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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
精霊たちの舞う空に
83/112

◇82 初デートは賑やかに

「よよぼう」第六章までのあらすじ


 RPG同好会を設立した中等部二年の西原詩音にしはら うたねは、個性的な仲間たちと親交を深めていく。そして、もうひとつの詩音の願いは、担任教師の佐伯十三さえき じゅうぞうとの恋の成就だった。


 季節は巡り、晩秋の体育祭で先輩の神楽楠葉かぐら くずはとの勝負に負けた詩音は、それでも気丈に自身の努力を続けるが、その裏で樟葉の計画が着々と佐伯先生を追い詰めつつあった。

 一方、詩音に想いを寄せるクラスメイト、越谷漣こしがや れんの存在も明らかになり、詩音の周囲の恋模様はさらに混迷を極めていく。


 クリスマスを目指して、詩音たちRPG同好会の仲間たちは、各自の胸に秘めた想いの実現に向けて、いよいよ本格的に行動を開始する…。




主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。

 何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。

 店に集う年下の子供たちからは人気の高い姉貴分だが、従兄の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気の高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー兼防波堤。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお向かいさん。夢莉にあからさまな挑戦を続ける残念トリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。気分屋で周囲から孤立しがちな人見知りツンデレハリネズミ娘。

 複雑な家庭環境のせいでかなり達観した言動も多い。戸籍上は笹嶋ささしま姓となったが、学校内では山科で通している。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格も、詩音たちの影響で丸くなりつつあり。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。美雅のクラスメイト。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルの救世主的な存在で、詩音にとっては微妙に気になる存在。



《その他の人物たち》


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に早熟可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、環との経緯から生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。

 相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女。本名は「大路おおじ まどか」。

 過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。


宮津みやづ 綺夏あやか

 美雅のクラスメイトの明朗少女。クラスで孤立しがちな美雅を気にかけ、様々な変化のきっかけを作る。やがて美雅にとってかけがえのない親友となる。

 美味しいものと可愛いものに目がない現代っ子で、アクティブな行動派のわりに細部はかなり大雑把な性格。躊躇する人の背中をそっと押すのが得意。


越谷こしがや れん

 詩音のクラスメイト。突然詩音に大胆告白をした、もう一人の勇者。

 落ち着いた穏やかな性格だが、詩音に関してはかなりの情熱家で、涼太やジョナサンを仮想敵に考えている模様。

 洞察力に優れ、佐伯先生より早く詩音の長所に気付くなど侮れない存在。


吉川よしかわ ひびき

 詩音のクラスメイトで、越谷の友人。詩音の事になると見境のない越谷の手綱を握る役目。口調は荒いが常識人で善人ではある。

 小学生の妹のおかげで、女子に対する希望的感情は希薄。風歌とも仲間感覚でのフランクな友人関係にある。


赤木あかぎ 風歌ふうか

 詩音のクラスメイトで。クラスを引っ張るまとめ役的なさっぱり系。小麦色が健康的な姉御肌。お祭りやイベントが大好きでとことん楽しみ尽くすタイプ。

 体育祭の男女混合騎馬戦で詩音や越谷、吉川と組んだことで、思いがけず詩音と越谷の、というより詩音の相談相手になっていく。


◇82 初デートは賑やかに



 晩秋の気配もすっかり深まりつつある月末の日曜日、中等部三年の女子生徒、神楽樟葉かぐら くずはに神楽本家の屋敷に招かれたRPG同好会の責任者、国語教師の佐伯十三さえき じゅうぞう先生は、朝一番から驚かされることになった。


 休日らしくいつもより僅かに遅く起床して、冷蔵庫の中の残り物の食材で適当に朝ご飯を済ますと、これまた休日らしく碌に着替えもせずに、垂れ流しになっているテレビのニュース番組を眺めていた。


