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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
精霊たちの舞う空に
93/112

◇92 勇者の覚悟が決まるとき

「よよぼう」第六章までのあらすじ


 RPG同好会を設立した中等部二年の西原詩音にしはら うたねは、個性的な仲間たちと親交を深めていく。そして、もうひとつの詩音の願いは、担任教師の佐伯十三さえき じゅうぞうとの恋の成就だった。


 季節は巡り、晩秋の体育祭で先輩の神楽楠葉かぐら くずはとの勝負に負けた詩音は、それでも気丈に自身の努力を続けるが、その裏で樟葉の計画が着々と佐伯先生を追い詰めつつあった。

 一方、詩音に想いを寄せるクラスメイト、越谷漣こしがや れんの存在も明らかになり、詩音の周囲の恋模様はさらに混迷を極めていく。


 クリスマスを目指して、詩音たちRPG同好会の仲間たちは、各自の胸に秘めた想いの実現に向けて、いよいよ本格的に行動を開始する…。




主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。

 何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。

 店に集う年下の子供たちからは人気の高い姉貴分だが、従兄の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気の高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー兼防波堤。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお向かいさん。夢莉にあからさまな挑戦を続ける残念トリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。気分屋で周囲から孤立しがちな人見知りツンデレハリネズミ娘。

 複雑な家庭環境のせいでかなり達観した言動も多い。戸籍上は笹嶋ささしま姓となったが、学校内では山科で通している。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格も、詩音たちの影響で丸くなりつつあり。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。美雅のクラスメイト。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルの救世主的な存在で、詩音にとっては微妙に気になる存在。



《その他の人物たち》


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に早熟可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、環との経緯から生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。

 相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女。本名は「大路おおじ まどか」。

 過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。


宮津みやづ 綺夏あやか

 美雅のクラスメイトの明朗少女。クラスで孤立しがちな美雅を気にかけ、様々な変化のきっかけを作る。やがて美雅にとってかけがえのない親友となる。

 美味しいものと可愛いものに目がない現代っ子で、アクティブな行動派のわりに細部はかなり大雑把な性格。躊躇する人の背中をそっと押すのが得意。


越谷こしがや れん

 詩音のクラスメイト。突然詩音に大胆告白をした、もう一人の勇者。

 落ち着いた穏やかな性格だが、詩音に関してはかなりの情熱家で、涼太やジョナサンを仮想敵に考えている模様。

 洞察力に優れ、佐伯先生より早く詩音の長所に気付くなど侮れない存在。


吉川よしかわ ひびき

 詩音のクラスメイトで、越谷の友人。詩音の事になると見境のない越谷の手綱を握る役目。口調は荒いが常識人で善人ではある。

 小学生の妹のおかげで、女子に対する希望的感情は希薄。風歌とも仲間感覚でのフランクな友人関係にある。


赤木あかぎ 風歌ふうか

 詩音のクラスメイトで。クラスを引っ張るまとめ役的なさっぱり系。小麦色が健康的な姉御肌。お祭りやイベントが大好きでとことん楽しみ尽くすタイプ。

 体育祭の男女混合騎馬戦で詩音や越谷、吉川と組んだことで、思いがけず詩音と越谷の、というより詩音の相談相手になっていく。


◇92 勇者の覚悟が決まるとき



 中等部中庭でのちょっとした騒動を終えて、もはや恒例となった駅前のバーガーショップで、いわゆる残念会の儀式を済ませた面々は、小一時間ほどで各々の家路についていった。


 今回の騒動の中心人物である夢莉は、他の皆から集められた軍資金によって、充実したおやつタイムを過ごすと、誰よりも早く颯爽と帰路についた。


 夢莉は夢莉なりに、一人きりで心の整理をつけたいのだろうと考え、詩音たちは特に引き留めることなくその背中を見送ることにした。


 もちろん詩音と彩乃も、駅前通りの踏切を渡ってそれぞれの自宅へと向かっていく。といっても、二人がとりあえず目指しているのは、例によって白岡家の自宅と半ば一体化したアーケード街の外れのホビーショップだった。


 クリスマスの煌びやかな装飾に彩られたアーケードの商店街を進み、奥の奥、いよいよ終わりが見え始めたところで、二人の目の前にサンタクロース衣装に身を包んだ年季の入った巨大なぬいぐるみの熊が現れる。誰かが中に入っていて、突然動き出してもおかしくはない大きさだ。


 その巨大なサンタ熊が鎮座する場所こそが、目的地のホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』 だ。


