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09 隠しキャラ

 オズワルド・アストレア。


 アストレア伯爵令息でティアメル・マリノスと同じクラスに在籍している。得意な魔法属性はなく、防壁魔法や身体強化などのいわゆる無属性魔法を得意とする。と表向きはそう提出しているが時間を操る特殊な魔法を世界で唯一使える存在だ。

 黒髪で金の瞳。普段あまり動かない表情も相まり暗い印象を抱かせる。

 魔法量はとても多い。小国ならば簡単に消してしまえるほどの量だ。体を使うのはあまり得意ではなく、勉学も魔法もやろうと思えばなんでも出来てしまうが、何に対しても意欲が湧かず必要最低限な行動しかしない。会話も必要最低限で、極稀に返事すらしない時もある。

 そんな彼を教師も同級生もどう扱えば良いか分からず、クールでミステリアスだと思われている存在。


 ゲームではティアメルとお互いに惹かれあい、自分達で互いの親を説得し、婚姻関係を築くのだが、学園在学中にティアメルが死んでしまう。

 彼女の死が受け入れられず、オズワルドは彼女にしか話していなかった時魔法で、彼女を助ける為だけに時間を巻き戻す。

 しかし、巻き戻った世界でティアメルがオズワルドに惹かれることはなかった。別の男子生徒と仲睦まじくなり、そしてまた死んでしまった。

 その後も巻き戻しを繰り返すが、その度に自分以外とくっつく様を見せつけられ、彼女を守れない自分の無力さを思い知る。


 ティアメルがオズワルドを選んでくれることもあった。

 ティアメルが笑っていればそれだけで良いと思う時もあった。

 ティアメルの純潔を無理矢理奪った時もあった。

 だけれど、どの世界でも学園を卒業前にティアメルは命を落とした。


 どれだけ気を付けても、どれだけ一緒にいようと、どれだけ強くなろうとティアメルは助からない。

 いっそのこと自分でと手に掛けたこともあった。もう自分が何の為に何をしているのか分からなくなったのだ。

 それでも何度も何度も繰り返した。

 その度に何度も何度も好きになった。


 だからせめて、せめて学園を無事に卒業してくれるまで。

 あわよくばその隣に自分が立っていないかと切望しながら時を遡る。





 ◆





 植物園でサボっていたオズワルドはティアメルの護衛と対峙していた。

 対峙、と言っても護衛はへらへらしており気持ち悪い奴だなとオズワルドは思う。


 現在ティアメルの一番近くにいるのは彼だろう。護衛とも聞いているし守れるのかと聞いたらへらへらにやにやしていた表情を引っ込めて「命に替えても」とはっきりと言った。

 同い年であり隣のクラスである彼の評判は聞いていた。子爵家の次男だが魔力量は申し分なく、成績も良い。入学前からめきめきと力をつけていったのは一部貴族の間では有名な話だ。

 本人は噂を知っているのか知らないのか、いつも何を考えているか分からない。

 女性にニコニコ愛想を振りまく割に、何にも興味がないというような顔をして。その実なんにでも食指が動くようで、暇さえあれば図書館に入り浸っているのは知っていた。


 この世界では彼が選ばれたのだろうとオズワルドは気づいている。

 だからまぁ、自分の質問に間髪入れずに答えた彼を見て、多少は信用しても良いかと欠片ほど思った。もちろん彼女に降りかかる危険を熟知おり、時を繰り返す中で増幅した魔力を持つ自分はすぐに対処が可能だ。だが今までそれでも彼女を助けられなかった。だから彼女を守るというのならば、少しでも力になって貰いたかったのは本心だ。



 そして自身が仕えているティアメルにしか尻尾を振らない彼は今、目の前でオズワルドに尻尾を振っている。様に見える。

 再度へらへら笑いだした彼に気色悪い奴だと、やはり信用できない奴かと考えを改め直そうかと思案する。


 彼とまともに話をするのはこの世界で、というよりどの世界合わせても初めてだ。

 そもそも彼女と関りがなかったり、護衛を徹底して仕える彼女にすら堅い態度をとっていたり、ただの幼馴染であったり、学園で一から友情を育んでいたりと、どの世界でもティアメルが彼を選び取ることはなかった。

 だから自分も重要ではないと交友を深めようとは思わなかったのだ。


「……君さ、マリノス嬢の事どう思ってるの?」

「?お仕えするべき我が主人です」

「じゃなくて……、…人として?どう思ってる?」

「人として……、お優しい方です。努力家で魔法も勉学も頑張られておりますし、領地民1人1人に気を配り、領地をもっと良くする為に公爵様とも議論をされていて。ですが社交は苦手意識があるようで、それが克服できれば立派な公爵夫人になられるかと」