 約束の時間までまだ少し時間がある。少しうとうとしそうになりながら、気がつくといつの間にかニュース番組は終わって、少女もののカラフルなアニメが始まっていた。


 ―あ、これ、何処かで見た事あるなぁ…―


 それは春先にRPG同好会が発足した当初に、発起人である担任クラスの中二女子、西原詩音にしはら うたねが披露していた魔法少女のコスプレ衣装にそっくりだった。まぁ、この番組が元ネタなのだから、当然といえば当然の話ではあるが。


 そんなことを思いながら、ぼんやりとその番組を見ていると、その主人公の凛々しい魔法少女がまるで詩音本人であるように思えてくるから不思議である。


 ―まぁ、あいつの場合はどう転んでも、こうも格好良くはいかないか…―


 いつも半ベソ状態での涙目で、縋るような上目遣いに自分を見上げてくる、必死な詩音の視線を思い出し、何だか微笑ましいようにも、少し呆れてしまうようにも感じながら、佐伯先生の口元が思わず緩んでしまう。


 その時、狙いすましたように玄関のチャイムが鳴った。


 一人暮らしの安アパートである。休日のこんな時間に約束もなく押しかけてくるのは、悪質セールスか気まぐれな生徒くらいのものだ。


 「あいよぉー」


 普段学校で見せている最低限の威厳は何処へやら、極めて投げやりな返事とともに、僅かに玄関の扉を開く。


 だが、そこに立っていたのは、佐伯先生の予想もしなかった人物だった。


 「お早う御座います、佐伯様。少々お迎えに上がるのが早う御座いましたか、失礼致しました…」


 パリッとしたスーツは高級そうな雰囲気が一目瞭然の仕立てで、立ち姿勢にも僅かな揺らぎすらない。きちんと整えられた髪型もすっきりとした顔立ちも、まさに紳士といった風格の好青年だ。


 「えっ…とぉ?」


 「藤堂とうどうで御座います。佐伯様には以前、軽井沢の別荘で一度お会いしておりますが…」


 「あぁ、あの時の…。その節はお世話になりました」


 丁寧なお辞儀とともに、藤堂は佐伯先生に改めて自己紹介をする。


 藤堂と佐伯先生は一度だけ、夏合宿の折に会っているのみだが、詩音たち他のRPG同好会の面々とは、神楽本家の勉強会などでも度々面識のある間柄である。


 「いえ、お気になさらず…。ところで、大変恐縮で御座いますが、本家屋敷にて樟葉様、並びに当主御夫妻がお待ちです。早急にご支度願えれば幸いです」


 「も、勿論です! こんな見苦しい格好で申し訳ない。せっかくのご招待だっていうのに…。急いで支度するので、少しそのまま待って貰えますか…」


 藤堂の返事を聞かないうちに、佐伯先生は自室の奥に引っ込むと、てんやわんやの一人騒ぎの末に、どうにかこうにか申し訳の立つそれなりの身なりを整える。


 意中の相手とのデートというわけでもないはずなのに、普段の五割増しくらいの気合の入れようだ。まぁ、佐伯先生にとっては、浮かれたデートというよりも大事な商談のような感覚なのだろう。


 散々待たせてしまった藤堂に詫びながら会釈をし、玄関の戸締りを確認して外に出ると、そこには、飾り気のない質素な安アパートとは対照的な、不釣り合いに豪華極まりない黒塗りの高級車が、通行人の興味の視線を浴びつつ待ち構えていた。



挿絵(By みてみん)



 一方、同じ月末の日曜日、山科やましな改め笹嶋美雅ささしま みみやは勝利者の権利を行使して、予定通り行きつけのホビーショップの店員、鷹取謙佑たかとり けんすけとのデートを実行に移していた。


 目的地はお洒落な都心のプラネタリウムと水族館という、デートコースにはありがちな定番メニューである。


 本当なら美雅としては、夢の国のカーニバルをぜひ見に行きたかったところなのだが、さすがに小遣いの前借り数か月分は女子中学生にとって厳しい現実だった。


 もちろん、デートの相手は年上の大学生、謙佑なのだから、その気になればチケット代くらい出してもらう事もできたのだろう。それでも、美雅から誘っておいてその仕打ちはあまりにも理不尽ではないだろうか、と美雅は考えていた。