 毎年お馴染みのクリスマス商戦もいよいよ佳境、おもちゃ業界はここぞとばかりの稼ぎ時を迎えることになる。


 今から何十年も前、いわゆる昭和の昔には、業界の年間売り上げの九割以上を十二月のひと月だけで叩き出すこともあったらしい。


 「それじゃ、彩乃、また明日ね。お店番も程々にね…」


 「うぃー、よく事情はわからないけど、詩音もお疲れー」


 詩音はそう言って、笑顔で彩乃と別れ、再び一人自宅への帰路についた。


 彩乃にとっては、例の詩音と夢莉のやり取りの大部分を聞きそびれたわけで、詩音に対して曖昧な言葉しか返しようがない。


 ―まぁ、彩乃に聞かれていないのは幸運だったかも…?―


 ザルのようなセキュリティの彩乃のことである。どこからどう噂が漏れてくるとも限らない。そんなことを漠然と考えながら、詩音は今後の方針を一人、脳内でシミュレートする。


 もちろん詩音の最終目標が佐伯先生であることには一切の揺らぎはない。樟葉先輩と分の悪いタイマン勝負に持ち込んでまでも譲れない、詩音にとっての絶対攻略目標なのだから、今さら多少のことで動じることもないはずだ。


 しかし、予想外に…とでも言えばいいのだろうか、詩音に関心を寄せる奇特な輩が最近増えつつあるのだ。


 それは詩音にとっても嬉しい誤算ではある。嬉しいことに変わりはないのだが、かといって、おいそれとその想いに応えるわけにもいかない。あっちを立てればこっちが立たず、とは良く言ったものである。


 クラスメイトの男子、それ以外にあまり接点がない越谷はともかく、幼馴染みにして親友の夢莉の場合は、何をどう言い繕っても気まずさは残るだろう。


 それに、涼太の件もある。夢莉がどう思っているのかは知らないが、涼太は以前から、というよりも物心ついた時から既に夢莉にぞっこんだったのは、長い間傍から見ていた詩音には手に取るように理解できた。


 夢莉がいったい何を考えて唐突にあのような行動に出たのか、詩音には知る由もないが、きっと夢莉は夢莉なりに思うところがあっての行動なのだろう。夢莉という人間をよく知る身からすれば、単純思考の詩音など足元にも及ばないくらいに、その言動のひとつひとつが意味のある行為のはずなのだ。


 ―とりあえず、何だか明日から気まずいなぁ…―


 それが詩音の率直な感想である。


 しかし、詩音に打てる手は多くはない。まずは目の前の状況に対処しつつ、佐伯先生の動向を注意深く見ていくしかないだろう。


 できれば佐伯先生には海外に行って貰いたくない。どれだけ楽観的に考えてみても、遠く離れた詩音と佐伯先生の関係が今より進展するとは思えないのだ。


 だからといって、いくら何でも一介の女子中学生が想い人を追いかけて海外へ…ということもあり得ない。他所の国どころか隣県に押しかけるのでさえ、容易い話ではないだろう。


 ―やっぱり所詮は子供なんだなぁ、私…―


 とぼとぼと頼りない足取りで自宅への帰路を歩みながら、詩音の心は無力感と絶望感に押しつぶされそうになる。


 樟葉先輩は来年になったら高校生だ。詩音は相変わらず中学生のまま。その差は相当に大きい気がする。


 子供の終わりの時期と大人の始まりの時期とでも言えばいいのだろうか。たかが一年間の差ではあるのだが、そこには目に見えない歴然とした差があるように思えた。


 そう、例えるなら魔法使いと魔導士の差、剣士と騎士の差のようなものかもしれない。そんな立ち位置の微妙な違いで、許されること、やれることに差が生まれるのだ。


 だから今の詩音にできることは、大きく制限されているわけだ。それでも魔王佐伯攻略を諦めきれない傷心の勇者詩音は、藻掻いて足掻いてみっともない醜態を晒しつつも、格好悪く立ち向かっていくしかない。


 ―越谷君や夢莉の屍を踏み越えちゃった以上、ここで諦めちゃ、立ち止まっちゃいけないんだ…。頑張れチキンな私、勇者詩音!―


 自分に言い聞かせるように、詩音は心の中でそんなことを繰り返し呟く。


 思えばこれで何度目だろうか。挫けそうになってはギリギリの崖っぷちで思い留まるように決意を新たにする。根性があるとかいう以前に、単純に諦めが悪いだけなのかもしれないと、詩音は考える。


 それでも、皆の前で樟葉先輩との全面戦争を公言してしまったのだから、今さら撤退は許されない。これは女の意地みたいなもんだ、ここで引き下がったら女が廃る。死中に活あり、つまりシチューにカツありだ。とことん食らい尽くす勢いで突き進むのみだ。そう腹ペコ中二女子の詩音の発想が飛躍する。


 ちょうどいいタイミングで住宅街の十字路に差しかかった詩音は、唐突に立ち止まって大きく深呼吸。やがて精一杯の背伸びをしながら、天高く右の拳を突き上げた。


 「待ってろ、魔王佐伯ぃ! 今に見てろよぉ! 破れかぶれの勇者詩音に敵なんていないんだぞぉ!」



挿絵(By みてみん)



