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第二話 善意悪意など関係ない純粋なる害意

 人々を襲う化け物達、という光景に唖然としていると、運転手のおじさんも気になったのか、車の上に登ってきた。

 目を見開き、口を開け、まるでUFOでも見たかの様な表情を浮かべる運転手のおじさん。

 その顔のままこちらを見てきた。

 目が合う。


「逃げましょう!」

「え、ええ。に、逃げましょう!」


 俺の言葉に大きく頷きを返した運転手のおじさんと共に逃げ出そうとしたが、車と車の間にはまるで濁流の様に人が流れており、車の上から降りる事が出来ない。


「仕方ない。車の上を行きましょう」


 俺はそう言って後ろの車の屋根の上へと飛び移った。

 後ろを振り返ると運転手のおじさんが泣きそうな顔でこちらを見ていた。


「む、無理です……私には無理です!」


 見れば運転手のおじさんの腹はかなり出ていて、とても身軽そうには見えなかった。


「私はここから降りて走っていきます!」

「待っ――」


 俺の返事も聞かずに車の上から飛び降りた運転手のおじさんは、人の濁流に見事に飲み込まれた。


「おじさん!」


 皆逃げるのに必死なのだろう。地面に人が倒れているのにも気付かずに、運転手のおじさんを踏み付けて走り去っていく。

 急いで、車の上から運転手のおじさんの様子を確認しようと駆け寄ると、声が聞こえてきた。


「私は大丈夫です! あなたは先に逃げて下さい!」


 見れば頭の上に手をやって、頭を踏まれない様に守っている。

 ホッとするのも束の間。俺は走り行く人に、地面に人が倒れている事を伝える為に声を荒げた。


「ここに人が倒れています! そこ! 通らないで避けて通って下さい!」


 運転手のおじさんを踏み付ける軌道にいる人に注意を呼び掛けていく。

 しかし、皆俺の声など聞こえていないかの様に、無視して運転手のおじさんを踏み付けていく。


 ……流石にイライラしてきた。


 背中に背負うリュックから飛び出る木刀の柄を掴んだ。


「ここを、通るんじゃねぇ、つってんだろっ!」


 車から飛び降り、運転手のおじさんを踏み付けようとしていた男性へ向かって横薙ぎを放った。

 木刀は男性の胴へと吸い込まれ、横へと吹き飛ばした。

 それによって一瞬空いた濁流の隙間に再び横薙ぎを放つ。


「ここを避けていけ! 突っ込んできたら頭カチ割るぞ!」


 怒鳴る様にそう叫ぶと、俺を避ける様に濁流が裂けた。

 それを確認すると、俺は振り返らずに足下に倒れる運転手のおじさんに声を掛けた。


「大丈夫ですか!?」

「え、ええ。大丈夫です」


 チラリと視線をやると、踏み付けられて身体中を埃まみれにしながらも何とか立ち上がる様子が見えた。


「それじゃあ、行きましょう」


 よろける運転手のおじさんに肩を貸しながら、ようやく逃げようとした所で左から気配を感じた為、咄嗟に左手に握った木刀を横に払った。

 視線をやると、先程木刀で吹き飛ばした男性が脇腹を抑えて立っていた。


「てめぇ、何しやがんだ!」


 改めて見てみると、その男性は昔ヤンチャだったのだろう、スカジャンを着てスモークの入った銀縁眼鏡を掛けて、髪をオールバックにしていた。


「すみません。緊急事態でしたので仕方なく、あの様にさせていただきました」


 今は一刻も早く逃げなきゃいけない。こんな所で時間を浪費している場合ではないのだ。

 そんな想いから、素直に謝罪を述べ先を急ごうとした所でヤンキー崩れの男性が待ったを掛けた。


「ふざけんじゃねぇ。仕方ない、じゃねぇだろ! 慰謝料払えよ!」


 今にも殴り掛かってきそうな勢いの男性だが、こんな所でする話じゃない。


「それは後でお願いします。今は早くここから逃げないと」

「ふざけんな! そう言ってバックレるつもりだろ!? ああ、気が済まねぇ。いっぺん殴らせろてめぇ!」


 拳を構えて凄んでくるヤンキー崩れの男性。


「だから、後でと言ってるでしょう」


 いい加減しつこい。


「この人は私を助ける為にそうしたんです。この人に非はありません」


 どう対処しようかと迷っていると、運転手のおじさんがそう言ってくれた。


「うるせぇ、ジジイは黙ってろ!」


 だが、ヤンキー崩れの男性は激しく罵る。


 なんなんだ、こいつは。今の状況が解ってないのか?


 俺は一つ深呼吸をしてから口を開いた。


「分かりました。話は後で聞きますから、今は逃げましょう」


 俺は落ち着いた声音で淡々とそう言った。


「いいや。今、ここで、お前を殴らなきゃ気が済まねぇ」


 ヤンキー崩れの男性の返答に、俺は先程より深い溜め息を吐いた。


「ああ、分かったよ……おじさん、先に逃げて下さい」


 おじさんの為とは言え、原因を作ったのは俺だ。おじさんを巻き込む訳にはいかない。

 俺は先に行くように促した。


「ですが――」

「後で追い掛けますから」


 食い下がろうとしたおじさんの言葉を制して、食い気味にそう言った。

 気持ちが伝わるようにおじさんの目をジッと見つめると、やがておじさんは諦めたかの様に息を吐いた。


「分かりました……先に行ってます」


 俺が頷きを返すと、おじさんは俺から離れて足を引きずりながら走っていった。

 その頃になって周りを見れば、もう逃げて行く人は一人もおらず、道路の上には俺とヤンキー崩れの男性しか存在していなかった。


「クソガキが。調子に乗った事を後悔させてやる」


 そう言って指を鳴らしながら近寄ってくるヤンキー崩れの男性。


 一発は一発だ。

 俺から先に殴ったのだし、一発や二発やり返される事くらい甘んじて受け入れるべきだろう。

 俺は溜め息を吐きながら、殴られる事を受け入れる様に眼を閉じた。


「ぐあぁぁぁぁ!」


 しかし、頬に来るはずの衝撃は無く、あったのは男の悲鳴だった。

 眼を開けると、目の前にいたヤンキー崩れの男性が緑色の体表をした人型の化け物に覆い被さられる様に襲われていた。

 その化け物は手に握った棍棒の様な物で男を何度も殴っていた。


「やめろ!」


 俺は咄嗟に、本気の横薙ぎを放った。

 それは緑の化け物の側頭部へと打ち当たり、数m(メートル)程吹き飛んでいった。


「大丈夫か!?」


 急いでヤンキー崩れの男性に駆け寄ると、既に彼は事切れていた。

 死んでいたのだ。

 顔面が完全に潰れて、脳漿が飛び出ているのが見える。


「嘘だろ……」


 余りの非現実的な光景に唖然とする。

 だが、呆けている暇はないようだ。


「グギャァア!」


 驚いた事に動けるらしい。先程吹き飛ばした緑の化け物がやって来たのだ。

 普通の人間ならば、即死か昏倒する勢いで木刀を振った筈なのだが、見た限り軽く血を流しているだけで何ともないように見える。


 木刀を正眼に構えて警戒していると、突然後ろから気配を感じた為、咄嗟に背後へ横薙ぎを放つと共にバックステップで後ろに下がった。

 放った横薙ぎに当たった感触は無かったが、牽制の為に放ったものなのでそれは問題ない。問題なのは、目の前にもう一匹緑の化け物がいた事だった。

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