 それに良く良く考えてみれば、謙佑さえ一緒なら、美雅にとって場所なんて別に何処でも良かった気がする。そもそも、デートそのものが「あること」の前座というか、本来の目的はそこにはないのだから尚更だった。


 そんな美雅にとって、むしろ目下一番の気がかりは、自分たち二人の後をしつこく尾行してくる三人組の存在だった。もっとも、その正体は初めからわかっていたし、目的もほぼ見当はついていた。


 白岡彩乃しらおか あやの宮津綺夏みやづ あやか、そしてジョナサン・ウェリントンである。


 従兄の謙佑に想いを寄せる彩乃は「浮気」が気になるから仕方ないとして、美雅のクラスメイトの綺夏は応援名目の単なる野次馬だろうし、ついでのジョナサンは、例によってそんな二人に巻き込まれた、という感じなのだろう。


 ―そこまでするなら、おとなしく一緒に行きたい、って言えばいいのに…―


 何も気付いていないだろう謙佑に悟られないように、美雅はこっそりと小さな溜め息を漏らす。


 そう、別に謙佑と二人きりである必要もない。確かにデートとしては二人きりのほうが雰囲気があるのだろうが、要するに美雅は謙佑と一緒に遊びに行ける口実が欲しいだけで、おまけの一人二人くらい問題ではないのだ。


 水族館の薄暗い間接照明の展示室で、深海魚っぽいグロテスクな容姿の魚がじっとこちらを窺っている。そんな水槽の中の狭い世界を眺めながら、美雅は自分のつい最近までの境遇を重ねてみる。


 自分の知らない誰かの都合で勝手に連れてこられて、狭い世界での生活を強要されるかわりに、食事だけは取りあえず与えてもらえる。それが幸せなのかはわからないが。


 外の世界には様々な興味深い景色が見えているのに、この狭い世界から抜け出すことは叶わないし、仮に抜け出せたとしても、長く生きていくことはできないだろう。


 やがて思いついたように、美雅は静かな声で謙佑に話しかけた。


 「そういえば、最近、謙佑さんがお店にいない事、多いですね…」


 「あぁ、うん、ちょっと大学のほうが忙しくなってきてね。せっかく来てくれたのに、いなくてゴメンね」


 確かに最近は美雅が謙佑と会うことも少なくなっている。丁度、美雅が謙佑をデートに誘う話をした途端のタイミングだったので、少々不安にもなった。


 もっとも、彩乃から聞くところでは、夜の閉店の近くには店にいるという話だから、美雅と謙佑がたまたま時間が合わないというだけの話ではある。


 それに、端っから美雅が勝手に店を、というより謙佑を手伝いたいと言い始めたわけだから、別に謙佑が美雅に謝る筋合いはないのだ。というか、むしろ避けられていたとしても、美雅が不満を抱く資格なんてないのかもしれない。


 「もしかして、私、迷惑ですか…ね? あ、ほら、彩乃先輩と仲良く店番しているところに、なんか一方的に押しかけてきた、みたいな…」


 そういう気持ちは少なからずあった。美雅にしても、謙佑に好意を持っているのは事実だが、自分がお邪魔虫という立場であろうことは半ば自覚してもいた。もっとも、謙佑に彩乃への真剣な想い、いわゆる恋愛感情があるのかどうかは良くわからないが。


 「気にしなくても大丈夫、彩ちゃんはああ見えて結構、理解力のあるほうだからね。そもそも彩ちゃん、僕の事なんて全然気にしていないと思うよ…」


 「あぁ、うん、そう…ですか、ね…」


 鈍いというか、灯台下暗しというか…。いや、もっと単純に言えば、謙佑にとっての彩乃は、バイト先の仕事仲間、店のオーナーの娘、気心知れた単なる従妹、程度の認識なのだろうか。ライバルながら些か気の毒に思えてくる。


