仮に殿下に愛する方が現れたとして、その女性が大型のトカゲにキス出来る確率どのくらいだとお考えで?」


「それは……」


 相当厳しかろう、とサリアも思った。

 仮面越しにもそれを察したのだろうヒューバートは、ですよねと言って離れた。


「何も難しく考えることはありません。ただ殿下に、貴女のことを愛していると錯覚していただければいいのです。呪いの同調性を利用し、殿下の主観で一時そう思っていただければいいだけです。貴女に殿下を愛せと強要してはいません。終わったら解いていただいて構いません。そう思わせる魔術を使ってチュッとやって解呪してほしいと言ってるんです」


「愛してると思わせて……ってそんなこと」


「トカゲにキス出来るか出来ないかで聞かれたら、出来るでしょ?」


「そんな……出来るか出来ないかの二択で言われたらそれは……」


 サリアが答えようとすると、フードの中で閣下が首筋にキスを落とした。

 そのせいでつい閣下で想像してしまってモゴモゴ答えを濁すと、ヒューバートは、ほら! と鬼の首を取ったように嬉々とした。


「ほら! 出来るでしょ! 解呪さえ終われば後はご自由に出て行っていただいて構いませんから、ね!」


「出来るからって、出来ません! だって、王太子様はトカゲですけど——」


 元は人間の男性なのだとつい今し方再認識したばかりなのだ。キスだなんて想像も出来ない。



「ああっとぉ! 右腕が疼くぅっ!」



 と、突然ヒューバートは右腕を押さえて芝居がかったセリフを吐いた。


「ど……どうされたんですか」


「あー、大変だ。サリア嬢が、うんって言ってくれないから、ストレスでこのままじゃ魔術を暴走させちゃいそー」


「急に何を仰っ——」


 サリアがそう言い切る前に、ヒューバートは素早く右手の指先で図形を描くように空を切った。

 すると部屋の入り口付近にいたサリアが、瞬時に部屋の奥のベッド上に移動していた。


 早技に驚く間もなく急に床がフカフカの布団になったので、サリアはバランスを崩してベッドに転がる。

 

 それを認めてヒューバートは冷たい笑みを浮かべた。


「あれ、お伝えしておりませんでしたか? 私、転移魔術を得意としておりまして」


「——一瞬で……決して簡単な術じゃないのに」


「私の得意魔術はおわかりいただけましたか? ここで頷いていただけるのでしたら、貴女をヴリティア王国の牢の中に転移なんてしないのですけど」


「……ヒューバート様」


「ヴリティア国王の寝室でも構いませんよ? そんなところに侵入したら即刻処刑でしょうね、逃亡犯のサリア・オルコットさん」


「——っ!」


「私はこの国のため、主君のためならなんだってしますよ、サリア嬢。ご協力いただけますね?」


 最初に牢獄にやって来た時と同じ、冷たく見下すような表情でこちらを睨んだヒューバートに、サリアは返す言葉を持たなかった。


「ありがとう。貴女は善良な魔術師だ。細かい話は明日以降致しましょう。今日はどうぞ、ゆっくりお休みください」


 そう言ってヒューバートはにっこり微笑むと、サリアの前から消えた。

 ように見えたが、実際には消えたのはサリアの方で、ハッと気づくと先ほどあてがわれた部屋の床に座り込んでいた。

 こんな時でも素晴らしい転移術だと感心してしまうのは魔術師の性かもしれない。


 サリアは一人と一匹しかいなくなった部屋で仮面を外し思案する。

 ヒューバートがドレイクの解呪に焦り必死な気持ちはわかるが、呪いで恋愛感情を抱かせようなど無茶な話だ。


「……出来なくは、ないでしょうけど」


 そういった効果をもたらす呪いも作り出すことは可能である。

 

 けれど、いくら助ける為とはいえ人を呪いたくなんてない。

 ましてや、トカゲ姿とはいえドレイクは人間の男性だ。

 解呪の為と言い聞かせたとて、男性と付き合ったこともないのに種々ある過程を一足飛びに飛び越えて、キスなど出来ようはずもない。


 サリアは仮面を持つ手を震わせて、真っ赤な顔で叫んだ。



「そんなこと出来るわけありません! だって私、人を好きになったことだってないのに……!」


 

 ♢

 


「どうだ?」


 クリスは公務から執務室に戻ってくるなり秘書官に声を潜めて訊ねた。


「それが、あの腕の燃えた女性ですが、治療室に運ばれた後から消息が不明で。彼女を知っているという者もみつかりません」


「怪しいな……やはり何かある。引き続き探ってくれ」


「はっ。それと殿下、サリア様の追放先の件ですが」


「何処かわかったか?」


「それが……流刑地は全て洋上の孤島のはずなのですが船の出航した形跡が」


「ないのか?」


 コクンと秘書官は頷いた。


「工作した後がありますが実際には。サリア様ほどの魔術師が悪事を働いたとされたのです。追放先に自由があるはずもなく、当然幽閉の上に複数の監視が付くでしょう。しかし……」


「……どうなってる」


「王女殿下からは幽閉の指示は出ております。しかし、その指示の先が今の段階では不明なのです」


「……ダンス狂いだ、舞踏会を台無しにされて怒り狂ってる。証拠もなく処刑には出来なかった腹いせにきっと何かしたんだ」


「クリストファー殿下、王女殿下は我が国に王位継承権の順位見直しの議論を巻き起こさせている程の御仁です。決して私欲で権力を振るうような方では」


「ならサリアは何処に行ったんだ! 一体あの夜何が起こった!」


「舞踏会の(すじ)からは、娘の責を問われて失脚したスチュアート様に極秘にご協力いただいております。あの火柱が本当に呪いであったのかどうか、まずはサリア様の潔白を明かしませんと」


「呪いのわけがないんだ、あんなことを彼女がするわけが……」


「殿下、今少しのご辛抱を。引き続きお調べ申し上げますので」


 秘書官はそういうと執務室を後にした。

 一人残されたクリスは額を押さえて深い溜め息を吐いた。


「サリア……君は今、一体何処にいるんだ」



お読みいただきありがとうございます!

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