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第三話 溢れるモンスター達

 先程吹き飛ばした奴と新たに現れた奴の二匹に挟まれる形となってしまった。

 俺は木刀を構えて牽制しながら、背後に壁を背負う様な位置へ慎重に移動する。

 二匹の緑の化け物も俺の動きに合わせて、こちらを警戒する様にそれぞれ棍棒の様な物を持って近付いてきた。

 俺はその頃になってようやく緑の化け物の容貌をしっかりと確認した。


 緑の化け物は人型であるが、身長は子供程しかなく、全身は深緑色の肌をしている。腰に薄汚い布しか巻いてなく、他に身に纏っている物はない。

 緑の化け物の容貌の中でも特徴的なのは、長く尖った耳だった。

 右手には武器である、血に汚れた棍棒を持っている。

 俺はその姿からある空想上の生物を思い浮かべた。


 ――ゴブリン。


 緑の化け物の容貌はまさしく、ファンタジー物語の中で頻繁に登場するゴブリンのそれであった。


 地球上には決して存在する筈のない存在。

 それはまさに、化け物と呼ぶに相応しかった。


「グギャァア!」


 ここに来るまでに多くの人を撲殺してきたのであろう、その血に塗れた棍棒を振り回しながら威嚇してくる緑の化け物、改めゴブリン。


 俺はゴブリン共を牽制しながらも、この状況をどう切り抜けるか必死に考えていた。


 前方には二匹のゴブリンと車が立ちはだかり、後方は中央分離帯であるガード壁があり、逃げ道はどこにも無い。

 つまり、どちらかを倒して逃げ道を確保しなければならない。だが、先程本気で攻撃したにも関わらず、ゴブリンはそれ程ダメージを負った様子はなかった。

 何か現状を打開する方法はないのか……。


 思考を巡らせていると、やがて痺れを切らしたのか右側のゴブリンが飛び掛かってきた。

 右手に握った棍棒を振り下ろしてくる。速度はそれ程速くない。

 俺は落ち着いて、振り下ろされる棍棒に木刀の先をあてがうと、木刀の上を滑らせる様に棍棒を受け流そうとした。

 だが――


「ぐっ!」


 思った以上にゴブリンの力は強く、その体躯からは想像も付かない威力を持っていた。


「おらぁぁあああ!」


 気合いの声と共に、強引に棍棒を横に払い除ける。

 すると、ゴブリンが体勢を崩してたたらを踏み、目の前に無防備なゴブリンの首が曝された。


 先程は殴り付けるような攻撃だったから、余りダメージが無かったのかもしれない。なら、鋭利な攻撃をすればいい。

 俺は隙を見逃さず、その喉元へ鋭い突きを放った。


「グゴォッ!」


 奇怪な呻き声を上げたゴブリンの喉元には、見事に木刀が中程まで突き刺さり、首を貫通していた。

 どうやら、この攻撃は有効なようだ。


 木刀を素早く引き抜くと、力無く崩れるゴブリン。

 俺はそれを確認しながらも、この隙に左から棍棒で殴り掛かろうとしてきているゴブリンをつい先程のゴブリンと同じように対処した。

 棍棒での攻撃を受け流され、たたらを踏むゴブリンの喉元へ鋭い突きを放つ。

 まるで数秒前と同じ光景を焼き直したかのように倒れるゴブリン。


 何とか倒せた。

 そう安堵したところで妙な事が起こった。



 《クラス獲得。【戦士:レベル1】》

 《スキル獲得。スキル【闘気】》



 頭の中に奇妙な声が響いたのだ。


「何だ?」


 思わず、周りを見渡す。だが、周りに人はいない。

 一体今のは何だったのだろうか?

 疑問に思うのも束の間。乗り捨てられた車と車の間から化け物達がこちらへ迫って来ているのが見えた。


「今は一先ず逃げるか」


 俺は東京方面から迫り来る化け物達とは反対方向へと向かって走り出した。



 ◇



 東京方面とは逆方向へ向かってしばらく走っていると、道路の端に非常口がある事に気が付いた。

 恐らく皆ここから逃げたのだろう。

 非常口の扉を開けると、下へ降りる階段があった。

 下にはバイパス道路が通っており、高台となるこの場所からは街の様子が遠くまでよく見えた。


 ――街のあちらこちらから黒煙が立ち昇っていた。


 化け物――モンスターはここだけではなく、そこら中にいるのだろう。

 階段を降りると、あれ程居た筈の人が周囲には居なかった。

 もう逃げたか。

 だが、逃げ遅れたのだろう、数人程の人がちらほらと走って行くのを見かける。


 俺も早く逃げなければ。

 だが、一体どこに逃げればいい?

 周りを見渡す。

 大通りということもあって、周囲に見えるのは車屋やデパートなどといった商業施設ばかりだ。

 ゴブリン――モンスターと戦ったから分かるが、そんな建物ではモンスター達の進行を防ぐ事など不可能だ。

 周りを壁で囲まれて居たとしても、異常な膂力をもって破壊されてしまう。

 ならば、どうすればいいのか……?


 モンスターの進行を阻め、安全を確保出来る場所を探して周囲を見渡していると、ここから――バイパス沿いから少し離れた所に高層マンションが建っているのが見えた。

 それを見つけた瞬間、閃いた。


「あれだ!」


 壁で防げないなら、高さを取れば良い。

 俺は周囲の建物よりも上に顔を出す、高層マンションへと向かって駆け出した。


 バイパスを抜け、住宅街の路地へ入ろうというところで、後ろから破砕音が聞こえてきた。

 足を止めずに後ろを振り向くと、そこには高速道路の壁を破壊し、下へ降りようとする多数のゴブリン達が見えた。いや、見えるのはゴブリンだけじゃない。二足歩行の巨大豚――オークのようなモンスターや大きな狼なども居る。その中でも際立っているのが、体長三メートルはあると思われる赤肌の鬼――オーガだった。


 あのオーガは車の上に登った時にも見えた。

 最初に聞こえた大気を揺るがす様な咆哮もあのオーガのものだったのだろう。直感的にそれが分かった。


 俺は舌打ちをしながらも走る速度を上げた。

 流石にあの数は対処しきれない。それに、ゴブリンでさえ倒すのに苦労したのに、それよりも大きな体躯のオークやオーガなんかが倒せる訳がない。


 そんな事を考えながら、必死に走っていると、とうとう奴等が下へ飛び降りてきた。

 十メートルはある高さから落ちても、何ともないらしい。モンスター達はコンクリートの地面に罅を走らせながらもゆっくりと立ち上がった。

 下に降りたモンスターから順に散り散りにそれぞれ違う方向へと駆けていく。


 逃げ遅れた人が狼のモンスターに食い殺されるのが遠目に見えた。

 逃げ込んだ人達が立て籠もる飲食店の窓ガラスが破壊されるのが見えた。


 俺はそれらを出来るだけ見ないようにして、目的地である高層マンションへと向けて走った。

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