 とはいえ、それでは美雅はそれ以上の認識対象なのか?と問われれば、恐らくそんなことはないはずだ。むしろ、彩乃がいるから…の美雅であって、彩乃の親友の詩音たちでさえ、そういう位置づけなのかもしれない。


 「もうすぐ出口になっちゃうけど、大丈夫? なんかまだ見足りないのはいない?」


 「そうですね、大丈夫ですよ。それより、水族館の次はちょっと…その…」


 少し思案顔をして水族館の大水槽を振り返る美雅は、大きくひとつ頷いて、謙佑の腕に自分の腕を絡ませて、小柄な身体を預けるように寄りかかった。


 「何処か他に行きたい場所でも思いついた? いいよ、折角だから何処でも付き合うよ?」


 「う、うん…。その、ね、私の家に…ぜひ来て欲しいかな…。なんて、ダメですかね…?」


 そう言いながら美雅は潤んだ瞳をこれでもかと謙佑に向ける。寂しげに微笑んで小首を傾げる。自分でもあざといなぁ…と自覚しつつ、心の中で苦笑する。


 美雅たちの背後の空間では、柱に隠れた三人組の滑稽なほど動揺する様子が繰り広げられている。


 「みぃちゃんのお家? うん、まぁ遠くないなら別に構わないけど、急にお邪魔したら、ご家族とかにご迷惑なんじゃ…」


 「迷惑なんてとんでもない! むしろ両親揃って、『たまには友達でも連れてきたら?』とか、『別に彼氏でもいいのよ?』とか、毎日のように言っているくらいですから…」


 今までの鬱屈した暮らしとは対照的な、明るく健全な家庭環境が眩しくて、かえって少々戸惑いがちの美雅であったが、新たな母親となった佳苗かなえの文化祭での一言を、今回ついに実行してみることにしたのだった。


 「そんな感じなんで…、何か気分的に、『今日は私の彼氏を連れてくるから、覚悟して待っていてよね!』って、大見得切っちゃったんですよ…」


 「あぁ、それで僕は、その『彼氏の代役』っていうわけなのか。うん、それなら喜んで引き受けるよ」


 「え、うん、まぁ、そんな感じ…かな?」


 何処か釈然としない作り笑いを張りつかせて、視線を彷徨わせる美雅である。結果オーライではあるのだが、それでも何処か納得しかねるものがあって当然、という状況だろう。


 「ほら、皆もそんな所に隠れていないで、ちゃんと着いてきなさい。ストーカーの現行犯で、私の家で取り調べよ!」


 謙佑との話がまとまった瞬間、美雅はくるりと背後を振り返るようにして、柱の陰に潜む「魔物たち」に微笑みながら声をかけた。






 学校への最寄り駅まで帰るいつもの路線の途中、いつもの列車に揺られること十数分のとある駅で、美雅たち一行は途中下車をする。美雅の新しい自宅、笹嶋家の高層マンションを目指すためである。


 とはいえ、目的のマンションは駅から目と鼻の先、徒歩で僅か数分という好立地だった。


 「はえぇー、でっかい…」


 「いっつ、ぐれぇと、きゃっすぅ、ですね」


 彩乃とジョナサンの第一印象はそんな感じだった。


 「別に全部が私の家ってわけじゃないんだから、何もそんなに驚くことはないでしょ? ほら、行くわよ?」


 手慣れた様子でオートロックの解除を試みると、美雅は一同を促し、エレベータホールに向かいながら自宅の両親に帰宅を伝える。ついでに便乗者が多いことも言っておいたが、母の佳苗はかえって上機嫌な様子だった。


