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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
精霊たちの舞う空に
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◆85 迷う事なき決断

「よよぼう」第六章までのあらすじ


 RPG同好会を設立した中等部二年の西原詩音にしはら うたねは、個性的な仲間たちと親交を深めていく。そして、もうひとつの詩音の願いは、担任教師の佐伯十三さえき じゅうぞうとの恋の成就だった。


 季節は巡り、晩秋の体育祭で先輩の神楽楠葉かぐら くずはとの勝負に負けた詩音は、それでも気丈に自身の努力を続けるが、その裏で樟葉の計画が着々と佐伯先生を追い詰めつつあった。

 一方、詩音に想いを寄せるクラスメイト、越谷漣こしがや れんの存在も明らかになり、詩音の周囲の恋模様はさらに混迷を極めていく。


 クリスマスを目指して、詩音たちRPG同好会の仲間たちは、各自の胸に秘めた想いの実現に向けて、いよいよ本格的に行動を開始する…。




主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。

 何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。

 店に集う年下の子供たちからは人気の高い姉貴分だが、従兄の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気の高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー兼防波堤。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお向かいさん。夢莉にあからさまな挑戦を続ける残念トリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。気分屋で周囲から孤立しがちな人見知りツンデレハリネズミ娘。

 複雑な家庭環境のせいでかなり達観した言動も多い。戸籍上は笹嶋ささしま姓となったが、学校内では山科で通している。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格も、詩音たちの影響で丸くなりつつあり。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。美雅のクラスメイト。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルの救世主的な存在で、詩音にとっては微妙に気になる存在。



《その他の人物たち》


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に早熟可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、環との経緯から生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。

 相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女。本名は「大路おおじ まどか」。

 過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。


宮津みやづ 綺夏あやか

 美雅のクラスメイトの明朗少女。クラスで孤立しがちな美雅を気にかけ、様々な変化のきっかけを作る。やがて美雅にとってかけがえのない親友となる。

 美味しいものと可愛いものに目がない現代っ子で、アクティブな行動派のわりに細部はかなり大雑把な性格。躊躇する人の背中をそっと押すのが得意。


越谷こしがや れん

 詩音のクラスメイト。突然詩音に大胆告白をした、もう一人の勇者。

 落ち着いた穏やかな性格だが、詩音に関してはかなりの情熱家で、涼太やジョナサンを仮想敵に考えている模様。

 洞察力に優れ、佐伯先生より早く詩音の長所に気付くなど侮れない存在。


吉川よしかわ ひびき

 詩音のクラスメイトで、越谷の友人。詩音の事になると見境のない越谷の手綱を握る役目。口調は荒いが常識人で善人ではある。

 小学生の妹のおかげで、女子に対する希望的感情は希薄。風歌とも仲間感覚でのフランクな友人関係にある。


赤木あかぎ 風歌ふうか

 詩音のクラスメイトで。クラスを引っ張るまとめ役的なさっぱり系。小麦色が健康的な姉御肌。お祭りやイベントが大好きでとことん楽しみ尽くすタイプ。

 体育祭の男女混合騎馬戦で詩音や越谷、吉川と組んだことで、思いがけず詩音と越谷の、というより詩音の相談相手になっていく。


◆85 迷う事なき決断



 神楽本家の話し合いはなおも続いていた。


 佐伯先生の隣で未だ興奮気味の樟葉は、先ほどの父、墨染の発言に猛烈な抗議の意思を示す。


 「それがどう問題なのですか、お父様? 確かに短い間の関係で難しい事もあるでしょうが、別に中学校に限らず何にだってそういう事はあるでしょう?」


 樟葉の訴えは理解できる。人生は出会いと別れの繰り返しであるのだから、その縁が長く続かない間柄、関係性というものもあるだろう。


 座っていた椅子から腰を浮かして、勢いのままに反論の言葉を続ける樟葉の様子に驚きながら、墨染の隣の母が静かな物腰で宥めにかかる。


 「まったく落ち着きのない…。仮にも貴女自身が選んだ殿方の前で…」


 「それは…、でもお母様、今それは関係ないでしょう?」


 そんな二人のやり取りを見ながら、墨染は改めて説明を始める。


 「私はね、中学校の教師という職業に対してどうこう言うつもりは毛頭ないし、三年間は短いからもっと長く面倒を見るべきだ、などといった無茶を言うつもりもない…」


 「だったら何故…」


 樟葉の勢いは衰えず、熱く鋭い視線が父へと注がれていた。


 「人生とは、それがどのようなものであれ、繰り返すと同時に引き継がれていくものだ。その人個人の体験や経験は当然として、さらに両親や親戚一族、先祖からの係累まで含めて、影響は蓄積していくものだ」