 すっかり短くなった一日の終わり、気の早い太陽がさっさと地平線に沈みつつ、今日一日の営業を終えようとする頃、ヴィスラーンの占い小屋を後にした涼太は足早に家路を急いでいた。


 いつもは夢莉と一緒になることも多い時間帯だったが、夢莉の姿は駅のホームにはない。今日はそれぞれ別の列車での帰宅となったようだ。


 とはいえ、あの夢莉のことである。話がどちらに転ぼうと、どうせ今夜早々にでも、何かしらの報告というか愚痴というか、メッセージのひとつもあるだろう。


 一方的な聞き役になるしかない涼太からすれば、特に何か気の利いた言葉など思いつくはずもなく、只々はいはいそうですか、と受け流す以外の選択肢はない。


 下手に余計なことを口走って、流れ弾に当たるのだけは御免被りたいところだが、夢莉にとってのそういう負の感情の行き着く先は、常に涼太だった。


 もちろん納得はし難い話ではある。勘弁しろやと正直思うことも多い。だたそれが夢莉の心の支えになるというのなら、まぁそれも仕方のないことなのだろうと涼太は考えていた。


 幼稚園時代から腕っぷしでは夢莉に負けることすらあった涼太だが、いざという時に夢莉の傍にいて支えられる立場、助けてあげられる立場なのだとしたら、それは本望ともいえる状況だった。


 自宅の最寄り駅で一人、列車からホームに降り立つと、人の波に流されて自然と改札口へと運ばれていく。そのまま流されるままに身を委ね、駅前に放り出されると、申し訳程度の小さなスペースに設けられた花壇のベンチが見えてくる。


 その時、一匹の子猫が涼太の足元を駆け抜けて走り去っていった。


 何の気なしにその子猫の飛び出してきた方向に涼太が視線を向けると、花壇の裏側に隠れるようにしゃがみこんでいる一人の制服姿の少女がいた。


 「おいおい、寒いんだからさっさと帰れや…」


 涼太は誰にともなくそう小さく呟きながら、そのしゃがみこんだまま微動だにしない少女に近づいていった。


 「あはは…、子猫にまでそっぽ向かれちゃった…。なんだかなぁ…」


 俯き加減で地面を見つめたままの少女は、もちろん夢莉である。


 いつもの凛としたカッコイイ系女子のイメージは何処へやら、折れそうなほどか細く、消え入りそうなほど儚げなその姿は、たとえ涼太でなくとも息をのむほどの美しさだった。


 「おい、夢莉、そんなトコにいると風邪ひいちまうぜ? もう日が暮れてるんだから、さっさと帰ろうぜ…」


 「…うん」


 涼太がそう声をかけたものの、夢莉の反応は薄い。気分的に家に帰りたくないのだろうとは察するが、だっからといって傷心気分の幼馴染みの女子中学生を、一人でここに残して帰るわけにもいかないだろう。


 美雅じゃないのだから、夢莉が自暴自棄になって何か良からぬことをやらかすとは思えないが、全く無いともいえない以上、放置はできない。


 「まぁ、何だ…。お前が話したくなるまで何も訊きゃあしねぇから、とにかく帰って熱いシャワー浴びてよ、嫌な気分は洗い流しちまえ!」


 「…うん、涼太ならそう言ってくれると思ってた…。だからここで子猫と一緒に涼太を待ってたんだよ…。でも、子猫にまで振られちゃったよ、あたし…」


 覇気のない声でそうぼそぼそと呟く夢莉の背中を見つめながら、涼太はおどけながら更に言葉をかける。


 「じゃ、その子猫の代わりに俺で我慢して、目一杯弄り倒しとけや…。何なら一緒にシャワー浴びてやってもいいんだぜ? どうだい、なかなか魅力的なアイディアだろ?」


 「あー、それだけは遠慮しとく…」


 夢莉はようやくゆっくりと立ち上がりながら、自分の目の辺りをごしごしと制服の袖で拭う。


 「んぁ? 何だ、お前、泣いてんのか?」


 「泣いてないし!」


 いつも通りの大きく良く通る声でそう叫びながら、夢莉は涼太に振り向いた。


 「まぁ、いいから無理すんな…。お前の泣き顔なんて見れるのは、幼馴染みの特権だからな…」


 「だから、泣いてなんかないって言ってるでしょ! この…馬鹿涼…」


 「おい、また泣き始めたら、今のごしごしやってたやつが無駄になっちまうじゃねぇか…」


 「煩い! 特権なんだから、そこは黙って受け止めなさい!」


 涼太の胸にこつんと額を預けるようにして、寄りかかった姿勢の夢莉が背中を震わせる。涼太としては願ってもない展開だが、その心中は夢莉に劣らず複雑だ。


 「…あたしって、滅茶苦茶ずるい女だよね…。あんたの気持ち、ちゃんとわかってるくせに、こんな…さ…」


 「いいんじゃねぇか、それはそれで…。別に愚痴聞き役の一人や二人、誰にだっていて当然だろ? 俺もまぁ、こういった性分だから、好きでそういう役をやってるんだし…。それが嫌なら、とっくに他のもっとナイスな女子に鞍替えしてるってもんさ。そう思うだろ?」