 到着したエレベータに乗り込みながら、美雅以外の一同は興奮気味のそわそわ感が止まらない。


 エレベータの中まで広く豪華な造りで、手入れが行き届いているのか築年数が浅いのか、何処もかしこもピカピカに輝いている。


 「それにしても、まさかあやちゃんたちが尾行とはね…。そんなに美ちゃんのデートが気になるなんて、やっぱりお年頃なんだね…」


 「別に美雅がどうしても気になるってわけじゃないんだけどね、あはは…」


 お前だよ、謙佑ぇ! などと正直に言ってしまえたらどれほど楽だろう、と彩乃は思う。曖昧にぎこちない苦笑いを浮かべる彩乃の様子を、あからさまに気の毒そうに同情の視線で窺う美雅である。


 もっとも、この程度で双方の雌雄が決したというわけでもない。どちらかといえば共倒れといった状況だろう。争いとは虚しいものだ。


 やがて最上階で止まったエレベータの扉が開くなり、目の前に如何にも淑女といった雰囲気の中年女性の姿が、皆の視界に飛びこんでくる。


 「いらっしゃい、お友達の皆さん。そしてお帰りなさい、美雅さん」


 にこやかに微笑んで歓待する佳苗は、一人一人の顔をしっかりと記憶しようと、各々に順番に声をかけていく。


 「さん付けは止めてよ、もう親子になったんだし、今さら畏まるのは無しじゃない?」


 「それじゃあ…、はい、美雅、お帰りなさい…」


 「う、うん、ただいま、おか…お母さん…」


 耳まで真っ赤にして、皆の前で何とか美雅は佳苗を「お母さん」と呼んだ。


 美雅の大きな瞳に思いがけず溢れてきた涙をいっぱいに溜めて、美雅自身も驚くほど感慨深く思っていることを改めて自覚する。


 「さ、とにかく皆さん、入って入って! 質素な感じで申し訳ないけれど、まずはお茶にしましょう!」


 佳苗が…母が、温かく自分の友人たちを歓迎してくれているのを目の当たりにして、美雅は笑顔を浮かべたままでぽろぽろと涙を零しはじめた。


 「よしよし…。やっぱり私が思ってたとおり、綺麗で優しい良いお母さんじゃない! 良かったね、美雅…」


 綺夏が美雅の頭を撫でながら、背後からきゅっと抱きしめた。


 綺夏は文化祭の折、初対面の美雅と佳苗の間を気遣ってくれた大切な恩人だ。今回、謙佑やその他のおまけを自宅に招待するきっかけも、元はと言えば、綺夏の言い出した「遊びに行ってもいいですか?」という一言が始まりだった。


 これも何かの縁、感謝しないわけにはいかないだろう、と美雅は思う。


 「ありがとう、綺夏…」


 「うんうん、目一杯感謝しなさいよぉ? うそうそ、私がずっと一緒に傍で見ててあげるから、美雅はがっつり頑張って絶対、幸せを満喫するんだぞっ!」


 「うん…、頑張ってみる…」


挿絵(By みてみん)



◆83 暗雲の密室茶会 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください



●ご注意

 この小説は、原則的に毎週月曜日の10:00に更新する、連載形式の作品です。

 現在は、第七章を2024/9/30より掲載中となります。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。

 ずるずると続いているこの作品もついに七章まできました。もう暫くは続きますので、これからも是非よろしくお願いします。


 近頃は、少しずつTRPGという趣味も復活しつつあるようで、様々な趣向を凝らしたシステムをショップで見かけるようになりました。

 奥が深く、一見とっ付きにくい世界ではありますが、見ているより体験するほうが簡単なものなので、ご興味を持っていただければ嬉しいです。


 挿絵画像は相変わらずの、KISS「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。シーン適合率が低いのはお許しください。

 AIイラストも現在試行錯誤中ですが、なかなか絵柄とキャラが安定しないので困っています。

 ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。



■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを試験公開中。「よよぼう」関連以外もあります。

■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、只今、絶賛放置中

■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定

■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)


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