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第七話 生き残る為に今出来る事

 食料は思いの外、少なかった。

 あったのは、スナックタイプの栄養食品、ブロックのハム、お菓子類が少々。

 カップ麺や冷凍食品は多数あったが、電力供給が絶たれている今、それらは長物だろう。


 部屋の中を見る限り、恐らくこの部屋の家主は独身男性なのだろう。

 黒の革張りのソファーやテーブルの上に散らばる雑誌類から、そう推測した。

 だから、一人の人間が生活出来るだけの食料しか置かれてなかった。

 多分、食事は外食ばかりだったのだろう。

 とりあえずはキッチンにあったスナックの栄養食品を戴く事にした。


「しばらくはここを拠点にするか」


 パサパサする栄養食品を牛乳で胃に流し込みながら、今後の事を考える。

 しばらくは食料には困らないだろう。この部屋の食料が尽きれば、隣の部屋の食料を取りに行けばいい。

 だから、今考えるのは、どうやってモンスターを倒し、レベルを上げるかだ。


 ここに逃げ込んだ時、ゴブリンの集団が追って来ていた。

 恐らく、奴らは未だこの付近に居るだろう。

 一匹や二匹なら問題ない。だが、それ以上となると対処しきれない。

 【闘気】のスキルによって、以前より身体能力が向上しているが、それで複数体のゴブリンを相手にどこまでやれるかは分からない。


 一先ずはシャワーを浴びて朝稽古で掻いた汗を流そうと、風呂場へ向かった、のだが――


「水まで止まってんのかよ」


 蛇口を捻っても少量の水滴が垂れてくるだけ。

 思わず悪態が付いて口に出た。


 水が無いのは少しまずい。

 人間は水を飲まなければ4〜5日程で死んでしまうと聞いた事がある。

 幸いな事に冷蔵庫の中には、牛乳と大量の缶ビールがあったので水分を取るだけなら幾日か保つだろう。

 だが、酒は逆効果だという話も聞いた事あるんだよな……。


 とりあえず水問題は隣の家も漁ってみてどうにかするとして、今はこの穴だらけで汗臭い服を着替える事にした。



 ◇



 寝室のクローゼットを漁り、出来るだけ動きやすい服を選んだ結果、黒地に赤の線が入った上下セットのスポーツウェアに着替えた。

 サイズもピッタリだった。

 どうやら、ここの住人はサッカーが趣味だったようで、スポーツ用品が結構出てきた。

 お陰で動きやすい運動するのに適した服が見つかったので良かった。

 沢山あったので着替えにも困らない。


 で、食事も着替えも終わったという事で、早速モンスターを倒しに行く事にした。

 つまりはレベル上げをしに行く。


 玄関から出て非常階段を降りて行く。

 非常階段はこのマンションの外に、壁に這うようにして設置されている為、外の様子が良く見える。

 だが、まぁ――


「酷い有り様だな」


 その光景を見て、出て来た言葉がそれだった。

 そうとしか言えなかった。

 街のあちこちから白煙が立ち昇り、正に世紀末といった様相だ。


 そんな光景を見ながら、ゆっくりと慎重に足音を立てないよう、しかし確実に下へ降りて行く。

 42階から下まで降りるのはかなり苦になると思ったが、【闘気】を身体中に循環させて身体強化を促せば、大した事でも無かった。


 足音を響かせないよう慎重に、冷たい鉄で出来た非常階段をひたすらに降りて行けば、やがて下の様子がはっきりと見えてくるまでになっていた。

 壁に表示された現在の階を示す数字を見れば、現在の場所が5階である事が分かった。

 まだモンスターがいるような気配は感じられない。

 そのまま慎重に1階まで降りていく。


 そして、1階に辿り着いた。

 依然、モンスターの気配は感じない。人が近くにいるような感じもしない。


 ゆっくりと、恐る恐る、非常階段からマンションへ通じる扉を開ける。

 顔だけ出して覗き込んで見てみれば、そこには酷い光景があった。


 壁は崩れ、地面にはその残骸が転がり、家の扉はベコベコに歪んで無理矢理こじ開けられた痕があった。


「…………」


 俺はそれらを観察しながらも息を殺して先を進む。

 途中で家の中も覗いて見たが、部屋は荒らされていて、酷い有り様、としか言い様が無かった。


 結局、モンスターに遭遇する事は無く、ガラスの飛び散るエントランスから外へ出た。


 さて、これからどうするか。

 近くにゴブリンが居ると思っていたのだが、当てが外れてしまった。


 周りを見渡してから少し考えて、とりあえず周囲を探索する事にした。



 ◇



 あんなに居たモンスター達は一体何処へ行ったのか。

 という程モンスターは見かけなかった。

 その代わり、モンスターによって荒らされた跡がそこかしこに残っていた。

 家々の壁は崩壊し、家の中が丸見えになっているものも少なくない。道路には乗り捨てられた車が煙を燻っていた。

 そして、時折見かける人の死体。

 どの死体も食べられた痕があり、腹は食い破られ、臓物が飛び出しているのが見えた。


 そんな変わり果てた街の様子を見ながらも、周囲を警戒して進む。

 出来るだけ壁沿いに進み、モンスターがいた時に直ぐに隠れられるように備える。


 そんな風にして数分程進んだところで、前方に見える住宅街の路地の先から足音が近付いて来る事に気が付いた。

 急いで近くにあった、道の端に乗り捨てられたワゴン車の陰に隠れる。

 顔だけ出して覗いてみると、路地からゴブリンが三体、こちらの路地へ曲がって来るのが見えた。


 ゴブリン達はそれぞれ手に棍棒を握り締め、仕切りに周囲を窺っていた。

 恐らく、獲物を探しているのだろう。

 ゆっくりとした歩みで、しかし確実にこちらに迫って来ているゴブリン。


 俺は息を整えて【闘気】を使う。

 全身に【闘気】を行き渡らせる。

 【闘気】による身体能力の強化が出来た証である、身体の火照りを感じたところで木刀を静かに構えた。


 低くした姿勢でジッとゴブリン達が近くにやって来るのを待つ。

 そして、隠れているワゴン車を通り過ぎようとしたところで――


「ゴキュッ――!」


 鋭く突き出した木刀がゴブリンの首を貫通すると同時に奇怪な声が漏れ出る。

 素早く木刀を引き抜くと、奇襲に驚いている様子の残り二体の内、近い方のゴブリンの側頭部へ横薙ぎを放った。

 決して人体――人ではないが――が鳴らしてはいけない音を響かせて吹き飛んでいくゴブリンを尻目に、もう一体のゴブリンを見据えた。


「グギャァア!」


 いきなり仲間がやられた事に激昂したのだろう。

 叫び声をあげて棍棒を振り下ろしてくる。

 俺はそれを落ち着いて横に避けると、空振りし体勢を崩したゴブリンの首元へ突きを放った。

 再び奇怪な声を最後に倒れるゴブリンを認めると、先程吹き飛ばしたゴブリンの方へ向き直り、木刀を正眼に構えた。

 しかし――


「……思った以上に強くなっちゃったみたいだな」


 そこには顔の形をくの字に歪ませ、既に息絶えているゴブリンが転がっていた。


 この分ならもう少し数が増えても問題無く倒せそうだな。

 もちろん奇襲が前提となるけど。


 俺は転がるゴブリンの死体をそのままに、レベル上げを続ける為に周囲の探索を再開した。

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