 「それは、わかります。理解できます…」


 佐伯先生も大きく頷いて同意する。


 だが、墨染が言うとおり、恐らくは佐伯先生本人が自覚している以上に問題の根は深いのかもしれない、と樟葉は考え、頭の中でもう一度、改めてこの話題を最初から振り返ってみることにする。


 絶えず人間関係のリセットを繰り返す佐伯先生の選択に対して、墨染は疑問を呈しているという。


 そう、それは佐伯先生が趣味としているRPGのシナリオ構成に似ていた。


 ある時ある場所で集った不特定多数の者たちは、その時々の目的を果たすため、いわゆる冒険を成功させるために、互いの手を取り合い、協力してパーティを組むことが多い。


 もちろん個人の目的が相反する状況のシナリオもあるだろうが、シナリオ全体を俯瞰してみたときには、その「芝居」や「舞台」に対する刹那的な共同作業を行っていると言えるはずだ。


 そのとある世界の冒険譚では、その果たすべき役割が、各々勇者であり魔王であり、騎士であり魔術師であるといった感じなのだが、現実の世界においての役割は、生徒であり先輩または後輩であり、教師である…といった具合に置き換わっただけの話である。


 あるシナリオが、その結末がどう転んだにせよ、あるいは制限時間をオーバーして打ち切りになったにせよ、その時点で、参加していたプレイヤー全員がゲーム内の「キャラクター視点」から、素の「プレイヤー視点」に引き戻されるように、夢物語の世界はとりあえずの終焉を迎えることになる。


 同様に、生徒と先生、先輩と後輩といったお互いの関係も、「卒業」というエンディングを迎えた瞬間、その役割から自動的に解放されてリセットされてしまうのだ。


 いわば、「お互いの関係を解消し、リセットする」ことこそが「卒業」という儀式なのかもしれない。


 そう考えれば、佐伯先生にとっては、絶えず繰り返される三年周期のシナリオ、とある生徒との三年間の冒険活劇を、延々と繰り返していることになるはずだ。


 来年の春、樟葉が中等部を卒業する瞬間も必ずやってくる。


 その時、佐伯先生に対する胸の中の良くわからないもやもやした感情も、詩音たちRPG同好会の困った連中と過ごした楽しい時間も、その全てがリセットされてしまうのだろうか…。


 樟葉にとって、それは些か納得しがたく、理不尽にすら感じられた。


 「仮に、あくまで仮定の話だが、君が樟葉と添い遂げる覚悟を決めたとしよう。その瞬間から君は、リセットの許されないレールの上を走り続けなければならなくなる。妻を迎え、子供が生まれ、神楽本家という伝統をも背負っていく事になるのだから…」


 その言葉に、応接室の一同の間に重苦しい沈黙が広がっていく。


 当事者である佐伯先生はもちろん、先ほどまで興奮気味の勢いで前のめりになっていた樟葉までもが押し黙ってしまう。


 樟葉は浮かしかけた腰を再び深く椅子に沈め、状況を整理を再開する。


 墨染による推察は、概ね次のようなものだろう。


 佐伯先生はこれまでの人生において、何度となく不連続的な生活状況に置かれてきた。


 当然、家族や親類縁者など一部の親しい者との関係は引き続き保たれていたのだろうが、その他の多くの人間関係や周囲の環境をほぼ全てと言っても過言ではないほどに一新し、良く言えば心機一転、悪く言えば過去を無かったものとして、次の新生活へと進んでいった。


 もちろん、それはその人の物事の捉え方、考え方次第という事になるが、切り捨てられて過去のものになっていく、忘却されていく側の存在もそこにはあるのだ。


 例えば小学校を卒業した時、中学校を卒業した時、それぞれでそこまで積み重ねてきた関係も経験も、全て白紙同様に真っ新になっていくのである。


 良い想い出も悪い想い出も関係なく、いわば「そういう事がありました」と言った事実だけが日記のような過去の認識に落ち着いて、現在まで継続し、なお将来をも展望できる連続した関係というものは、そこにはない。


 樟葉はその事に想いを馳せると、何処か少し物悲しく、そして寂しく感じられた。


 確かに中学校の教師という職業である以上、ある生徒との関係はほぼ三年の周期で流れていく。どれほど親しみをもって接しても、三年経ったら無に還ってしまうのだ。卒業してしまえば所詮は他人、過去の人なのである。


 逆にわだかまりやしこりの残る関係でも、三年経てば時効になってしまう。その後も何処かで恨まれ続ける事になるかもしれないが、もはや二度と会うこともない関係なのだから、さほど気に病む必要もないだろう。