「…そう……。じゃあ、女の子としては?」

「女の子…ですか?」

「そう、恋がどうとかの女の子として」

 思ったような答えが得られなかったオズワルドは質問を重ねる。結構鈍い奴なんだなと思いながらきょとんとした間抜け面を眺める。

「………………可愛らしい方かと…」

「…………それだけ?」

 今度はオズワルドがきょとんとする番だった。


 普段の尻尾の振り様はそれだけではないと思ったが……。




「何と言っていいのか……、最初はもっとあったとは思うのですが…。今はもう生きているだけで尊いというか、そりゃ見た目は好みですよ?声も軽やかで寝息も静かで可愛いですし足音が聞こえないと羽生えてる?!って錯覚する時もありますし食事の時小さい口でちょもちょも食べる姿なんかは小動物のようで大変愛らしく幼い頃からお傍にいる身としてはすくすく健やかに成長されたのがもう奇跡としか言いようがなくじっとしていると美の結晶かと思うほど美しいですしというか懸命に生きててホントもう偉いんですよ毎日朝に起きてご飯食べて歩いて教養を付けて鍛錬して帰り着いて課題をこなしお風呂も入って夜更かしせずに眠りについて偉すぎる生きてるだけで優勝なのに苦手な社交場に出たり俺にまでお声がけくださったり女神なんかって話ですいえ女神なんですがえ~尊い俺女神に仕えてるとか前世でどんな徳を積んだんだとふとした時に同じ空の下に存在しているだけで泣きそうになるそれでまず御髪の色なのですが」

「うん。止まって。黙って。つまり要約すると」

「推しです!」


 可愛らしい方になるという事か、と続くはずだったオズワルドの言葉は、ユーマの満面の笑みで違う言葉で遮られた。




 …………"オシ"って何だ…。


「あ、アストレア様も推しです!」

「え?あ、ありがとう?」


 オズワルドは限界だった。キャパシティが。

 ティアメルを褒めちぎっていたことから"オシ"というのは褒められていると同義だと受け取ることが出来るので、困惑しながらもお礼を返す。

 そのお礼に、素直に感謝を伝えられるなんて凄すぎる聖人?!と目の前にいる彼が心の中で感動していることにオズワルドは気づかない。




 こいつ気色悪いな。本当に。

 先ほど彼が一息で喋っていた内容をかろうじて、かすかに、ほんの少し思い出す。

 いや、気色悪いな。

 それで僕も"オシ"?



 気色悪い……。




「もう直球で聞くけど、マリノス嬢と婚約したい?キスだとかハグだとか、そういう事をしたい意味で好き?」

「……………………俺が……?」

 今日だけで既に何回か見た間抜け面。


「や、いや~、見てるだけで幸せを噛みしめていたのでそう言ったことは考えたこともなく…。…………なんというか…可愛らしい庇護対象……、愛玩動物や子供に近い感覚なのでそういったものは……。それにお嬢様が俺を選ばれるわけないですし」

「?どうして?それはマリノス嬢にも分からないだろう」

 確かに繰り返した時の中で護衛の彼が選ばれたことはない。オズワルドを入れて6名はよく選ばれていた。だがその6名以外を選んだことだってあるし、誰一人も選ばなかったこともある。

 だからこの世界では彼なのだ。

 オズワルドはそう思っている。


「……彼女が君を好きだと言ったら?どうするの?」

「いえ、ですから…」

「言われる根拠はないけどさ、それって言われない根拠もないってことだよ」



 オズワルドは分かりやすい言葉を選んだ。案外鈍い奴なのかと思ったから。

 だが彼は困惑して本当に分からないようだった。


 その顔を見て、僕何してるんだろとオズワルドは合わせていた目線を逸らして耳の裏を掻く。

 彼女と彼がくっつかなければ自分にも少しはチャンスがあるのに、何故敵に塩を送るような真似をしているのか。


 そこでやっと自分の物ではない上着がかかっていたことに気づく。良く考えなくても目の前でシャツ一枚姿の彼の物だろう。疑問を抱くのならば、何故今まで気づかなかったのかにだ。


「これ、君のだよね。…ありがとう」

「ひょぁゎ……」


 …………もう考えるのはやめよう。




「あのさ、君はマリノス嬢を守りたい。そうだよね」

「はい」

「僕もなんだ。だから協力しよう。互いに出来るだけ彼女の傍を離れずに危険が迫っていると分かれば互いに知らせよう」

「協力……知らせる……」

「うん。これ、通信用の魔道具。対になってる僕のとしか連絡取れないけど。……とりあえず卒業まで貸してあげる」

「…………幸せにします…」

「うん。意味分かんない」




 その後オズワルドは魔道具の使い方を説明し、植物園をさっさと後にした。


 次の授業は出席しないとな…。

 そういえば。

 ティアメルを守りたい理由は言わずに一方的に決めたけど、何も聞かれなかったな。


 教室へ向かう為に本校舎へ足を踏み入れた時、オズワルドはそのことに今更気が付いた。



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