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04 同級生

 ルカリオ・ヴァン。


 ヴァン伯爵令息であり、風魔法を得意としている。ティアメル・マリノスの同級生として在学中。

 赤髪で紫の瞳。ぱっちりとした瞳が素直そう、という印象を抱く。

 魔法量はそこそこで、勉学も魔法コントロールも苦手だが、武術が得意で特に剣技に自身がある。将来は騎士になるのかと良く聞かれているが、本人が明言したことはない。


 ゲームでは孤児院育ちで、困っている人を放っておけず、面倒見が良かったので支援員からも頼りにされ、ムードメーカーで明るい性格に育った。そしてその頃に魔力がある事が分かり、ヴァン伯爵家に引き取られることとなる。

 孤児院に住んでいたころから人との間に壁を作らず、誰とでもすぐに仲良くなることが出来たため、名残なのか大変人懐っこく初対面のヒロインにも気安く話しかけてくるのだが、伯爵家ではどこかよそよそしく接されてしまい、それが自分が孤児院育ちだから、貴族の血筋ではないから、本当の家族ではないからと色々考えている内に自分も上手く付き合うことが出来ずに、伯爵家では素の自分を上手く出せずにいた。

 自分が貴族に生まれていたらこんなに悩まずに済んだのだろうかと悩んでいた時、一目見た時から可愛いと思っていたヒロインに、孤児院育ちである事を伝えた後でも変わらず接してくれたことが嬉しく、恋を自覚してからは惜しげもなく愛の言葉を伝えるようになる。





 ◆





 この世界線でも、ヒロインであるティアメルを一目見た時に可愛いなと確かに思った。

 そして誰とでもすぐに仲良くなれると自負している彼が、同級生で未だに仲が良いと言えないのがティアメルと、違うクラスからわざわざ彼女に会いに来る男子生徒だった。

 折角出来た縁。どうせなら仲良くしたいなぁと思い、どちらかと仲良くなれればもう一人ともすぐに仲良くなれるだろうと考え、先にクラスが同じティアメルの方と仲良くなろうとしたのだ。


 ティアメルと仲良くなろうと話しかける内、見ている内に、元気よく返事をしたり笑顔で彼女の後をついて行ったりする同級生が犬の様にに見えて面白かった。

 だがクラス内では大人しく本を読んでいると聞いた。合間に観察をしてみるとティアメルと共にいない彼は話通り大人しいものだった。ティアメルの前ではにこにこ笑い、尻尾でも見えそうなほどご機嫌なのが分かるが、彼のクラス内では全くそんな様子はない。

 だがティアメル以外に冷たいというわけではなく、女の子にはよく笑いかけているし、男子にも落とし物を拾ってあげたり荷物の運搬を手伝ったりと、案外親切にしていたのを見かけたので、ルカリオは優しくて良い奴なんだろうなーと思ったのも覚えている。

 それからはティアメル目的にクラスにやってきた彼の方にも声をかけに言った。仲良くなれそうだと思って。

 しかし、彼から返ってくるのは「左様ですか」「知りませんでした」「凄いですね」「折角ですが遠慮します」「そうですか」で構成されていた。気づいたのは夏季休暇に入る少し前。


 何度言っても堅苦しい言葉遣いだし、新学期になっても2人の態度が変わらなさそうなら無理に話しかけるのはやめておこうかな、なんて考えながら残り少ない休暇を持て余していた時だ。

 気晴らしで出かけた街で同級生を見かけた。彼が仕えている公爵令嬢の姿は近くに見えないし、何より彼は私服だったので従僕だか護衛だかの方も休暇を貰っているのだろうとすぐに気づく。

 これも何かの縁だろうと話しかけようとした。

 奇遇だな。買い物か?なんて言おうとしたのだ。


 が。

 それと同時に見知らぬ令嬢が男に捕まれて、路地裏に引き込まれるのを目撃してしまった。

 追いかけないと。

 だけど一人は危険だ。

 見回りの騎士に知らせて。

 探してる間に見失う。


 脳がそう考えている間に、体は視界内に捉えていた同級生の腕を掴み、令嬢たちが消えた路地裏へと歩みを進めていた。


 迷惑だろうなぁとは思った。明らかに好かれていないだろうし。でも仲良くなれると思うんだよなぁとルカリオも流石に罪悪感を覚えていた。

 だがしかし。

 彼の「それは、貴方にとって都合が良い奴ってだけでは?」という発言で全ては吹き飛んだ。



 そんな風に、自分は誉め言葉として使っている一言を、素直に受け取ることの出来ない奴に出会ったのは初めての事だった。

 そして今まで自分が一つの見方しか出来ていなかったという事を理解した。




 もっと話をしてみたくて家に誘った。

 すると、彼は思っていたような主人に尻尾を振り、誰にも噛み付かない従順な犬ではなかったと思い知る。

 良い奴そうな同級生から、面白い同級生にランクアップしたのだ。彼からすれば傍迷惑なことこの上ないが、ルカリオはそれを全く意に介さず今まで以上に仲良くなりたいと、どんどん距離を詰めようと容赦のない質問攻めにする。

 本人が周りへ無差別に親切にしている自覚がなかったのには驚いたが、それを普通の事だと簡単に言ってのけたことにルカリオは気分が高揚することを止められなかった。


 孤児院育ちで、貴族家に引き取られ、学園に入学し同級生よりも多少幅広く色んな人を見ている自信がある。だからこそ、そんな"普通"のことを当たり前のようにやることの難しいことを知っている。


 貴族の暮らしなんて興味なかったし、貴族社会での対人関係もただ疲れるものだと思っていた。だから学園での友人関係も広く浅く。個人同士ではなく家同士の付き合いになるのだからと深く関わらないように意識して人間関係を築いてきた。

 しかしそんな中、自分から親しくなりたい、友達になりたいと思った相手が出来たのだ。


 ルカリオは新学期が楽しみになるとともに、その先もちゃんと仲良くなって一個人として付き合っていきたいという感情を思い出す。



 彼を見送った後のルカリオは、伯爵家に引き取られてから一番嬉しそうで、楽しそうで。


 ヴァン家の使用人たちはルカリオを可愛がりたいのに、どうすれば良いか分からないでいる伯爵夫婦と、ただ魔法が使える子供なら誰でも良かったと思っているルカリオの関係が少しでも良くなればと常日頃思っている。

 だから夕食の報告時にどうお伝えしようかと、緊急会議を開いてあーでもないこーでもないと案をひねくり出し、珍妙な案に一瞬迷い、瞬時に却下し、更に案を募る。


 その結果【坊ちゃんのお友達がいらした】と大変シンプルな報告となった。



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