 そういう意味で、佐伯先生にとってはかなり理想的な、自然体で取り組むことができる職業、言うなれば天職といった環境なのだろう。


 しかし、樟葉は思う。


 その僅か三年間という短い期間であっても、一瞬で通り過ぎていく忘却の存在だとしても、真剣に悩み、憧れ、慕っている現在の自分を含めて、そのような様々な感情を抱く生徒たちは、夢でも幻でもないのだ、と。


 例えばこの先、樟葉の想いが成就しなかったとしても、同じように恋に胸を躍らせている詩音をはじめ、多くの生徒たちにとって、佐伯先生という人物は単なる通過点の―道路脇の電柱や街路樹のような―どうでもいい存在ではないはずだ、と信じている。いや、そう信じたい。


 そう、信じているからこそ、興味を持ち、関心を抱き、恋をするのだから。いくら樟葉でも、もちろん変わり者の詩音でさえも、道路脇の電柱や街路樹に恋はしないはずだ。


 もしかしたら、佐伯先生は心の中に、樟葉や詩音の知らない大きな闇―それを佐伯先生自身が自覚しているかどうかも疑わしいものだが―を抱えているのかもしれない。


 それは一概に悪い事で、直すべき悪癖だとはいえないかもしれないが、樟葉にはやはり寂しく、悲しく感じられてしまうのだ。


 蓄積されていくしがらみの中で、佐伯先生の心がその重圧に耐えられなくなってしまうのだとしたら、いったい樟葉は佐伯先生のために何ができるというのだろう。リセットの魔法のかわりの何かになることなんて、果たして樟葉にできるのだろうか。


 樟葉自身が佐伯先生を支えるとか、救いの手を差し伸べるとか、そこまで思い上がってはいないつもりだ。でも、傍にいて話を聞くくらいは自分にだってできるかもしれない。


 もしそれができるのならば、樟葉は迷うことなくそうして佐伯先生のすぐ傍で見守っていきたい、一緒に暮らしていきたいと心より願った。


 だからきっと、これは恋…もしかしたら愛なのかもしれない、と改めて樟葉は自身の心の内を自覚する。


 「そうですね…、たとえ先生がどうであれ、お父様の見立てがどうであれ、私の秘められた内面、その可能性に気付かせて戴いた大切な存在である事に変わりはありません。私の考え、想い、尊敬の念とお慕い申し上げる心情に、些かも変わる所はありません」


 そこまでを唐突に述べた樟葉は、一度言葉を止めて大きく深呼吸をすると、まだ混乱の表情で俯いたままの佐伯先生に温かい慈愛の視線を注ぎながら、再び心からの一言を紡ぎ出した。


 「改めてお願いします。佐伯先生、私と一緒にこの先の未来を過ごしては戴けませんか? 何もかもが無くなって、先生との思い出まで消えてしまうのは、あまりにも悲しくて、切なくて…、何より私自身が納得できません!」


 「樟…神楽?」


 戸惑うばかりの佐伯先生は、驚きの表情を浮かべたままで、樟葉の思いつめたような表情を見つめ返すことしかできない。


 「今は…少なくとも今だけは、生徒と先生ではなく、『樟葉』と呼んで戴けませんか、佐伯先生? そして私を、この神楽樟葉を、一緒に思い出を紡ぎ、記憶し、語り合っていける…そんなパートナーに選んでは戴けませんか? 神楽の跡取り娘としてではなく、先生を…あなたを慕う一人の人間として、お傍に置いて戴けませんか?」



挿絵(By みてみん)



◇86 終わりゆく日常 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


●ご注意

 この小説は、原則的に毎週月曜日の10:00に更新する、連載形式の作品です。

 現在は、第七章を2024/9/30より掲載中となります。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。

 ずるずると続いているこの作品もついに七章まできました。もう暫くは続きますので、これからも是非よろしくお願いします。


 近頃は、少しずつTRPGという趣味も復活しつつあるようで、様々な趣向を凝らしたシステムをショップで見かけるようになりました。

 奥が深く、一見とっ付きにくい世界ではありますが、見ているより体験するほうが簡単なものなので、ご興味を持っていただければ嬉しいです。


 挿絵画像は相変わらずの、KISS「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。シーン適合率が低いのはお許しください。

 AIイラストも現在試行錯誤中ですが、なかなか絵柄とキャラが安定しないので困っています。

 ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。



■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを試験公開中。「よよぼう」関連以外もあります。

■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、只今、絶賛放置中

■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定

■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)


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