 夢莉の頭を恐る恐る撫でながら、涼太はそう囁きかけた。僅かにぴくりと反応した夢莉だったが、すぐに涼太の掌を受け入れるように落ち着いていった。


 「どうせ、乗り換えるような他の子なんていないくせに…」


 「そりゃどうだかな…? 俺の気が変わらねぇうちに、さっさと言うべきこと言ってくれねぇと、気がついたらどっか行っちまってるかもしんねぇぞ?」


 「今さら言わなくてもわかってるくせに!」


 どん、と一度、涼太の胸から離した頭を、再び頭突きのように繰り出して、夢莉はそう拗ねた言葉を紡ぐ。


 「言葉にしねぇと伝わらねぇこともあるって、お前が一番わかってんじゃねぇかよ…」


 「そう、ね…。そうかもね…」


 涼太の言い分ももっともだ。夢莉は自分の想いをわざわざ言葉にして、その気持ちを詩音に告げるという選択をしたのだから、もし新しい道に歩み出そうというのなら、夢莉自身が改めて涼太にそのことを伝えるべきだろう。


 「まぁ、お前がお嫁にでも行かない限りは、永遠にお向かいさんだからな。十年でも二十年でも待っててやるよ。だから焦らずゆっくり構えてろ…」


 そんな気の長い悠長な話を始める涼太の言葉に、この前のRPGイベントでプレイした妖精の国の話を、夢莉はふと思い出す。


 夢莉の演じていた現実世界で報われなかった貧民街の踊り子も、時の止まった妖精の国なら幸せになれた。ピーターパンのような少年は、夢莉の踊り子の我儘を叶えてくれた王子様そのものだった。


 もちろんそれは都合の良すぎる自分勝手な話だとは思う。ピーターパンは強引な踊り子の勢いに流されて、渋々そうなっていったのかもしれない。


 もしそうであれば、夢莉が一度全てを受け入れる覚悟を決めさえすれば、きっと目の前のお調子者の王子様、涼太がそれを受け止めてくれるだろう。


 「そうね、あたしにとって涼太は、時間の止まった未来の王子様、『あたしだけのピーターパン』なのかもね…」


 「はぁ、何じゃそりゃあ?」


 「うーん、そうね、何だろうね…? とにかく今度はあたしが、ピーターパンの夢を現実世界で叶えてあげる番、だよね? ちょっとあたしなりに考えてみる、ってことで、今は許して欲しいかな…。あははっ…、あたしってば、ほんとに勝手ばっかりなやつで、ゴメンね、涼太…」


 夢莉はそう言って涼太の胸から身体を離し、寂しげに微笑んでみせた。今の夢莉にできる精一杯の強がりなのだと、涼太は思う。


 「ゴメンじゃねぇだろ…まったく。今さら謝んなよ…」


 「うん、ありがとう、涼太…」


 涙の滲んだ目元を緩ませて、ぎこちなくにっこりと笑う夢莉の足元に、先ほど逃げ去ったはずの子猫が舞い戻ってきて、無邪気に纏わりつく。


 「お前は笑顔のほうが良いって、このチビも言ってるぜ、なっ?」


 にゃぅ、っと疑問形の泣き声を発して、首を傾げた子猫の瞳がますます丸く、きらりと光った。



挿絵(By みてみん)



◇93 苦悩する魔王の心境 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


●ご注意

 この小説は、原則的に毎週月曜日の10:00に更新する、連載形式の作品です。

 現在は、第七章を2024/9/30より掲載中となります。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。

 ずるずると続いているこの作品もついに七章まできました。もう暫くは続きますので、これからも是非よろしくお願いします。


 近頃は、少しずつTRPGという趣味も復活しつつあるようで、様々な趣向を凝らしたシステムをショップで見かけるようになりました。

 奥が深く、一見とっ付きにくい世界ではありますが、見ているより体験するほうが簡単なものなので、ご興味を持っていただければ嬉しいです。


 挿絵画像は相変わらずの、KISS「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。シーン適合率が低いのはお許しください。

 AIイラストも現在試行錯誤中ですが、なかなか絵柄とキャラが安定しないので困っています。

 ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。



■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを試験公開中。「よよぼう」関連以外もあります。

■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、只今、絶賛放置中

■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定

■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)


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